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interview AMARO FREITAS『Sankofa』:我々黒人の祖先、自然、そして、音から受け継がれるものを讃える音楽(13,000字)

2010年代にブラジル音楽が面白くなっているという話はアントニ・ロウレイロらが話題になったこともあり、それなりに少なくない人が知っている話かもしれない。

彼らの特徴としては、21世紀以降のジャズの文脈を押さえていたこと。その結果、前述のロウレイロやペドロ・マルチンスらがアメリカのジャズ・ミュージシャンたちとコラボするようになっていった。日本における”ブラジルの新しい世代によるジャズ”のイメージは彼らが担うようになっていた。

とはいえ、ブラジルは広い。才能豊かなミュージシャンは山ほどいるし、シーンのレベルも尋常じゃなく高い。他にも面白いジャズ・ミュージシャンはいるはずだ。

そんなことを思っていた2018年、たまたま聴いたのがアマーロ・フレイタス『Rasif』だった。彼の2作目だ。

僕はこのアルバムにとても驚いて一発でファンになってしまった。

ブラジルの音楽が取り入れられているが、サンバのリズムが聴こえる程度ではなく、「Troupe」「Afrocatu」「Paco」ではブラジル北東部=ノルデスチのアフロ・ブラジル系のリズムが聴こえてきた。フォホー(Forro)やマラカトゥ(Maracatu)、フレヴォ(Frevo)のような北東部のリズムと言えば、エグベルト・ジスモンチ「Maracatu」 「Frevo」)やエルメート・パスコアル「Forro Brasil」)もそのリズムをテーマにした曲を書いていたので、ジャズのリスナーでもなじみがある人もいるだろう。

ただ、アマーロが面白いのはそのリズムの上で即興演奏をするだけでなく、そのアフロ・ブラジル系のリズムをポリリズムの中に組み込んで、クール且つミニマルに調理していて、それはまるでヴィジェイ・アイヤー以降のピアノ・トリオの方法論でブラジル音楽をやっているような現代的なサウンドになっていた。つまり、これまでのブラジル人のジャズからは聴かれなかった音楽が鳴っていたわけだ。

しかも、ベースのJean Elton、ドラムのHugo Medeirosの2人も素晴らしい技術とセンスを持っていて、このトリオはめちゃくちゃグルーヴしている。その部分は『Rasif』が90年代以降のクラブ系のブラジル音楽を代表するレーベルでジョイスマルコス・ヴァ―リアジムスらの新録でクラブシーンをけん引し、近年はアジムスの発掘音源から、アルトゥール・ヴェロカイの新録、ブラジルの新鋭アントニオ・ネヴェスなど、他にも絶妙なリリースで再びブラジル音楽好きを喜ばせているUKのFar Out Recordingsからリリースされていたこととも繋がっているはずだ。

そんなアマーロ・フレイタスが2021年に3作目の『Sankofa』を発表した。

前作よりも確実に洗練されていて、リズムの扱いも楽曲の完成度もはるかにレベルアップしていた。そして、タイトルから伺えるコンセプトも面白そうな予感がした。

Sankofaとは鳥の形のシンボルで、アフリカ系アメリカ人とアフリカのディアスポラの文脈の重要なシンボルとして知られているもの。Sankofaは「成功した未来を構築するために過去を振り返る必要性」を表している。

アフロ・ブラジル系の要素を音楽的に取り入れるだけでなく、アフリカ系アメリカ人の文化をテーマにしているところを見ると、もっと広範にアフリカン・ディアスポラみたいなものを意識しているのは明白で、その点でも興味がわいた。彼の音楽を通して、アフリカ系のブラジル人によるブラジル独自のジャズ、ということを僕が意識するようになっていたこともある。

とりあえず、彼がどんなアーティストのなのか知りたかったし、新作のコンセプトについても聞いてみたかったので、インタビューをやることにした。

取材・構成・編集:柳樂光隆 通訳:島田愛加 協力:江利川侑介(Diskunion)

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■ブラジルでも教会がミュージシャンの苗床に!?

――教会で演奏していたそうですが、どんな音楽を演奏していたのでしょうか?

僕はキリスト教福音派の教会に通っていた。ブラジルの宗教で最も多いのはカトリックと福音派だ。僕たちのコミュニティにある教会は、金銭的に余裕のある人々が通う教会とは異なる傾向がある。

ここではもちろんHarpa Cristã(讃美歌)も演奏するけれど、自然と身体が動いてしまうような音楽も演奏される。なぜなら、Periferia(直訳すると「郊外」。都市中心部に住めない貧困層が暮らす地域。ファベーラ=スラム街とは異なるニュアンス)にある福音派教会に参加するのは、僕のような黒人系ブラジル人がほとんどで、アフリカ的なスイングが僕たちのDNAに根付いているからだ。

