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* interview Stella Cole:Z世代が歌うスタンダードが届ける時代を超えた”癒し”(11,000字)

2020年代の、もしくはパンデミック後、興味深い流れがいくつもあった。その中のひとつがTikTokやYouTubeもしくはInstagramなどでのショート動画で人気が出たアーティストだった。その多くは20代前半。若いアーティストばかりだったが、そこで興味深かったのが、トレンドとは無縁と思われる過去の音楽からのインスピレーションだった。

例えば、レイヴェイ(1999年生まれ)。いわゆるグレイト・アメリカン・ソングブックと呼ばれる1930-1950年代ごろの映画やミュージカルにも使われていた名曲や1950年代のブラジルで生まれたボサノヴァなどの影響を消化した彼女のポップソングは若いリスナーに熱狂的に受け入れられ、ムーブメントのようにさえなっている。

またリアナ・フローレス(1999年生まれ)。ボサノヴァやジャズに加え、イギリスのトラッド・フォークをインスピレーションにした彼女の音楽もまた幅広いリスナーを獲得している。

パンデミック中に自身の表現を模索する中でノスタルジックなサウンドを巧みに取り入れた音楽は他にもいくつも出てきていた。グレイト・アメリカン・ソングブックはともすれば「保守的」とも受け止められそうなものだが、それを自分にとって「新鮮」であり、同時に「オーセンティック」なものとして解釈した彼女たちの表現は実際、どこか古くて、でも、確実に新しいものとして響いていた。あらゆるコンテンツを自由にいくらで選択でき、それらをすべてフラットに捉えることができる時代の若者にとって、グレイト・アメリカン・ソングブックもボサノヴァも新しい音楽なのだろう。

レイヴェイやリアナ・フローレスと同じように古き良きジャズのサウンドを歌い、TikTokで人気を集めている若きジャズ・ヴォーカリストがいる。それがステラ・コールだ。

まるで1950-1960年代のセピアの色のフィルムの中にいるジャズ・ヴォーカリストのようにグレイト・アメリカン・ソングブックを歌う彼女もまたレイヴェイらの同世代だ。TikTokのフォロワー数もSpotifyの月間リスナーも80万人を超える。60年も70年も前の曲を彼女はその時代のムードも意識したようにノスタルジックかつロマンティックに歌う。近年のチャートを意識して、最新の手法を導入したりもしていない。でも、そこには今の時代に歓迎されそうな何かが確実にあるのは感じられる。

ステラ・コールは2024年にデビュー作『Stella Cole』を発表した。クラウドファンディングで制作費を集めて作ったこの作品では、サマラ・ジョイのグラミー受賞作でも知られるマット・ピアソンがプロデュースを手掛け、ヴォーカリストの伴奏に定評のあるアラン・ブロードベントがピアノと編曲を担当し、ロマンティックかつオーセンティックなサウンドに仕上がった。そのムードはそのままにビリー・アイリッシュ「My Future」のジャズ・アレンジでのカヴァーが収録されているのもこの世代ならでは、だった。

この新たなスター候補はどんなキャリアを経て成功し、どんな経緯でこの音楽性に辿り着いたのか。東京と大阪での初の来日を前に彼女に話を聞いた。

取材・執筆・編集:柳樂光隆 | 通訳・執筆:丸山京子
協力:コットンクラブ、ブルーノート東京

◉古い映画やミュージカルとの出会い

――10代の頃、どんな音楽が好きでしたか?

10代どころか、2〜3歳の頃から、ジャズ・スタンダードグレイト・アメリカン・ソングブックが大好きで、古いアメリカのミュージカル映画ばかり観てた。『雨に唄えば』『サウンド・オブ・ミュージック』『若草の頃』『メアリー・ポピンズ』…。高校生になって、周りがテイラー・スウィフトや、ケイティ・ペリー、ジャスティン・ビーバーを聴いてた時も、私は変わらずジュディ・ガーランドナット・キング・コールバーブラ・ストライサンドに夢中だった。

――へー、子供のころから今のような趣味だったと。そんな過去の音楽や映画に触れるようになったきっかけは?

2歳の時に観た『オズの魔法使い』。まだ言葉も話せない頃から、映画の曲を歌ってたらしい。「『オズの魔法使い』が観たい」と毎日親にせがんで、1年間それを繰り返してた。よちよち歩きの子供ですら惹きつける何かがそこにあったんでしょうね。

――ってことはご両親が古いミュージカル映画ファンだったんですかね?

