春一番吹く「新しい話」
夫の姉は長年布団屋を営んでいる。
服屋でも美容室でも韓国の田舎の店では、客ではない女性、店長の友達みたいなのが長時間たむろしていることがよくある。
このアジュンマ達は、来る客来る客じろじろ眺めるし、時には客のセレクトに口をはさむし(20世紀には普通の事だった)
客が出て行った後は「さっきの客はどこの誰だ?」という話に花を咲かせる。この手のアジュンマ達が多い店には「買い物に行きたくない!」と思う程、うるさくウザくめんどうくさい存在だった。
外国人の私が「よそ者」だからそう思う可能性もあるが、韓国の若い世代だって同じで、彼らはどんどん「接客」の少ない店に移行した。今や時代的に全てネット購入出来るようになり、義姉の布団屋のような店は昔ほど流行らない。
でも、そういった店は「地域の中高年女性の溜まり場」としての機能を持っている。女性達の背後には子供がいたりそれぞれ人間関係があるので「とことん地方密着型」の強い購買力が存在していて、なんだかんだで義姉の店はいつも客がいる。義姉が加齢で商売が出来なくなる頃までは、全然大丈夫なんじゃないだろうか。
ただ、義姉の店で出くわすアジュンマ達の話は、あんまり明るい話じゃない事が多かった。なんというかこう「人生って上手く行かないね」を共有する暗い感じがあり、すぐに悪者探しが始まる「●●のせいだ、、」に流れる。その前提でないと話が嚙み合わないトーン。恐らくそれはその場を仕切る義姉の人生観ゆえであり、メンバーはそこに合った人が残っていき、人もそれに合わせて無意識に話を調律するせいだと思う。
義姉は、器量良し頭良し家庭良し商売良しの決してそんなに不幸な人ではなく、いっそ「幸せな人」じゃないかと思う。でも誰かがそう言うと義姉は全力で否定する。「誰も私の苦労を分かってくれない」と。時には夜も眠れない程に嘆き、さらには「私は前世での罪が多いから今世で罪を償ってる」とも言う。
ちなみにキリスト教信者の多い韓国では、前世来世の概念はそれほど一般的ではない。しかし、いかに教会や聖堂にせっせと通っていても、人生の一大事(子供の結婚、大きな投資話等)になると、多くの韓国人女性はこっそりムダン(巫女)や寺にお伺いに行く。さらに余談が続くがそうなると韓国の占いでは四柱推命が一般的だ。判定には生年月日が必要になるが「時間」もある方が判定が正確になる。彼氏の親に「生まれた時間を教えてほしい」と聞かれたら、それはどっかで四柱推命のお伺いを立られるのだと思う。日本人の多くが仏教徒のようでありながら、肝心の時は仏教の教えがふっとんじゃうのと同じように、韓国人も建て前はキリスト教で、、とか言ったら怒られるかなあ笑
先日そんな義姉の店に寄った。スープの冷めない距離に住む義姉はしょっちゅう電話をくれる。大体は「●●作ったからもっていきな」で、美味しいもののお裾わけだ。ただ田舎の人はくれる量も多いので「どこがおすそ分け?」な事がよくある。裾どころか「本体?」くらいで時々困る笑。身内にしっかり沢山食べさせたい!という田舎の年輩の韓国人女性の愛情表現の一つだ。
その朝、店にはそれまで見た事のないアジュンマが座ってた。私は義姉に頼まれた用事を済ませて、勧められるままに蒸かしたサツマイモを一緒にパクついた。そのサツマイモはトビキリ美味しかった。
「これ美味しいですね!」
「美味しいね!、うちでこないだ箱で買ったヤツ、大ハズレだったわ~!美味しくないから手が伸びなくて、まだそのまんま」
「美味しくないと、あっても食べないですよね~!そういうのってティギム(天ぷら)にでもしたらそれなりにイケるけど、奥さんティギム作らないでしょ?」
「しないね~。家ではしたことない」みたいな軽い会話を交わしていた。
(天ぷらは韓国では家庭ではあまり作られない)
そのアジュンマは去年まで仕事に出てたのだという。しかし腰が痛くて今年から仕事辞めたのだと。だから平日の午前中なのにここに座ってられるのだと。義姉がそこに入ってきて更に詳しい事情をおしえてくれた。
義姉「ここんちの息子が、今一か月に300万ウォン(32万円位)の小遣い送ってくれるんだって」
私「すごい!前からずっとそんな孝行息子だったんですか?」
奥さん「いや、全然」
義姉「送金どころか、親を泣かせてばっかりだったよ、長いこと」
私「なんでそんなに急に変わっちゃったんですか?」
奥さん「わからない笑」
ということで、去年まで痛い腰を引きずって働きに行ってた奥さんは
今は息子に甘えてゆっくりしてるんだと。息子さんが何の仕事してるのか詳しくは聞かなかったけど(お勤めらしい)、家の借金まで先日息子が綺麗に払ってくれたという。すごい!もうこれはあやからねば!と、私はそのアジュンマにびたっとくっついて座り、手をとり肩を寄せてスリスリさせてもらった。これは伝染りたい笑!もっと話聞かせて!このサロンで「聞きたくねー!」話は何度も聞いたが、こんなの初めて!
その奥さんはその話を自慢するようでもなく「そんなことがあってね~あはは」と可愛くニコニコ笑っていた。ここのサロンでこんな幸せないい話初めて聞いた。義姉に呼び出される度に、団子のように固まっていつまでも喋るアジュンマ達を横目でみながら、嫌な目にあわないように避けつつ、時にちょっと混じったりしつつの15年だったけど。これはびっくり。
何故、急にあの澱んだサロンに「春一番」のような新しい風が吹いているのか、、に実はちょっと心当たりがある。それは女主人である私の「義姉」の変化だ。「私は不幸!」を心で、時には口でも繰り返していた義姉が、それを止めたのかというと、そこまではわからないけれど。とにかく義姉に関してこの所、いくつかの変化があった。その影響で義姉のサロンに「新しい話」が舞い込んでるのじゃないかな、と思った。中高年の女性がニコニコしてるのって、すごくいい。なんかこの女性達のパワーはすごく強い。義姉の事情の話は長くなるので、また別に書くことに。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今まではそうじゃなかったんだけど、急に!」の話を、書きたくなったので大急ぎで書きました。走り書きの書付けのような感じですみません。韓国では三月の頭に新学期が始まりました。段々暖かくなってもうすぐ近所の白木蓮が咲きそうです。木蓮が終わる頃には、薄いピンクの桜が開き始めます。夜の外出時のコートも重く感じるようになってきました。春が近づいていますね~! ありがとうございました。