アフリカ音楽は鼓動であり、身体の動きそのものだ。だから教会でも身体が自然と動く音楽――たとえばブラジルのファンキなどが取り入れられている。僕たちの文化であるフォホー(ブラジル北東部の音楽とそのリズム)、バイアォン(同地域で演奏されるリズムで、ルイス・ゴンザーガが有名)、さらにはクラシック音楽の要素を感じさせる讃美歌も演奏される。

つまり、教会ではペルナンブーコ(バイーア州に隣接するブラジル北東部の州)の伝統音楽と讃美歌が自然に混ざり合っていた、ということになる。これは意図的なものではなく、自然発生的に生まれた融合だ。

ファンキ・カリオカ(ファベーラ発祥のベース・ミュージック。別名バイレ・ファンキ)やアメリカのファンクを演奏することもあるし、スティーヴィー・ワンダーの曲に自分たちの歌詞をつけて歌うこともある。

また教会では、ブレーガ(ブラジル北東部の大衆音楽)や、それにファンキをミックスした音楽を聴くこともできる。ブラジルではパッスィーニョと呼ばれるムーブメント(ブレーガの音楽に合わせて踊るステップ)が起こっているが、このムーブメントでは教会出身のミュージシャンたちが演奏面で重要な役割を果たしている。

つまり教会は、僕たちのようなPeriferiaに住む人々に対して、ブラジル政府が与えてくれないもの――音楽教育や、恵まれない環境にいる人たちが才能を開花させる機会――を提供してくれる場所でもあるのだ。

教会は一つの信仰を説く場であるのは確かだけれど、それだけでなく、コミュニティの中で人々が生きていくための自尊心を育てる役割も果たしている。

―― その教会の感じはロバート・グラスパーたちが教会で音楽を学んだアメリカの状況と全く同じです。ブラジルでもそうなんですね。あと、一年間音大に通われていたそうですが、そこではどんなことを学んだのでしょうか?

僕には2つの選択肢があった。1つは器楽学科のピアノ専攻、もう1つは「produção fonográfica」(録音技術、音響、プロデュース、マーケティング、音楽の基礎知識などを学ぶコース)。僕は後者を選んだ。だから、僕にとっての“ピアノの学校”はジャズ・クラブだった。クラブでジャズを弾いている人たちと一緒に学び、実生活の中でピアノを身につけた、ということだ。

ちなみに、「produção fonográfica」を選ぶ前に自分自身に問いかけたんだ。「自分の可能性や文化を考えたとき、本当にクラシックのピアノ教師になりたいのか?」と。

17世紀のクラシック音楽は世界中の音楽大学で学べる。それをわざわざブラジルのペルナンブーコで学ぶことに違和感を覚えたし、むしろ自分たちの伝統を研究したいという気持ちもあった。

だから「produção fonográfica」を選択し、まずは「自分自身=アマロ・フレイタス」をアーティストとしてどう確立していくかを学ぶことにした。
そのために3年半、Centro Universitário AESO Barros Meloという大学に通い、CD制作、アートワーク、ソーシャルメディアでのプロモーション、ミキシングやマスタリング、マイクの使い方などを学んだんだ。

■チック・コリア、モアシール・サントス、そしてゴンサロ・ルバルカバから受けた影響

――2016年にデビュー作の『Sangue Negro』をリリースしていますが、デビュー以前に特に研究していたピアニストはいますか?

ピアノと僕の関係について話すには、まず僕がジャズと出会ったときのことから話さなきゃいけないね。
きっかけは、15歳のときにチック・コリア(Chick Corea)のDVDをもらったことだった。チック・コリア、ジョン・パティトゥッチ(John Patitucci)、デイヴ・ウェックル(Dave Weckl)によるトリオが、1991年にニューヨークのブルーノートで演奏したライブ映像だ。

このDVDは、僕に新しい視野を与えてくれたし、音楽における僕自身のストーリーを大きく変えてしまったと思う。
それまでの僕は、教会で演奏される音楽しか知らなかったから、初めてチック・コリアを聴いたときは、「オーマイゴッド!音楽って、こんなにいろんな可能性があるんだ!!!」と衝撃を受けた。

そこから、オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)、セロニアス・モンク(Thelonious Monk)、ゴンサロ・ルバルカバ(Gonzalo Rubalcaba)を聴くようになっていった。僕が最初に聴き始めたジャズ・ピアニストは、この4人だった。

大学に入学するころには、トム・ジョビン(Tom Jobim)やエイトル・ヴィラ=ロボス(Heitor Villa-Lobos)も聴いていたけど、自分のピアノの方向性を意識するようになったのは、モアシール・サントス(Moacir Santos)との出会いがきっかけだった。

ブラジルのピアニストでいうと、ドン・サルヴァドール(Don Salvador)、ラエルシオ・ヂ・フレイタス(Laércio de Freitas)、ジョニー・アルフ(Johnny Alf)…この4人は、僕にとって特に重要な存在だ。

たとえば、ジョニー・アルフの楽曲は、その構造がとてもディープなんだ。
アメリカのジャズの影響を受けた抒情的な一面を持ちながら、ブラジル音楽ならではの活気やみずみずしさも表現していて、そこがボサノヴァの先駆けとも言える要素なんだ。

彼はボサノヴァの創始者の一人ではあるけれど、その功績を正当に評価されなかった音楽家でもあるんだよね。

――モアシール・サントスに関してはどんなところから影響を受けましたか?

