喉頭形成手術(甲状軟骨形成術 Ⅰ型) 2回目のチャレンジ 朝から強風
【 am 6:00 : 起床 】
起床時間になり室内照明が点灯された。
ベッドに身体を起こしてゆるゆるとストレッチをする。
手術中に足でも攣ったらシャレにならない。
硬くなっている筋肉と筋をゆっくり伸ばしてみる。
無理しない程度にそっと。笑ってしまうくらい硬い。
脛を伸ばしていると足の裏が攣りそうになる。
腿裏を伸ばすと臀部と腰の筋が引っ張られる。
人間の身体はどこもかしこも繋がっている。
2時間前に柔軟性を求めてもそれは無理ってものだ。
日ごろの行いはこうやって報いが来る。
「自業自得・・・」
一向に伸びない身体に毒づいてみる。
【 am 7:01 : 館内放送 】
「コードブルー、コードブルー、4番病棟!
コードブルー、コードブルー、4番病棟!」
初めて聞いたリアル “コードブルー”
着替え品を出していた手が一瞬止まる。
【 am 7:55 : 準備 】
手術着に着替えて「おむかえ」を待つ。
貴重品はセキュリティボックスに仕舞って
鍵はナースセンターに預けることになっている。
財布とスマホ、腕時計とPCはボックスに収納した。
手術着の下はパンツ一枚。靴下も履いていない。
流石に寒いのでもう一度布団に潜り込む。
目を瞑ると唐突に「蓑虫」を思い出した。
子供の頃は冬になるとよく蓑虫の巣を見つけては
中の幼虫を取り出しては掌で遊ばせた。
今や絶滅危惧種らしい。見かけなくなったわけだ。

【 am 8:20 : おむかえ 】
おむかえの看護師さんが来た。
車イスを持ってきている。これで移動だそうだ。
行きは歩きでと聞かされていたがどうも違うらしい。
どこも痛くも痒くもない人間が車イスで運ばれるのは
何か申し訳ないような気分にさせられる。
エレベータで下り、中央手術部エリアへ進んでいく。
途中で一旦留め置かれ、手術室担当看護師に引き継がれた。
担当者が変わるごとに何回も氏名、生年月日を訊かれる。
腕に付けたIDリストバンドでバーコード管理も行っているが
患者本人に都度氏名と生年月日を申告させるのは、それだけ
患者取り違えのミスがあるということの裏返しなのだろう。
機械的管理と担当者による確認、それに自己申告を加えて
間違いのリスクをミニマイズしているのだなと理解した。
【 am 8:40 : 手術室 】
手術台に寝かされて首の下辺りの背中に背枕を入れられた。
顎が上がって首が伸びるような状態になった。
ドクターが茶色の液体が入った容器と綿球鉗子を両手に持って
やにわに近づいてきた。
「〇〇さ~ん、消毒しますね~。ちょっと冷っとしますよ~」
首、胸、顎、頬、耳、鼻、目の周り…。胸から上、顔まで全部だ。
「キョクマ行きま~す」
(キョクマ? あぁ、局所麻酔のことかぁ)
「ちょっと痛いですよ~」
(痛いのはちょっとやだなぁ…あっ、ほんとに痛いぞ!)
首の左側を注射針で刺されて液体が入っていくのがわかる。
1か所3秒ほど。それを5~6か所・・・だったと思う。
ドクターが指で首を押しながら話しかけてくる。
「どうですかぁ?痛いですかぁ?」
「痛くはないです。押される感じはします」
「はい、キョクマOKで~す。モニターよろしく。
〇〇さん、$%&#術、****から始めま~す」
今回の手術は「披裂軟骨内転術」は行わず、隙間が空いた声帯を
押して中に移動させて声帯の間の隙間を少なくすることで声を
出しやすくするというものだ。

左の首の一部を切って甲状軟骨にアプローチし、そこに「窓」を開けて
そこから声帯を押すための「ゴアテックス」を入れる。ゴアテックスは
畳んでも丸めても使えるので便利なんだそうだ。まず前回挿入した
ゴアテックスを取り出しすのだが、結構な力で引っ張っているのが分かる。甲状軟骨と癒着しているのだろう。
途中で「ノミトンカチ!」とか「ヘラ取って」などと言っている。
実際、喉をトンカチとノミで叩いているのが分かる。
声帯という繊細な部位の手術がまるで大工仕事のようだとは。
後で聞いたら骨をずらしたり削ったりするのでそういった作業が
出てくるらしい。「耳鼻科医は力仕事」とも言っていた。
改めてゴアテックスを入れていくのだが、声帯を甲状軟骨側から
圧迫しながら声を出させられて、どこにどの程度ゴアテックスを
詰めていくか探っている。
「はい、い~~と声出して~」
「お名前は何ですかぁ?お年はいくつですかぁ?」
「はい、い~~と声出し続けて~」
淡が絡んだようなザラついた声が一瞬すっきりした声になる。
「ここだなぁ。この感じだなぁ。はいもう一度、い~~」
何度も何度も「い~~」の繰り返し。
「もうちょっとよくできそうだなぁ、、、したいなぁ。んん…
落としどころをどこにするかだなぁ…」と悩んでいるドクター。
「このあたりでどうかな?いいかな?」
突然聞かれたもののどう返答したものか…。
「痰が絡んだようなざらつき感が減ったので、いいかと…」
ということで、位置決めをして出力される声質を確認。
ドクターの判断でゴアテックスに加えてチタンプレートも併用する。
これはチタンがゴアテックスの “浮き” や “脱落” を防いで、その硬度で
微妙な押し込み具合を長期間維持できるからだそうだ。
2時間ほどで術式はほぼ終了した。最後に首の切開部分をホチキスで
パチンパチンと止めていく。

【 pm 4:29 : 術後確認 】
「ゆっくりでいいですから処置室に来てください」
術後の状態を確認するために耳鼻科から声が掛かった。
「いかがですか、状態は?」
スマホのメモを見せる。
『手術した箇所がズキズキと脈動する痛みが出てきました。
首の表面はチクチクします。』
「ある程度はしょうがないですね。あまり痛みが強いようなら
言って下さい。鎮痛剤の錠剤も点滴もありますので」
例によって鼻腔内視鏡を右の鼻から通して声帯の状態を診る。
「あぁ、きれいですね。問題はないですね。」
ということでチエック自体は1分ほどで終了した。
水分も少量ずつなら飲んでもいいという許可が出た。
これで痛みが無ければ言うことなしなのだが、
あまり贅沢は言うまい。

【 pm 6:00 : 回診 】
「〇〇さ~ん、ど~ですか~?」
元気よく施術のドクターが回診に来た。
「あ、元気そうですね。よかったよかった。」
「前回よりは痛みは少ないはずです。」
「明日から普通に食事は出ます。」
「お茶は飲めた?少量ずつなら問題ないです。」
「退院は予定通り1週間後の金曜日なので2日ですね。」
「正月の入院になってしまってごめんなさいね。」
「正月に餅は出ないと思います。」
と言って去って行った。
信頼の置ける良い先生だなと思った。

【 pm 7:00 : Netflix 】
「ストレンジャー・シングス」シーズン5 Vol.2を観て
本読んで早めに寝ます。
やっぱり疲れました。
お腹もすいた。
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