* Interview Becca Stevens & Nathan Schram:ベッカ・スティーヴンスの曲を弦楽四重奏にリアレンジすること(1,2000字)
インディー・クラシック系レーベルのニュー・アムステルダムからリリースされているネイサン・シュラムやティモ・アンドレスの作品にも起用されていたベッカ・スティーヴンスがクラシック音楽との相性がいいことは誰の目にも明らかだった。そもそもベッカは正確なピッチや豊か声量、圧倒的なテクニックのヴォーカリストだったわけで、だからこそ、ニュー・アムステルダムのリリースを追っていてもベッカの名を何度も見かけたわけだ。
そんなベッカが弦楽四重奏とのコラボでアルバム『BECCA STEVENS | ATTACCA QUARTET』をリリースした。歌と弦だけのアルバムで自身のオリジナル曲をセルフ・カヴァーするプロジェクトだ。
そこでタッグを組んだのが、アタッカ・カルテット。
アタッカ・カルテットは若手の弦楽四重奏団で、2019年にNonesuch Records/New Amsterdam Recordsのダブルネームでリリースされた再注目の作曲家キャロライン・ショウとのコラボ『Caroline Shaw, Attacca Quartet:Orange』で2020年グラミー賞を受賞しているトップ・グループ。
その一方で『REAL LIFE』ではフライング・ロータス、ルイス・コール、スクエア・プッシャー、デイデラス、アン・ミュラー、ミッドエアー・シーフらの楽曲を取り上げ、トキモンタスが参加し、プロデュースをニック・ハードとマイケル・リーグが手掛けていたりと、かなり型破りなグループでもあった。
このアタッカとベッカのコラボがすさまじいクオリティで、何ならベッカ・スティーヴンスの最高傑作のひとつなのではないかという作品に仕上がっている。この詳細については以下のインタビューでたっぷり語ってもらっている。
ちなみにここではベッカ・スティーヴンスだけでなく、彼女の夫でアタッカ・カルテットのヴィオラ奏者ネイサン・シュラムが家にいたということで、一緒に質問に答えてくれた。ネイサンがベッカの魅力を愛情たっぷり語ってくれていて(すごく素敵な夫婦)、そのおかげでとても深い記事になった。ぜひ、じっくり読んでいただきたい。
※以下、ベッカの原曲と『BECCA STEVENS | ATTACCA QUARTET』に収録されたセルフ・カヴァーを聴き比べるためのプレイリストです。日本先行でCDのみリリースされるので、ストリーミングでリリースされたら、セルフカヴァーを加えます。
取材・執筆・編集:柳樂光隆 通訳:染谷和美 協力:COREPORT
取材日時:2021年1月21日 ZOOMにて
◉『BECCA STEVENS | ATTACCA QUARTET』のはじまり
――このプロジェクトがはじまったきっかけを聞かせてください。
ネイサン・シュラム(以下ネイサン):さかのぼると僕とベッカの出会いに繋がる。もちろん付き合う前、結婚する前のこと。7年前のサンディエゴで、僕が参加してた(アタッカとは別の)グループでベッカの曲をカヴァーする機会があった。その時にすごく楽しかった。その時、僕はすでにベッカのことが好きだったんだけど、ベッカはそうじゃなかったみたい(笑)そこから僕のことを好きになってもらえるまでにはもう少し時間がかかったけど、それはまた別の機会にね。でも、音楽的にはすごく相性が良かったんだ。その後も連絡を取り合っていたんだけど、みんな忙しくて、なかなか時間が合わなくて、実際に動き出したのは5年前。僕がアタッカに加入してからだね。その時には僕たちは付き合い始めていて、音楽作りも一緒にするようになっていた。サンディエゴにベッカのお兄さんが所有するノースキャロライナのスタジオがあって、そこはベッカが子供のころに過ごした場所でもある。そこでみんなで楽しくレコーディングして、録音自体はその頃に既にかなり終わっていた。でも、ミックスとエディットに関してはパンデミックになって、時間ができたことでようやく進んだって感じだね。
――レコーディングはどのくらい前からやってたんですか?
ベッカ・スティーヴンス(以下ベッカ): 6年くらい前にやった録音もあって、それはさっきネイサンが話した別のカルテットでやり始めたもの。それを2、3年前のクリスマスごろに再録音して、そこからエディットしたり、ヴォーカルも録りなおしたり、ヴォーカルのバックグラウンドを作ったり。そこから時間がかかったのは他のプロジェクトで忙しかったり、グラミー賞を取るのに忙しくなった人(=ネイサン)がいたり、みたいな理由ですね。
――ベッカもネイサンも、そしてアタッカ・カルテットのメンバーも自分たちだけでも素晴らしいアレンジができるのに、なぜいろんな人にアレンジを頼んだんですか?
