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NHK講座「古代ギリシャ創作史」アポプードバリア自由研究!


はじめに

このnoteは、NHK講座「古代ギリシャの創作史にせまる」(2025年10月~2026年3月)を受講していた私こと江守による、
追加の自由研究をまとめた内容です。
以下は講座を受講していないと分からない話です。ご了承ください。

あのレリーフはどこから?

講座第6回にて、「アポプードバリア」という話がありましたね。

あそこに添えられていた画像の彫刻って、まさかアポプードバリアの説明に添えるために作られたのでしょうか。
それとも都合よく、偶然にあのレリーフが存在したのを利用したのでしょうか。
そんなちょっとした疑問がありました。

それがですね、壺絵を探していた時、たまたまGoogle検索であのレリーフを見かけたのです。
それはEpiskyros(エピスキロス)というものの紹介記事でした。

エピスキロス?とは?

①「アテネ暮らし」文化系の記事より(リンクは最後にまとめてあります)

アテネ暮らし、みたいな文化系の記事ですね。
古代ギリシャでエピスキロスという球技があり、これを古代のサッカーであるとして紹介する内容のようです。
この記事では、この画像のことを
“A vase on display at the National Archaeological Museum, Athens shows a depiction of a young Greek athlete, balancing a ball on his thigh. It is this same vase that inspired the design of today’s European Cup football trophy.”
(アテネ国立考古学博物館に展示されている花瓶には、太ももの上にボールを乗せてバランスを取る若いギリシャ人アスリートが描かれている。この花瓶こそが、今日の欧州カップのサッカートロフィーのデザインの着想源となったのである。)
と書いています。(翻訳:Google)

エピスキロスとは?何ぞや?

まず「エピスキロス」で画像検索し、世間にどういうイメージが流布しているかを見てみます。

「エピスキロス」で画像検索した結果

うーん、日本語だとほぼ例がないですね。
あのレリーフは2件だけ見えます。
今度は英語「Episkyros」で検索をかけます。

英語「episkyros」で画像検索した結果

この画像では検索結果の最初から20件を表示していますが、
そのうち9件があのレリーフですね。
あのレリーフ以外にEpiskyrosのイメージとして使われている画像は11種類もあり、ばらばらです。エピスキロスといえばあのレリーフ、という状況のようです。

何でもWikipediaに訊く私。
エピスキロスとは、で調べると、英語のページがありました。日本語verはないです。

②Wikipediaの記事

Wikiいわく。
エピスキロスとは、古代ギリシャの球技である。12~14人のチーム同士でプレイする。手も使い、フルコンタクトが許されている。……
(中略)
……このゲームはラグビー、アメフト、Calcio storico fiorentinoとコンセプトではcomparableである。
とあります。
んん? 冒頭を見る限り、サッカーの起源とは書いてないですね。

そして冒頭に、あのアポプードバリアと同じ画像が載せられています。
画像の注釈を読むと、
“Ancient Greek youth practicing with a ball depicted in low relief. Now displayed at the National Archaeological Museum, Athens.”
おお、あのレリーフ、アテネの国立考古学博物館に所蔵されているのですね。

ところでwikiのページを読んでいくと、

中央あたりの文章をご覧ください

このレリーフが、Vaseの彫刻って言ってますね。
冒頭の「アテネ暮らし」でもVaseって言ってたな…

Vase?
日本語なら「壺」「甕」「水差し」「花瓶」に該当します。英語、vaseに複数の意味込めすぎでは?
古代ギリシャ的にはどれでしょう。イメージするなら「壺」でしょうか。
でも、大理石の壺…?
大理石の壺…??

大理石の彫刻というなら、それこそ神殿の破風とか柱とか、もしくは単独の人物像を想像します。
壺というなら、アッティカなら陶器テラコッタの壺を思い浮かべますね。
大理石で作った壺って、存在するのかな…?
皿くらいなら分かりますけど。
壺は何かを入れるためのものだから、中をくり抜きます。大理石をくり抜くのは技術的に大変そうだけど…。

ちなみに、日本語のwikiで「サッカー」のページを見てみると、
あのレリーフが! 載っています!

③Wikipedia「サッカー」の記事より

ここでは、
“紀元前400~375年に作られたピレウスの墓碑”
とされています。
vaseっぽい言葉はないですね。

Google Lens登場

ではここで、別方向から調べてみます。
このレリーフ自体を、Google lensで読み込んで検索してみましょう。

レリーフをGoogle lensに見せた結果

出典元は、おや、Wikipediaです。
“Ancient Greek Football Player.jpg”というファイルのページを示しています。
元データはWikimedia Commonsにあるようです。そこへ飛んでみます。

④Wikimedia Commonsのページより

解説(英語)をざっと訳すと、
古代ギリシャのサッカープレイヤーで、ボールのバランスをとっている。ペンテリコン産の大理石の墓碑の一部で、ピレウスで発見され、紀元前400~375年のもの。

で、その続きを一部抜粋します。

“Only part of of the shaft of the stele survives, adorned by a relief loutrophoros.
The figure of a nude youth practicing with a ball in the palaestra is depicted in low relief on the belly of the vase. His folded himation can be seen on a pillar behind him. The youth is watched by his young servant holding an aryballos and a strigil.”

