Column:Shabaka Hutchingsから始める現代 UKジャズ 概論(16,000字)
■2010年代に盛り上がり始めたUKジャズ
近年、UKのジャズが話題になることが増えている。
マンチェスターのレーベルGondwanaからデビューし、ジャズの名門ブルーノートとの契約を勝ち取ったゴーゴー・ペンギンが筆頭だろう。
Edition RecordsのようにフローネシスやダイナソーをはじめとしたUKならではのジャズを生み出すレーベルも好リリースを続けている。
またWHIRLWIND RECORDINGSのように、USシーンで高い評価を得る若手/中堅を積極的に録音するレーベルがあったりもする。近年ではキット・ダウンズのようにECMからデビューしたものもいる。世界的に見て、今、ジャズに関してはUKは確実にこれまでと何かが変化してきて、盛り上がっているのだ。
ジャングル、トリップホップ、ドラムンベース、ブロークンビーツ、ダブステップといったジャンルを生み出してきたUKのクラブシーンからはホセ・ジェイムスにも起用されるドラマーのリチャード・スペイヴンや、マシュー・ハーバートのバンドの鍵盤奏者サム・クロウのようなミュージシャンが出てきて、ジャズと交差していた。さすがはNINJA TUNEやWARPの国だ。
そんなUKにNaim Jazzというレーベルがある。E.s.t系譜のエレクトリックなピアニストのニール・カウリーや、トリップ・ホップの名バンドのポーティスヘッドのリズムセクションを中心に結成されたゲット・ザ・ブレッシングなどが所属している。最近では、バーレーン出身でUKで音楽教育を受けたトランぺッターのヤズ・アハメドをリリースしている。UKの中でもかなり尖ったレーベルのひとつと言えるだろう。
■シャバカ・ハッチングスとサンズ・オブ・ケメット
そのNaim Jazzの中で以前から高い評価を受けていたのが、ブラスバンド的な要素を取り入れたサウンドでUKの音楽シーンを席巻しているサンズ・オブ・ケメット。率いるのはサックス奏者のシャバカ・ハッチングスだ。
ジャイルス・ピーターソンが自身のレーベルのBrownswoodと共に仕掛けたUKのサウスロンドン地区の若手ジャズミュージシャンのコンピレーション『We Out Here』でも総合プロデューサー/音楽監督のような形で関わっている彼はこのシーンを象徴する存在だ。
そのシャバカ率いるソンズ・オブ・ケメットがジャズの名門インパルスから本作『Your Queen Is A Reptile』でメジャーデビューする。ゴーゴー・ペンギンに次ぐ快挙と言えるだろう
まずはプロフィールから。1984年、ロンドン生まれのシャバカは、6歳の時にカリブ海西インド諸島の国バルバドスに移住しているカリブ海育ちで、後に、再びUKに戻り、ロンドンを拠点に活動している。
バルバドスと言えば、歌手のリアーナの出身地としても知られている国。イギリスの植民地だったため、リトルイングランドと呼ばれるくらいイギリスの影響が大きいが、カリブ海だけにレゲエも盛んで、お隣の国トリニダードトバゴ発祥の音楽ソカ(ソウル+カリプソ的なカーニバルのための大衆音楽)が主に楽しまれている。リアーナがカーニバルのために帰ってド派手な衣装を着ることでも毎年、話題になる。
サックスやクラリネットを奏でるジャズミュージシャンとしての側面と同時にこのバルバドスで育った経験がシャバカの音楽性に強く影響しているのは、彼を語るうえで重要なポイントになるだろう。彼のユニットサンズ・オブ・ケメットもそんなカリビアンとしての出自を強く意識したもので、自身のサックスとドラム、ベース、そしてチューバという変則カルテットによるこのユニットは、2013 年にMOBO Awardを受賞していたり、UK新世代を代表するバンドとして認識されている。