もちろん、彼らも子供の頃から親しんできたと思う。まだNetflixやAmazon Primeはなかったけど、『オズの魔法使い』や『サウンド・オブ・ミュージック』は(アメリカじゃ)テレビで年に1回とか2回は必ず放映される映画だから。でも私が『オズの魔法使い』にあまりに興味を示したので、「他にもミュージカル映画はないんだろうか?」って探して、観せてくれてた。ある意味、両親も私と一緒にその世界を知っていったということだと思う。

――子供の頃に、そういったジャズやグレイト・アメリカン・ソングブックを聴き、どんなふうに感じてたんでしょうね。

さすがに3歳の頃のことは覚えてないんだけど(笑)。中学や高校の頃に感じたのは、ストリングのアレンジがとても豊かだったことや、歌声の音色が他とは違うな、ってこと。聴くと心が穏やかになるヴィンテージ感が心地よかったんだと思う。今の音楽って「誰が一番高い音を出せるか」「誰のリフが一番派手か」ということが重視されがちだけど、私は昔のシンプルな歌に惹かれるし、自分でもそういう歌い方をしたいと思ってきた。ただしシンプルと言っても、楽曲自体がシンプルなわけではなくて、実際、ハーモニーはとても複雑だったりするから。

◉ジュディ・ガーランドとバーブラ・ストライサンド

――お好きだったボーカリストは誰だったんでしょうか?

(『オズの魔法使い』の)ジュディ・ガーランドから始まって、高校生の頃はナット・キング・コールやエラ・フィッツジェラルド、そしてフランク・シナトラの3人を一番よく聴いていた。

その後、バーブラ・ストライサンドに夢中になり、ニューヨークに移り、ジャズシーンに出入りするようになってからは、ビリー・ホリデイサラ・ヴォーンカーメン・マクレエといった、より本格的なジャズシンガーを聴くようになった。そしてボーカルものだけでなく、色んなタイプのインストゥルメンタルを含めたジャズを聴くように心がけた。必ずしも自分のスタイルではないとしても、学べる何かがあると思ったから。

――ジュディ・ガーランドはどんなところがお好きでしたか?

声が美しいからレコードで聴くのはもちろん好きなんだけど、それ以上に、動く彼女を見るのが好きだった。私自身も演技をするので…といってもプロの役者ではないけど、演劇学校に通ったこともあるから、パフォーマーとしてのジュディ・ガーランドにすごく惹かれてる。彼女の表情は本当に豊かで、それはバーブラ・ストライサンドと同じ。二人とも歌で物語を語ることができる。私はミュージカル映画で観る二人が本当に好き。残念ながらエラ・フィッツジェラルドがミュージカルに出ることはなかったけど、もし出ていたらきっと素晴らしかっただろうなと思う。そうやって物語に深く入り込んで、それを歌で語れるところが好き。

――バーブラ・ストライサンドはどんなところがお好きですか?

ジュディとバーブラは…と言いながら、今、ベッドルームにいるんだけど。目の前の壁に二人の写真があるの(と言って、スマホを壁に向ける)

――あ、ほんとだ。

二人の話をしながらこの写真を見てるって、なんだか不思議。彼女たちのユニークさはその歌声だと思う。聴けばすぐに「あ、バーブラ・ストライサンドだ」ってわかる声でしょ? 私も子供の頃から歌い続けてきて、大学時代も、自分の声やスタイルが周りの誰とも違うことに気づいた。でもバーブラやジュディを見ていたら「それって素晴らしいことなんだ。自分が感じるままに歌えばいいんだ」と改めて感じることができた。バーブラは誰の物真似でもなく、バーブラ・ストライサンドでい続けた。そういう点にインスピレーションを感じてる。

――特に好きな作品をあげるとしたら?

2年前くらいに出た『Live at the Bonsoir』。NYのウェストヴィレッジにある小さなクラブでカルテットと(1962年に)録音されたライヴアルバムで、コロンビアからのデビュー作になる予定だった。ところが音質が良くないという理由でボツになっていた。バーブラというと、大編成のオーケストラを従え、何千回とテイクを重ねる完璧主義者として知られている。だから100人くらいの小さなクラブで、ワンテイクで歌う自然体のバーブラを聴けるのは滅多にない機会。(デビュー作『Stella Cole』で取り上げた)ハロルド・アーレンの「When The Sun Comes Out」を初めて聴いたのも、この『Live At the Bonsoir』だった。

◉ヴォーカルを学んだこと

――さっき演劇を学んだとおっしゃってましたが、音楽はどこで学んだのですか?大学とか?

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