CMONとはなにか、どこから来てどこへ行くのか
過去30年のモダンボードゲームを語る上で、システム的な発展という意味ではさておき、物理的な製品としてのボードゲームの発展とビジネスモデルの変化という観点であればCMONを無視することはできないだろう。特に2010年代半ばからのクラウドファンディングベースのボードゲーム流通というトレンドを考えた場合、最も重要なパブリッシャーのひとつと言えよう。2025年に入って業績の急速な悪化が明らかになり、これまでのヒット作の権利を他社に譲渡/売却しており、今後の動向が気になるところではあるが、この機にCMONがこれまでどのような歩みを辿ってきたのかを一度省みるのも、ボードゲームビジネスのこれまでとこれからを考える上で意味のあることではないかと思ってまとめてみた次第である。
というのはちょっと嘘で、以前から出版社/開発スタジオから見たボードゲーム史をまとめるのも面白いのではないか、と思っていて、Days of WonderとFFGの記事を書きかけて放置していたところに、CMONの現状を見て勢いに任せてとりあえず書いた、というのが実際のところである。
設立~ボードゲームへの参入
ご存じの方も多いと思うが、CMONは元々、CoolMiniOrNotという名前でミニチュアの画像投稿サイトとして2001年に始まった。本社はシンガポール。投稿した画像に対して、見た人がかっこいいかどうか(Cool Or Not)を評価することができるというものであり、現在も運営されている。2001年というと、インターネットにおけるコミュニティ自体がまだまだ未成熟でいわゆるSNSも未登場(Facebookが2004年、Twitterが2006年、Instagramが2010年に設立)、画像中心の投稿サイトもほとんどなかった時期ではないだろうか?当時のインターネットの状況についてはもはや記憶も薄れていて……まあ、当時としてはかなり先進的な取り組みであったのではないかと思う。
CMON (当時の名称はCoolMiniOrNotであるが本稿では基本的にCMONに統一して記述する)がボードゲーム出版事業に参入したのは設立から10年経った2011年のこと。デフォルメされたいわゆる“ちびキャラ”のミニチュアを使ったダンジョンハックゲーム『Super Dungeon Explorer』の英語版を共同出版したのが最初の作品となる。ただし、このゲームの開発はNinja Division(とその社内デザインスタジオであるSoda Pop Miniatures)が行い、出版の主体もNinja Divisionだったようである。CMONは英語版のみに関与、また同ゲームのその後の展開にも関わっていない。
Zombicide以降
というわけで、実際にCMONが主体的にボードゲームを出版した最初の作品は、2012年の『Zombicide』と言って良いだろう。ただしこれも自社開発ゲームではなく、開発自体は元ミニチュアゲーム会社社員たちが新たに立ち上げられた開発スタジオであるGuillotine Gamesが担当している。ゾンビものというキャッチーなテーマ(ただし、ゾンビテーマのボードゲームはまだ流行ではなかったが)、当時としては精細なミニチュアが100体以上というボリューム、ストレッチゴールで増えるミニチュア、といった点が注目を集め、最終的に5000人以上のバッカー、80万ドル弱の資金を集めた。今の感覚からすると中規模キャンペーンかもしれないが当時としては破格の大型プロジェクトであった。というか当時のテーブルトップゲーム部門の最高額を更新したのではないだろうか?Kickstarterにおいてテーブルトップゲームのプロジェクトが100万ドルを突破するのは2012年末~2013年初にかけてのKingdom Death Monsterが最初だったのである。このあたりの状況については以前に書いたこちらの記事を参照していただきたい。
『Zombicide』に続いて同2012年中に、『Sedition Wars: Battle for Alabaster』で95万ドル強、『Relic Knights』で90万ドル強を集め、CMONは一躍有名となった。2012年のKickstarterテーブルトップゲーム部門の総プレッジ額が1500万ドルだった中で、CMONはこの3作品で265万ドルを集めたのである。圧倒的であった。
なお、CMONが自社開発したゲームとしては『Sedition Wars』が最初の作品となるが、ミニチュアの評価は高いものの残念ながらルール面での評価が低く(デベロップが十分ではなかったように思われる)、その後シリーズ展開されることはなかった。
『Relic Knights』は『Super Dungeon Explorer』に続いてNinja Division / Soda Pop Miniaturesの開発によるもので、一定の評価を受けたようである。その後同社は、Super Dungeon ExplorerシリーズやRelic Knights 2nd editionなどいくつかのKickStarterでもそれなりの資金を集めていたのだが、2010年代の後半には予定されていた製品を完成することができなくなっており、数多くのバッカーへゲームを届けられないまま2024年3月に破産している。Kickstarter中心のビジネスモデルの失敗例の一つと言ってもよいだろう。