ベッカ:そもそもこれはスティーブ・プロッツマンとの間で始まったプロジェクト。当初はスティーブンが全部やるって話だったんだけど、いつの間にかスティーブンが私の父と連絡を取っていて、彼が父にもアレンジを持ちかけたらしくて。父が「105」「No More」「45 Bucks」を手掛けることになった。だったら、曲によって異なる人に頼もうってことにプロジェクトが変っていった。
その時に”編曲者のストリングカルテット観の違いを浮き彫りにするようなアルバム”にしたら面白いかもってアイデアが浮かんで、ネイサンが3曲、私も初のストリング・カルテットのための編曲を1曲、父が3曲、兄が1曲、そして、私が参加していた『Work Song』で一緒に参加してたティモ・アンドレスにも1曲、あと、私のバンドメンバーのリアム・ロビンソンも1曲。ここでは普段バンドの世界でやっている私の音楽をストリング・カルテットの世界に移した時に、“この人はベッカ・スティーブンスの音楽をこうに見ています”ってことの差異が示されることが重要だった。
◉8人の多様な編曲者たち
◎編曲:リアム・ロビンソン(Liam Robinson)
――ここからは個々のアレンジャーについて聞かせてください。まずは「Be Still」を担当したリアム・ロビンソンから。彼は”ベッカ・スティーブンス・バンド”のメンバーです。
ベッカ:リアムはブロードウェイ・ミュージカル『ヘイディズタウン(HADESTOWN)』の音楽監督。このミュージカルはSSWのアナイス・ミッチェルの原作で、トニー賞を取ってることでも知られている。
ベッカ・スティーヴンス・バンドでは2005年にやった最初のライブの頃から私のバンドのキーボードを担当してくれている。だから、リアムは私のオリジナル曲を誰よりも理解していて、もしかしたら私以上に理解しているかもしれない人。演奏の部分において、ドラマーのジョーダン・パールソンとがっちり組んで、クリス・トルディーニのベースを聴きながら、アコーディオンを弾いたり、様々な演奏もするし、歌も歌う。だから、私のオリジナル曲をストリングスにしたらどうなるか、面白いヴィジョンを持っているはずだと思った。
そもそもリアムはマンハッタン・スクール・オブ・ミュージックでクラシック音楽のコンポジションを学んでいる。彼の作曲の特徴は好奇心と冒険心に溢れていて、楽器やアンサンブルの可能性をどんどん突き詰める人。その楽器に期待されるテクニックや役割を超えたユニークな絵柄を楽曲の中に描こうとする人ってことだと思う。
ネイサン:今のベッカの解説はすごく的確だと思う。リアムは通常ならBメジャーでやるべきところを半音下げて書いていて、そのためには僕らストリングスは開放弦を使ったりして様々な工夫を強いられた。しかも、ベッカが歌う箇所ではBメジャーに揃えなければならなかった。リアムは通常ならストリングスはこういうチューニングで行くべきって常識を全く考慮せずに自由に書くんだ。僕はそこが好きだし、すごく面白かったよ。
◎編曲:ビル・スティーヴンス(Bill Stevens)
――次はベッカのお兄さんのビル・スティーブンスです。彼はエンジニアと共同プロデュースも担当していますね。
ベッカ:兄はずっと私にとっての音楽におけるヒーロー。様々な音楽をマスターしているし、様々な楽器を弾く。それにバーモント・カレッジ・オブ・ファイン・アートとノースキャロライナ・スクール・オブ・アートでクラシック音楽を学んでいて、兄は音楽に関してできないことはないと思う。だから真っ先に兄にも参加してもらおうと思った。兄はすごく豊かな色の音のパレットを持っている人。しかも、複雑な色合いをたくさん持っている。ここでは「Reminder」と「We Knew Love」のアレンジを願いしたんだけど、「We Knew Love」に関しては深みがある曲だから、もっと考える余地があるって意味で彼に頼んだ。リズムやハーモニーが複雑な「Reminder」も兄にふさわしいと思った。
◎編曲:スティーヴン・プラッツマン(Steven Prutsman)
――次は最初に名前が出たスティーヴン・プラッツマン。彼はトム・ウェイツ(『Orphans: Brawlers, Bawlers & Bastards』)やクロノス・カルテット(『Floodplain』『Nuevo』『You've Stolen My Heart (Songs From R.D. Burman's Bollywood)』)、ヨーヨーマ(『Songs Of Joy & Peace』『In Goed Gezelschap』)とも仕事をしているすごく個性的な音楽家ですよね。
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