僕がモアシールの作品に感動するのは、同郷であるという理由も大きい。
モアシールはペルナンブーコ州の田舎町フローリスで生まれ、ロサンゼルスで亡くなった。ブラジル国内よりも、むしろ国外で高い評価を得ている音楽家だ。

僕は、モアシールの音楽の構成は、複合的なリズム・パターンに基づいていると理解している。彼の代表作『Coisas』では、アフロ・ブラジル文化へのオマージュとして、それぞれの曲が「オリシャ」を象徴している。

オリシャとは、西アフリカのヨルバ人の宗教における神々のこと。キューバのサンテリアや南米のカンドンブレにおける神々も、同じくヨルバ由来のオリシャにあたる。

彼は、アフリカ音楽の最大の魅力である「止まらない」「固まらない」リズムの流動性を、見事に音楽に落とし込んでいる。だからこそ、僕たちの身体が自然に音楽とともに動き出すような体験を与えてくれる。

僕がモアシールの音楽に感動し、強く共感するのは、まさにその点にある。なぜなら、僕自身もそうだからだ。

僕のトリオが自分たちの音楽を演奏するときに明らかになるのは、楽器の演奏経験がない人でも、ポリリズム、イソリズム、ポリフォニーといった複雑な構造を楽しむことができるということ。それは、音楽に流動性があり、そして僕らの内側にある「感じられる鼓動」が息づいているからだと思う。

だからこそ、モアシールは僕にとって大きな影響を与えた音楽家だと、はっきり言える。

――さっき名前が出たジャズ・ピアニストの中ではゴンサロ・ルバルカバのことが気になりました。彼のどんなところに惹かれましたか?

ゴンサロの話の前に、ひとつ伝えておきたいことがあるんだけど、僕は日本人ピアニスト・Hiromi(上原ひろみ)の大ファンなんだ。いつか彼女と共演したいと、心の底から願っている。彼女がリオデジャネイロのブルーノートで演奏したとき、僕はツアー中だったから観に行くことができなかったんだよね…。

――上原さんのことが好きなのもよくわかります。もし会ったら伝えておきますね(笑)。

で、ゴンサロ・ルバルカバの話だよね。彼のたくさんの作品、そして彼が生み出す瞬間瞬間に、僕はいつも感動させられている。彼が若い頃に、イヴァン・リンスやジョアン・ボスコと共演したショーがあって、そこで彼は、歌手の隣で演奏するインストゥルメンタル奏者としての新たな可能性を示していたんだ。それはとても美しくて、僕にとって「どんな音楽家になりたいか」という理想像を見せてくれた瞬間だった。ゴンサロが歌手の隣で演奏するとき、彼はただの伴奏者ではないし、歌手よりも上でも下でもない。一人のアーティストとして、歌手と同じ場所に立っている。
そんなふうに、偉大な2人の歌手と肩を並べて共演している誇らしい姿に、当時の僕は強く心を奪われたんだ。それに、ゴンサロがピアノ・ソロを弾くときには、まるで歌のメロディのようなものが聴こえてくるんだよね。

――なるほど。

それに、ゴンサロのトリオも大好きなんだ。彼がドイツでロン・カーターと共演したショー『Live at the Münchner Klaviersommer』は、本当に非の打ちどころがない。絶頂とも言える彼のテクニックは、ピアノがまるで彼の魂の延長のように感じられるほどだった。そのDVDは、何度も何度も繰り返し観たよ。

なぜなら、ゴンサロはキューバ音楽をジャズと融合させて、独自のオリジナリティを生み出し、新しい世代として音楽を更新していった人物だから。

僕は15歳からジャズを聴き始めたので、自分が作曲するフレーヴォ、マラカトゥ、バイアォン、シランダ、コーコには、自然とジャズの影響が強く表れてしまうんだ。それは、ゴンサロがジャズとともに新たなエネルギーをキューバ音楽に取り込んだのと同じように、僕自身もブラジルのアフロ・ブラジル音楽を、自分のインストゥルメンタル作品にジャズとともに取り込んでいるということだと思う。

こうした、ゴンサロや僕のようなアプローチは、僕たちの音楽の中に「対話」を生み出しているんだ。今、ロンドンやニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスといったさまざまな音楽シーンでは、世界的なディアスポラの流れが起きているよね。シャバカ・ハッチングス、クリスチャン・スコット、カマシ・ワシントンといったアーティストたちの音楽は、革新的であると同時に、祖先の伝統を再発見し、取り戻す営みでもある。

それは、“過去・現在・未来”をつなぐという『Sankofa』のビジョンとも重なっているんだ。

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