この後、2013年に『Zombicide: Season 2』で220万ドル強、2014年に『Zombicide: Season 3』で290万ドル弱、2015年に『Zombicide: Black Plague』で400万ドル強を集め、名実ともにクラウドファンディングを活用した新世代のボードゲーム出版社の代表的な存在となった。
CMONの活躍はZombicideシリーズにとどまらない。2015年には、Eric Lang氏をメインデザイナーに迎えた『Blood Rage』をリリース。Kickstarterキャンペーンこそ100万ドルには届かなかったが、2025年現在でもBGGのランキングトップ100に入る高い評価を得ている。2018年の『Rising Sun』、2021年の『ANKH』と合わせてEric Lang三部作とされるこれらのゲームはゲーム的な評価としても商業的にもCMONの傑作と呼んで良いだろう。ちなみにRising Sunは400万ドル超、ANKHも300万ドル超をKickstarterで集めている。
またこれらと並行して、Kickstarterを介さないゲーム出版も積極的に進め、絶版ゲームの再販を含めて北米ユーロゲーム市場にも進出している。2015年には社名をCoolMiniOrNotからCMONへと変更、2016年には香港市場に上場と事業を拡大、同じく2016年にはZombicideのIPをGuillotine Gamesから取得(ただし以降も開発はGuillotine Gamesが継続)、2017年には前述のEric Lang氏をゲームデザイン部門のディレクターとして雇用するなど、2010年代後半には世界的ボードゲーム出版社としての立ち位置を確保した。
余談だが、FFGもEric Lang氏の専属雇用を考えていたようだが、アメリカの就労ビザの関係で実現しなかったそうである(Lang氏はカナダ人)。CMONはシンガポールなのでそのあたりは柔軟なのであろう。海外労働力の受け入れ、というのはいろいろ難しいのである。
CMONスタイルの確立
CMONの功績の一つは、『Zombicide』から始まるミニチュアもりもりクラウドファンディングキャンペーンスタイルを確立したことにあると思う。ミニチュアゲームの背景を活かし、精細にデザインされた立体ミニチュアをたくさん入れたボードゲーム(いわゆるユーロスタイルよりはむしろアメトラ系)で、クラウドファンディングを前提としてストレッチゴールで内容物がどんどん増えていくことを視覚的にもアピールして購買浴を煽るタイプのスタイルである。時にKS Exclusiveなどを併用したアドオンで更に上乗せしていくビジネスモデルはクラウドファンディングと相性が良く、数々のフォロワーを産んでいった。またこうしたスタイルから生まれたノウハウは、従来型のユーロ系あるいはハイブリッド系のボードゲームにもフィードバックされ、Eric Lang三部作のようにゲーム性と豪華なコンポーネントを併せ持つ新たなジャンルも生まれた。近年トレンドとなっているユーロゲームのデラックス版(『The Castles of Burgundy: Special Edition』のような)もこうした流れにあると言ってもよいだろう。結果としてCMONスタイルは、ボードゲームのコンポーネントの質の向上(とそれに伴う大型化・高額化)を牽引した……と思う。こういうところで断定して言い切れないのが私の弱さなのだが、主観的な印象であって客観的な分析をしたわけでもないし確固たる証拠があるわけでもないので仕方がない。まあそうした流れは実際あったのではないかと思う。
このようなキャンペーンスタイルは、基本的には客単価を高めることを重視したものと言える。バッカー1人あたりの出資額(プロジェクトの総プレッジ額をバッカー数で割った概算値)を計算すると、CMONのミニチュアもりもり系は初期から150-250ドル/人を連発しており、Gamefoundにおける直近のキャンペーンでは300ドル/人を超えるレベルになっていた(2024年のDC Super Heroes Unitedが319ドル/人、2025年のMassive Darkness: Dungeons of Shadowreachが354ドル/人、Cthulhu: Death May Die - Forbidden Reachesが297ドル/人)。近年はボードゲーム自体が値上がり傾向にあるとはいえ、Kickstarterのバッカー一人あたりのプレッジ額は60ドル程度という話もある(個人的にもその程度だと感じている)中で、1人あたり平均300ドルというのはやはり破格である。多くの人に響くキャンペーンというよりは、コア層に対してより深く迫るキャンペーンスタイルと言えるのではないか。
成長、そして後退
