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香港が一番素敵だった頃の映画だと思う『恋する惑星(重慶森林)』 レストア版

【 1980年代後半に訪れた都市 】

新婚旅行の次に海外に行ったのは香港だった。
パートナーにいつだったか訊ねると1987年とのことだ。
この頃、香港という都市はとてもキラキラと輝いて見えた。
アジアの金融センターとして地域経済のハブになっており
文化的にも香港映画の黄金期で面白い映画が目白押し。
『プロジェクトA』『ポリス・ストーリー/香港国際警察』『少林寺』
『男たちの挽歌シリーズ』『友は風の如く』『霊幻道士』…
そしてビクトリア・ピークから見る「100万ドルの夜景」
活力にあふれ、新しいものと歴史に裏打ちされた古いものが
融合している、とても魅力的な都市に映っていた。
後に「攻殻機動隊」で描かれた混沌とした市場いちばや雑居ビル群、
頭上をかすめて飛ぶ大型ジェット旅客機の姿をその時の当りにした。

“世界一危険な空港”と呼ばれた啓徳空港と九龍市街(1998年閉港)

【 久方ぶりに観た“重慶森林” 】

この映画の魅力は既に多くの人が多くの言葉を尽くして語っている。
公開から30年以上経った今でも新しい解釈や感動が語られている。
時を経てもウォン・カーウァイの感性がフィルムを通して伝わってくる。
あの微妙な “手持ちカメラ” のブレと “Step Printing” によるコラージュの
ような疾走シーンや背景の通行人たち。
「0.1秒」の出会いと離散。若さの熱量エネルギー。人生の不思議Wonderさ。
朝方の夢を思い出そうとしても端からどんどん消えていくあの感覚。
この映画はそんな感覚の不思議の国の世界に引きずり込まれる。

第1部の始まりは Michael Galasso の「Baroque」。
重なるバイオリンの旋律と咽び泣くようなシンセっぽい音が響く。
通りも屋台も店舗もモウのアパートも皆狭く雑然としている。
香港は人も街も時間も重なって過密なレイヤーなのだろう。
頭上をジェット機が飛び過ぎていく。残される轟音。
かかる音楽も会話が聞き取れないくらいの爆音だ。
手持ちカメラで隣から覗き見するようなアングル。
ビュンビュン、グルグル、パッパパッパ、変わる画面。混ざる色彩。
ブロンドの髪、サングラス、磨かれたハイヒール、レインコート…
裏切った男を撃ち殺してブロンドのウィッグを捨てて去っていく
麻薬ディーラーの女(ブリジット・リン)。
5月1日賞味のパイナップル缶を一晩で30缶も食べた男に
5月1日の誕生日「おめでとう」の伝言を残して…

ブロンドヘアー好きの “白人に向かってぶっ放す

人も仕事も言語も街並みも関係性も何もかもが混沌としている中で
絶妙にバランスを保っている。それがあの当時の香港なんだろう。

第2部の冒頭は「カリフォルニア・ドリーミング」
やる気のない短髪でボーイッシュなフェイ・ウォンが可愛い。

“ミッドナイト・エクスプレス”という軽食スタンド  アラン・パーカーへのオマージュか

啓徳空港、口説いたCA、黒のブラジャー、狭いアパート、じゃれ合う2人、白のランニングとブリーフ、重慶チョンキン大厦マンションのエスカレーター。
カセットテレコの『カリフォルニア・ドリーミング』の音量を絞る。
 フェイ「昨日CAの女の人が来て手紙を置いていった」
 663号「後で」
(爆音でかかる)『夢中人』
 フェイ「手紙は?」
 663号「今度取りに来る」
ジェット旅客機が頭上を飛び交う九龍市街地。

カリフォルニア(California / 加州大廈)で待ちぼうけの663号

香港旅行の2日目の夜に、九龍市街のアパート群を周回する
二階建ての路線バスにパートナーと乗った。どこをどう回るのか
分からないまま「周回のバスだからそのうち元に戻るだろう」と
エイ!っと二人で飛び乗った。香港の住宅地域を見たかった。
ダブルデッカーのバスは上も下も予想以上に混んでいる。
平均的な市民が住む高層アパートは概ね山の方に建っている。
山に向かって道は右に左に曲がりくねりゆっくり登っていく。
停留所に止まる毎に一人また一人と乗客が降車していく。
乗車してくる人はほとんどいない。外の風景はどんどん闇に
包まれていく。九龍の住民は夜でも家の外に出ている人が多い。
ドラム缶で火を焚いている人たちもいる。そのゆらゆら揺れる
炎と人の影、独特の匂いと山肌に建っている高層のアパート。
突き出た物干し竿にむき出しのエアコンの室外機。網のような電線。
携帯電話も、ましてスマホなど無かったあの頃。どこをどう通って
いるのか全く分からなかったが、なぜか危ない感じはしなかった。
生ぬるい風を感じながら窓越しに外の風景をボーっと見ていると、
乗客がまばらになったバスはゆっくり下り始めた。


「私は夢遊病よ」と身体をくねらせてうそぶくフェイ。
ボロボロのタオル。部屋を覆う大小のぬいぐるみ。
熱帯魚の水槽。そこに突っ込む飛行機模型。大量のイワシの缶詰。
“LOFT” のビニール袋(当時、香港西武の中にコーナーがあった)
フェイのクニャクニャ踊りが彼女の性格や趣味嗜好を表している。
女はどこでもよく寝る。
男は鈍感で諦めが悪い。
フェイが訊く。
「どこに行きたい?」
663号が答える。
「君の好きなところへ」

1年経って制服と私服が逆転  CAの痕跡を消そうとして自分がCAになるという因果

寝ている女の脇で何もしないモウも663号も “紳士” だよ。

※この映画が公開された3年後の1997年7月1日。
 香港の主権が1842年以来155年ぶりにイギリスから
 中華人民共和国へ移譲された。

香港は少し変わってしまったけど
この映画の魅力は少しも変わっていない

王菲フェイウォンの「容易受傷的女人」置いときます(原曲:中島みゆき / ルージュ)


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