というわけで、
ルートロフォロスの彫刻で飾られた碑の残存部分、の、軸の一部、と。

Vaseのbelly(腹部)に若者の姿が浮き彫りにされている、と書かれています。
若者を見ている小さい人は、若い召使とありますね。

所蔵している博物館を見てみよう

ではでは、実際に今このレリーフを所蔵しているという、アテネ国立考古学博物館のサイトを見に行ってみましょう。
作品873とナンバリングされたあのレリーフ。確かにここにあるようです。
説明文を見ると、Wikiと大体同じ。wikiはここの文章を転載しているみたいです。

⑤アテネ考古学博物館のサイトより

で、ルートロフォロスって何ですか?

調べると、Loutrophorosとは、水瓶の種類のようです。
Wikiには日本語のページがないので、英語verです。

⑥Wikipediaの「Loutrophoros」の記事より

細長い首で、両サイドに持ち手があり、沐浴の水を運ぶ用の水瓶とあります。
婚礼用、または未婚で死去した若者の葬礼用、と。
おお! ここでつながるんですね。

参考までに、文献もちょっとだけ見ましょう。
日本語で、古代ギリシャの墓碑というレア極まりない検索をすると見つかった文献があったので、そこから一部抜粋して紹介します。早稲田大学の田中さんという方の文献です。時間のある方は是非全文のご一読を。面白いです。(リンクは末尾にあります)

“結婚が当時のギリシア人の価値観の中で大きな位置を占めていたことは、ルトロフォロスが墓標のモチーフとして用いられていたことからも窺える。アッティカ地方では、未婚のうちに命を落とした若者の墓には、結婚式の場でのみ用いる壺ルトロフォロスを立てたり、ルトロフォロスを浮彫の図像中に取り入れたりする習慣もあった。現世で成し遂げられなかった結婚をせめてあの世で経験させようという思いが、ここにも見て取れる。”

アッティカ、つまりアテネを含む地域ですね、
あのあたりでは墓碑によくある習慣だったということですね。なるほど~

古代ギリシャの墓碑って?

ここまで来たら、古代ギリシャの墓碑とはどんなものなのか? と思いませんか?
だって墓のかたちなんて、文化や宗教でものすごく違います。
日本の中でも地域差があるくらいですからね。

ギリシャの墓碑と日本語で検索しても、まあそんなにないんですけど、
書籍は2件ありました。(詳細は下記の参考文献をご参照ください)
『死者を記念する―古代ギリシアの墓辺図研究―』という本は、目次を見てもルートロフォロスの項があります。しかし1万7千円…
1万7千円…()
『アッティカの墓碑』という本は、1989年と少し古いこともあって意外にお手頃価格。わぁ…

買っちゃいました☆ ぽちっとな。
届くのが楽しみです。

ところで、去年2025年にギリシャへ行った時に、あちこちの博物館で
私、実際の墓碑を見ているんですね。
写真フォルダを漁ると、いくつか発見。

ミコノス考古学博物館にある墓碑

これが手持ちの写真の中で、一番分かりやすいかと。
柱石の上に大理石(かな?)の彫刻でできた墓碑が乗っているという形。
左に座っている人が、弔われている死者で、
右に立っている人が遺族ですね。(違うパターンもあるようですが)
こういうのが墓碑の基本スタイルだと思われます。

では、「loutrophoros relief stele」(steleは墓碑とか墓石、記念碑の意味)
で検索してみると、
うわぁ! 結構イメージに近いものを発見しました。

⑦Hagnostrateの墓碑

Wikimedia commonsからの画像ですが、
Hagnostrateという少女の墓碑です。
未婚だったまま亡くなったのでしょう、左側に大きな水瓶があります。
これが多分ルートロフォロスの彫刻なのでしょう。
(ちなみに、この墓碑自体はアテネ考古学博物館にあるようなのですが、
サイトで見つけられませんでした。何で?)

つまり?(まとめ)

つまり…
あのレリーフは、アテネの若者が未婚のまま死亡したので、
その墓碑の一部に水瓶ルートロフォロスの模様を彫刻し、
その水瓶の装飾として、
若者のボール遊びをしていた在りし日の姿を薄い彫刻で残したと。

つまりざっくり省略すると、あのレリーフは墓碑の一部です。

「ボール遊びの若者のレリーフ of 墓碑」。

で、正確に言うなら、
「若者のレリーフ of vaseのレリーフ of 墓碑」ですね。

雑コラですが、水瓶vaseの腹部bellyにレリーフがあるって、こういう感じですね。

Hagnostrateさんごめんなさい

水瓶全体としては破損して、腹部のレリーフだけ残っている状態ということなので、上の雑コラになりました。まぁ雰囲気が伝われば…。

これを、文章だけ見た人が途中の「若者のレリーフ of vase」だけで切ってしまうと、

私みたいに「大理石でできたvaseがあるのか…?」と思う人がいるわけですね。
まぎらわしいwww

とりあえず、これですっきりしました。
あのレリーフが、アポプードバリアのページのために作製されたのか?という疑問は、これで否定されました。
アテネで死んだ若者の墓碑に刻まれたレリーフでした。
彼が遊んでいたのが、エピスキロスという球技かどうかは不明ですが、少なくともアポプードバリアではありませんね(笑)