こうしたスタイルが支持されて、2010年代後半には、年間売上3000万ドル規模にまで成長する。その売上の半分以上はクラウドファンディングからのものであった。収益としては2017年に350万ドル、2018‐2019年も200万ドルほどと安定した収益を上げている(2019年は香港メイン市場への上場に関する支出があるため赤字になっているが、売上自体は200万ドル弱の収益に相当していた)。しかし2020年には新型コロナの世界的流行の影響を受け(流通の停滞・製造の遅れなどなど、ボードゲーム業界も大変な影響を受けたことは記憶に新しい……もう5年前の話かあ!)、CMONも500万ドルの赤字となった。その後2021-2023には年間4000万ドル前後の売り上げを達成し、収益もこの3年間で合計170万ドルを計上し、回復の兆しが見えたかと思ったところであった。
しかし2025年3月中旬に、2024年の収益が140-210万ドルの赤字とする推測が発表され、コロナ禍後の回復基調と見られていた状況が一転し先行きに暗雲が立ち込めた。4月下旬には2024年の収益を300万ドルの赤字と下方修正。生活費の上昇によって顧客の購買力が低下していることが主要因と報告しているが(実際にクラウドファンディング、卸売ともに売上が減少している)、資金調達の面の問題や長年のホームグラウンドであったKickstarterからGamefoundへクラウドファンディングプラットフォームを移行したことも、あるいは影響しているかもしれない。
その後8月には2025年の上半期の赤字が700万ドルに上ることが報告され(前年同期に比べて売上が1600万ドルから340万ドルへと約8割減)、本社ビルも手放している。
これと並行して4月には第二期トランプ政権の関税政策によってボードゲーム業界は騒然となり、CMONも大きな影響を受けることは誰の目にも明らかであった。これを受けてCMONも大規模な人員削減を発表。状況が落ち着くまでは新たなゲームの開発を停止し、既存のプロジェクトの完遂を優先させることを発表した。
5月には『Arcadia Quest』と『Starcadia Quest』、そして『Blood Rage』『Rising Sun』『ANKH』のEric Lang三部作の権利をTycoon Gamesへ売却。
6月には『Zombicide』シリーズをAsmodeeに売却(権利元は移動したものの、開発スタジオはGuillotine Gamesのままなので開発体制についてはあまり変化がないと思われる)
9月には2024年にMythic Gamesから買い取った『Hel』と『Anastyr』をDon't Panic Gamesに売却、そして10月には『Cthulhu: Death May Die』シリーズをAsmodeeに売却した。
これでCMONに残された大型IPはUnitedシリーズとMassive Darknessのみとなり新規のクラウドファンディングも当面は行わないとしていることから、テーブルトップゲーム・クラウドファンディングを席巻したCMON時代は一旦の終焉を迎えたと言って良いだろう。
CMONの人員削減と新規開発の停止が発表されたのがトランプ政権による対中関税発表直後だったため、関税問題が決め手となったように思われることもあるが、上記の通り赤字に転落したのはトランプ政権発足前の2024年からであって関税問題が主たる要因ではないだろう。やはりコロナ禍による予定外の損失から回復しきれなかったと見るのが妥当であるように思われる。クラウドファンディングは構造上収益が先にくるわけで、これが大きな利点ではあるのだが、一方で収益を得た後・製品を送り届けるまでに発生したコスト増を消費者/出資者に負担させることがし辛い構造になっているのがリスク要因である。いくつかのパブリッシャーがコスト増を理由にバッカーに追加出資を募った一方で、CMONは自社で増加コストを負担するよう努力していた印象がある。そうした負担が積み重なってカバーしきれなくなったのが2024年なのではないだろうか。あるいは関税問題がなければまだ耐えて挽回を期すこともできたのかもしれないが。
とはいえ、これがCMON自体の終焉であるわけではない。クラウドファンディングを活用した大型ゲームのリリースではなく、小型のゲームを小売店経由で販売する方向へと転換することを発表し、2025年のEssen Spielでも新作を発表している。CMONのこれからに期待したいところである。
余談
近年のCMONの売上を見ると、南北アメリカ:ヨーロッパ:アジア・オセアニアがざっくり3:2:1になっていて、市場規模はおおよそこのくらいの比率なのだろうと思う(ボードゲームの市場規模ってよくわからないんですよね……大体世界全体で数千億円くらいかな、と推測している)。アジア圏は特に人口に比べるとまだ小さくて発展の余地があるし、実際に近年増えているような印象を持っている。そんな中で欧米圏のゲームのアジアでのローカライズ・ディストリビューションに大きな役割を果たしていたのがCMON Asiaだったわけで、流通部門の今後についてはまだ状況がよくわかっていない、というかほとんど情報が見えてこなくていろいろと気になっている。
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