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ウンベルト・エーコ の 「薔薇の名前」

 1980年に発表されたこの小説は5500万部以上を売り上げた世界的ベストセラー。
 
 物語の舞台は中世イタリアの僧院。そこに派遣された一人の修道僧が僧院で起こった連続殺人事件を解明する様子をその弟子が回想する、という文章を1980年に手に入れた、というちょっと複雑な構成。
 
 時に皇帝と教皇がめまぐるしく入れ替わり主導権争いに明け暮れる西ヨーロッパの1327年。迷宮のような僧院で捜査を続けていくうちに、ある一冊の書物が全ての謎を解き明かす鍵として浮かび上がってくる。はたしてその書物とは一体? といったお話し。
 
 筆者のエーコは記号論の学者であり中世思想の研究者でもあった。そのためかどうか、内容は非常に衒学的。そんな本が5500万部ものセールスを記録しているのは驚くべき事ではあるが、この本はある種の謎解きゲーム本で、「犯人とそのトリックは?」という一番単純な「謎」はもちろん「これはどういう意味か?」とか「これが暗喩しているものはなにか?」とか、あるいは「ここには隠された謎はいくつあるか?」というものまで、無数の謎が詰め込まれている。ゆえにその解答集としても解説本も数えきれないほど出版されている。読み手に合わせていくらでも謎が立ち現れてくるので終わりがない。ある種「いつまでも遊べるゲーム」のような側面を持っていることがここまで多くの読者を獲得できた要因だと考えている。

僧院の平面図。こういった付属資料を参照するのもゲームっぽくて楽しい

 そして、エーコが巧妙なのは、細かいエピソードで構成された部分と小説全体とを別な原理で作動させている事。それはAIにおける「層の理論」に近い。
 
 当時48歳のエーコがその生涯の考察を詰め込んだ、虚実入り乱れた壮大な嘘。そこに仕掛けられた最後の難題が「薔薇は実体なのか名前なのか?」
 量子力学と大脳生理学が解き明かしつつあるかに見えるこの謎に対する回答を考えてみるのもまた一興かと。


さて、この薔薇の名前は?

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