おまけ:あのレリーフは今もサッカーで生きている

さて、ここからはおまけですが、
Wikiのエピスキロスの説明に、FIFAが出てきていました。
エピスキロスが古代のサッカーのひとつだと、FIFAは認めているという話です。
Google Lensのところでも出てきましたが、サッカーのUEFA欧州選手権のトロフィーに、デザインとして使われているとありましたね。

以前仲間内で、FIFAワールドカップのトロフィーは勝利の女神ニケの姿という話があり、
軽くggって見たことがあったのですが、
UEFAの話は聞いたことありませんでした。これは調べてみなければ!

略称を見てもサッカーを知らない私にはピンときませんが、
FIFAは国際サッカー連盟、そしてUEFAは欧州サッカー連盟の略称なんですね。
ではUEFAのトロフィーを探してみましょう。

まずUEFAの公式サイトを見に行ってみましたが…
トロフィー特集なんて都合のよいページはありませんでした。
あちこち見てみましたが、写真にトロフィーが入っているもの自体あんまりない!
仕方なくUEFA公式サイトを出て、英語で「Trophy of eurocup」で検索をかけると…

トロフィーの検索結果

いくつかトロフィーの形が違うものもありますが、
どれもあのレリーフの絵柄は見当たりません。

言語を変えて、日本語で「ユーロカップ トロフィー」で検索してみます。

⑧出てきたのはWikiの「UEFA欧州選手権」ページ

どうも、トロフィーの正面はUEFAのマークが入っていて、あのレリーフはないようです。
トロフィーの裏側が見える画像を探します。

2016年の画像が見つかりました。ロナウド選手がトロフィーを抱えています。
これは…ばっちりレリーフの絵柄が見えてます!

⑨時事通信の記事から


こっちの方が、レリーフの絵柄が良く見えるでしょうか。

⑩Independent社の記事から

このトロフィーはアンリ・ドロネー杯という名前で、UEFAの初代事務局長の名前が付けられているそうです。
やはりヨーロッパは、ギリシャ・ローマを自分たちのルーツだとするからこそ、このレリーフをトロフィーのデザインに用いたということでしょうか。

ちなみに先ほど触れたFIFAのトロフィーを参照しておきますと、

これが初代のトロフィー。勝利の女神ニケのデザインですね。

⑪FIFAワールドカップ初代トロフィー

2代目はニケではなく、地球を背負っている人間だそうです。

⑫FIFAワールドカップ2代目トロフィー

で、3代目。もはやトロフィーはニケどころかカップ型ですらありません。ティファニーのデザインだそうです。

⑬FIFAワールドカップ3代目トロフィー

アポプードバリアの話から、現代のサッカーなんて随分遠いところまで来ました(笑)

ここで楽しく終わってもよいのですが…

冒頭の「アテネ暮らし」のページで、気になる点があります。

それは記事の中で、あのレリーフについて紹介している文章です。
(この記事内でレリーフに言及しているのはこの一文だけです)

赤い傍線は私が引いてます

A vaseで書き出す、ということは…
おま、それ「レリーフ of vase」じゃん!!!(同じ穴のムジナ)
多分これ書いた人は、「墓碑のレリーフ」じゃなくて「vaseのレリーフ」って思ってますよね?ね??

出典元を確認、大事…(お辞儀)

江守

参考文献/引用文献

参考文献:
◆NHK講座「古代ギリシャの創作史にせまる」第6回(講師:藤村シシン氏、2026年3月20日開講)

お名前しか出していませんが、書籍ふたつはこちらです。

◆篠塚千惠子『死者を記念する―古代ギリシアの墓辺図研究―』2017年、中央公論美術出版

◆澤柳大五郎『アッティカの墓碑』1989年、グラフ社

◆UEFA(欧州サッカー連盟)公式サイト:


以下は引用文献です。文中の番号と対応しています。

①アテネ暮らしの古代サッカー紹介記事


②エピスキロスEpiskyrosのページ


③サッカーのページ


④若者のレリーフのページ


⑤アテネ国立考古学博物館


 ⑥ルートロフォロスLoutrophorosのページ


⑦Hagnostrateの墓碑のページ

 
⑧UEFAのページ 


⑨時事通信の記事


⑩英Independent社の記事


⑪FIFA初代トロフィーの画像


⑫FIFA2代目トロフィーの画像:東京新聞


⑬FIFA3代目トロフィーの画像:ティファニー
(リンクが貼れないようなので、URLだけ貼っておきます)

https://www.tiffany.co.jp/stories/guide/sporting-trophies/soccer-trophies/


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