(※ちなみにMOBO Awardとは《ミュージック・オブ・ブラック・オリジン》の略で、国籍や人種に関係なく優れたブラックミュージックを選ぶというUKの賞で、1996年に始まっている。レゲエやアフリカ音楽、ドラムンベースやダブステップのようなエレクトロニックミュージックなども含まれるので、選出される音楽はかなり幅広い。近年は新しい世代のジャズだけでなく、Jハスやストームジー、ウィズキッドといったアフリカ系の新世代によるヒップホップやグライムなども積極的に評価している。)
■UKカリビアンとジャズ・ウォーリアーズ
モダンジャズのルーツでもあるニューオーリンズ・ジャズ/ディキシーランド・ジャズなど、「ビバップ以前=モダンジャズ以前」ともいえるトラディショナルなジャズで使われ、モダンジャズ以降はジャズの現場から姿を消したチューバという楽器が、現代のジャズバンドで使われるのは非常に珍しい。しかし、あえてそれを用いた意図は、ジャズとカリブとの関係性を考えることで見えてくるのかもしれない。
そもそもジャズの発祥地であるアメリカ・ニューオーリンズは、カリブ海沿岸に位置する港町であり、国際都市として栄えていた。だからこそ、この土地で生まれたジャズには、アフリカ由来の黒人奴隷文化や、ヨーロッパ由来のクラシック音楽だけでなく、カリブ海から流入したラテン的要素も当初から内包されていたのだ。
ソンズ・オブ・ケメットのサウンドにソカやレゲエ、ダンスホール・レゲエ、さらにはラテン・ジャズやアフロビートのエッセンスが混ざっているのは、シャバカがジャズを媒介に、自らの出自でもあるカリブ音楽を掘り下げようとしているからだろう。
彼がバルバドスの伝統的なカーニバル音楽のリズムを取り入れているのも、そうしたプロセスの一環と考えられる。そして、それゆえに“現代のギル・スコット・ヘロン”とも称されるカリビアンの詩人/シンガー、アンソニー・ジョセフが、自身のルーツを掘り下げたアルバム『Caribbean Roots』にシャバカを起用したのも、ごく自然な流れだったと言える。同じ志向性を持ったアーティストを求めた結果だったのだろう。
◉シャバカの師コートニー・パイン
ただ、シャバカ・ハッチングスとカリブ音楽との関係には、もうひとつ重要な文脈がある。彼は、UKを代表するサックス奏者コートニー・パイン(UKジャマイカン)と幾度も共演しており、パインが長年続けているプロジェクト「ジャズ・ウォリアーズ」にも参加している。
コートニー・パイン自身もカリブ系の出自を持ち、これまでもカリブ音楽をたびたび取り上げてきたアーティストだ。レゲエへの取り組みにも積極的であり、その姿勢はシャバカにも影響を与えていると考えられる。
彼が主催者の一人として関わっていたジャズ・ウォーリアーズはUKのロンドンのアフリカンやカリビアンをルーツに持つミュージシャン達を集めたプロジェクトだった。主催者にはジャングルのパイオニアのひとりでもあるMCのクリーブランド・ワトキス(UKジャマイカン)、ジャズ・サックス奏者のスティーブ・ウィリアムソン(UKジャマイカン)、ヴィブラフォン奏者のオルフェイ・ロビンソン(UKジャマイカン)、ベーシストのゲイリー・クロスビー(UKジャマイカン)などがいて、アフリカ音楽、ラテン音楽、ファンクなどを取り入れたクロスオーヴァーなサウンドが特徴だった。
ジャズ・ウォーリアーズは、デビュー作『Out of Many, One People』(1987)をリリースして以降、UKではそれなりの成功を収めたが、UK以外ではそれほど大きな話題にはならなかったバンドだったのかもしれない。
ただ、彼らはその後、1991年にゲイリー・クロスビーを中心にトゥモローズ・ウォーリアーズという組織を立ち上げ、カリビアン系やアフリカ系を中心としたUKの若手ミュージシャンの育成に取り組んできた。そこから登場してきたのが、オルフェイ・ロビンソンやモンデシール・ブラザーズ、そして90年代初頭にブルーノートがフックアップしたトニー・レミーといった面々である。
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