「旅と本と〇〇と:マレーシア」6冊目『深夜特急2 マレー半島・シンガポール』
はじめに
いつ、どこに、誰と、なぜそこに行くのか。
それは旅する数だけあります。
旅は一つの物語であり、旅の面白さだと感じています。
『旅と本と〇〇と』は多くの人が登場し、〇〇にはそれぞれの思いや旅のテーマが入ります。
また、旅している場所がテーマになったおすすめ本や豆知識が散りばめられています。
舞台になっている場所への興味や、旅に出るきっかけになれば嬉しいです。
湿った匂い。静寂の中に響く振動。
真っ暗な異国を走る寝台列車の中で、
僕は沢木耕太郎の『深夜特急2 マレー半島・シンガポール』を開く。
何度も読んだ本。
この本に出てくるマレー鉄道で今僕は旅をしている。
2019年12月。
中国の武漢で感染者が発見されてから、
新型コロナウイルスは世界に広まった。
僕は2020年に第一志望の大学に入学したものの、
新入生歓迎会は禁止、オンライン授業、新しい友達をほとんど作ることができず、あっという間に就活の時期を迎えた。
不安定な世界情勢を目の当たりにし、就職は安定を求め都庁の公務員試験に的を絞った。
合格通知をもらっても晴れやかな気持ちにはなれなかった。
僕の大学生活に意味はあったのだろうか。
何かしたい。何か残したい。
その思いはずっと僕の奥底にあった。
大学生活にやりたかったことは何だろう。
緊急事態宣言が出され外出が禁止されていた時、
僕を支えてくれたのは沢木耕太郎の『深夜特急』シリーズだった。
特に2作目の「マレー半島・シンガポール」に出てくるマレー鉄道に惹かれて何度も読んだ。
3度目を読み終わったとき、僕は「マレー鉄道に乗ろう」と決めた。
マレー鉄道は、マレー半島にあるタイ、マレーシア、シンガポールの3カ国を縦断する国際鉄道だ。
縦断するといっても、乗っていれば一気に縦断できるわけではない。
国をまたぐごとに一度降りて出国・入国審査を行い、列車を乗り継ぐ必要がある。
寝台列車はタイ・バンコクのフアランポーン駅から
マレーシアとの国境にあるパダン・ブサールまでの区間。
事前にネットで購入した寝台下段960バーツ(約4,000円)のチケットを見せ、
お世辞にも清潔とは言えない年季の入った列車に乗り込んだ。
15時過ぎに列車はフアランポーン駅を出発。
19時頃に係員がきてボックス席を寝台に変えてくれた。
その後、列車に入ってきた行商からガパオライスを購入し夕食を食べ、寝台に横になる。
『深夜特急』の中に書かれている場所に自分がいる。
何度も読んで知っているはずなのに、
目に映るもの、匂い、音、全てが新鮮なものとして僕の中に流れ込んできた。
朝目覚めると寝台内は明るく、
窓の外はジャングルにあるような深い緑の草木が生い茂っている。
行商から買った朝ごはんを食べ、
寝台の上段に乗っていたフランス人と話していると
あっという間にタイとマレーシアの国境にあるパダンプサール駅についた。
駅構内にあるイミグレーションカウンターで、
タイの出国手続きとマレーシアの入国手続きをする。
「Welcome to Malaysia」
奥の扉を抜けると、そこはマレーシアだ。
時計をマレーシアの時間に変更し、次の列車の切符を買う。
さっきまで乗っていた年季の入った列車とは違い、
近代的なきれいな列車がホームに入ってきた。
思い描いていたような大学生活はできなかった。
でもマレー鉄道の、僕の旅はまだ続く。
今まで本の中だったものを、自分のものに上書きしていこう。
僕は未来の列車に乗り込んだ。
※本編は2023年8月に執筆しています。
マレー鉄道の情報は現在変更されている可能性があります。
<本編に登場した本>
