「イオンモールおじさんコーデ」が嫌われる理由を調べたら、2013年の女子ウケ最適解だった話

「地方の田舎のイオンモールでよく見かけるこういう格好の人本当に嫌い」というポストがXで話題になった。
ただ、私が興味を持ったのは「なぜ女性がそう感じるのか」ではない。おじさんのファッションの方だ。
バズっていた論点は2つ。
1.中高年男性のボディバッグ使用が「ダサい」
2.おじさんのファッションは若い頃流行っていたファッションにすぎない
2の論点を投下したのは私である。

さて。2013年の「デニムシャツにベージュのチノパン合わせる大学生多すぎワロタ」と、5ch(2ch)でミーム化していたのがポストで使用した画像だ。
当時、チェックシャツからの脱却(無地推し)とユニクロのヴィンテージチノの評判が良かったことから、このデニムシャツ、正確にはシャンブレーとチノパンの組み合わせが最適解となっていた。トレンドはJ.crewのようなアメリカンヘリテージだった。
1.論より証拠ということで、2013年11月号の『Samurai ELO』を見てみよう
『Samurai ELO』は高校生・大学生の男性をターゲットにしたファッション誌で、いわゆる量産型・モテ(エロ)を主な守備範囲としていた。
もちろん、2013年前後のメンズカジュアル全体を『Samurai ELO』一冊で代表させることはできない。
ただ、『Samurai ELO』は『VOGUE』や『GQ』のように「これがトレンドだ」と上から提示するタイプの雑誌というより、当時の高校生や大学生に実際に売れていたもの、女子ウケしていたものを色濃く反映する雑誌だった。
だからこそ、2013年当時の量産型男子像を知るうえで、有力な資料になる。
では、特集の「普通+αの服装が実は一番女子にウケる」を見てみよう。


特集で大きく取り上げられていたアイテムがシャンブレーシャツとチノパンなのである。

そして、「普通+αにオススメ」と紹介されているアイテムの一つがミニボディバッグ。
この3つを組み合わせると、冒頭のイオンモールおじさんが出来上がる。
要するに、2013年に「普通+α」で女子ウケを学んだ大学生の未来の姿である。
当時の量産型大学生が突然アメトラガチ勢や古着マニアになる方が少数派だよね。そのまま年をとっただけに過ぎない。
2.なぜ「シャンブレーシャツ+チノパンがダサい」となっていったのか

それは似たようなファッションが巷に大量にあふれたから。お洒落は差異化・差別化。ファッション業界はわかりやすいアイテムを売り出した。差別化競争が始まったのだ。
例えば、チノパンの裾裏チェックとシャツの前立て裏のトリコロールテープ。これはSNSでもダサイと叩かれていたので覚えている人も多いはず。
とくにトリコロールテープはひどかった。トム・ブラウンの人気もあって、シャツ、鞄、パンツと何にでもつけられていた。
だから、シャンブレーシャツ+チノパンがダサくなったというより、シャンブレーシャツ+チノパン文化圏の差別化ゲームが崩壊した。
そして、2015年のノームコア(究極の普通を目指すスタイル)でそれらは無に帰された。
「ディテールで余計なことをするな」
究極の普通によって、それらはなかったことにされた。
つまり。
2013年「普通+α」
↓
2015年「+αが恥ずかしくなる」
↓
2026年「普通だけ残る」
こういう流れ。
だから、今回のイオンモールおじさんで論点としてやり玉に挙げられているのが、+αのバッグなのだ。シャンブレーシャツとチノパンはメンズカジュアルの基礎教養みたいな組み合わせ。初めから問題はない。
3.清潔感という新しい解釈
話題になったコーデについて、ファッションYouTuberのげんじさんは「清潔感がないから嫌われている」と分析した。
しかし興味深いのは、その後に続く説明である。
要するに、そこで語られていたのは、
今のブランドが提案していない
10年以上前の服に見える
新鮮さがない
という点であり、その総称として「清潔感がない」と表現されていたように見える。
だが、シャンブレーシャツもチノパンも洗濯できるし、別に汚れているわけではない。清潔感の話をしているようで、実際にはトレンドの話をしている。
ただ、そのトレンドの話もやや曖昧だ。「新しいものには清潔感があり、古いものには感じにくい」という以上の具体性があまりない。
先ほど説明した通り、「シャンブレーシャツ+チノパン」というスタイルは、そもそもトレンドの影響を受けにくい。いわば“普通”だからである。
強いて言うなら、その出自はワークやアイビーにあるため、若い男性が着ればプレッピーに見えやすい一方で、おじさんが着るとワーク由来の実用性が前に出て、作業着めいて見えやすい、という程度の差だろう。
もちろん、げんじさん自身が悪いと言いたいわけではない。
彼はファッション系インフルエンサーであり、ブランド運営者でもある。その立場から見れば、「今の空気感」や「新鮮さ」を重視するのは自然なことだろう。
「現状のままで大丈夫です」では商売になりにくい。「シャンブレーシャツ+チノパンは普通です」だけでは、新しい提案にもつながりにくい。
だからこそ、説明が「清潔感」という言葉に寄っていく。結果として、“今売られている服”のほうが清潔感を持つかのような話になってしまう。
しかしこの理屈は、少し考えると揺らぐ。古着・リユース市場はすでに巨大産業であり、何年も前の服に新鮮な価値を見出す人は大勢いるからだ。
そう考えると、ここで言われている「清潔感」は、衛生や身だしなみの話というより、トレンド更新の論理を別の言葉で言い換えたものに近い。私にはそう見える。
4.イオンモールおじさんは誰が作ったのか

2013年。ファッション誌は「普通+αで女子ウケ」を推奨した。ボディバッグも推奨した。シャンブレーシャツも推奨した。チノパンも推奨した。
2026年。その結果生まれたおじさんが、今度は「清潔感がない」と言われている。
ファッション業界とは、自ら作り出した「普通」を10数年後に時代遅れと認定し、新しい「普通」を売る産業なのかもしれない。そして、その説明に困ったときは「清潔感」という概念を持ち出す。
もしそうだとしたら、イオンモールおじさんは被害者なのか、それとも優等生なのか。
彼らは、ある時代に「普通で、無難で、女子ウケする」と教えられた服を着続けてきただけだ。
もしそれが今になって“清潔感がない”とされるのだとしたら、問われるべきなのは個人の美意識だけではなく、10年単位で「普通」を作り替えてきたファッション業界の側なのかもしれない。
少なくとも、当時のファッション誌は彼らに合格点をつけていた。
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