【映画】ひたむきに生きるすべての人に観てほしい『素晴らしき哉、人生!』は「自分なんて…」の物語
大抵はみんな平凡で、そして必要な人だから
【素晴らしき哉、人生!】
(1946年/アメリカ映画/監督 フランク・キャプラ)
■ジャンル/人間ドラマ、ファンタジー
■誰でも楽しめる度/★★★★☆(古い映画OKなら誰でも)
■後味の良さ/★★★★★(最高! ただし人生は続く)
(個人の感想です)

*以下、映画の内容にふれます
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■これは「私」の物語かもしれない
心に響く映画ってどんなものだろう。
人から「おすすめは?」と聞かれたら、たとえば子育て中の人には家族の映画を、アウトドア好きな人には冒険映画を紹介したりする。テーマがずれると「良い映画だったけど、今の自分とはあまり関係ないかな・・・」という感想になりかねないからだ。今の自分に刺さるテーマかどうか、これが大事。
とすると、誰が観ても「これは自分の物語かも」と感じられる映画は最強なんじゃないだろうか。たとえばそう、『素晴らしき哉、人生!』。
古い映画やハートフルな内容をあまり好まない、興味がないという人もいるだろうけど、観ればほとんどの人がきっと考えてしまう。それは、
――もし自分がこの世に存在していなければ、どんな世界になっていたんだろう?
ということ。
『素晴らしき哉、人生!』のあらすじはこんな感じだ。
1945年のクリスマスイブ。主人公のジョージ・ベイリーが人生に絶望し、川に身投げしようとしているところを空から大天使が見守っている。大天使はジョージを救うべく、二級天使クラレンスにジョージのこれまでを見せるのだが、これがとことんツキに見放された人生だった・・・。
高校卒業後、世界を旅して建築家になる夢を抱いていたが、父の急死により街の小さな住宅金融会社を継ぐことに。進学費用を譲った弟がいずれ会社を継ぐ予定だったものの、弟の幸せを優先し結局は断念。さらには、愛する人と結婚できたのに新婚旅行の費用を訳あって街の人達に配ってしまう。
それでも家族と穏やかに暮らしていたジョージだったが、ある晩8000ドルの紛失から会社倒産の危機に見舞われ、「死ねば保険金が出る。自分なんていなければ・・・」と自暴自棄に。そんな彼の前に現れた風変わりな「天使」がジョージに見せた驚くべき光景、そして最後に訪れた奇跡とは・・・?

■「誰にも言わないよ」―少年ジョージの隣人愛に泣く
タイトルから受ける第一印象とは違い、これは全体としてはジョージの「あまり素晴らしくもない、人生!」の話。
だけどジョージは単なるお人好しなわけじゃない。自分の意見も言えるし、喜怒哀楽も激しくてなかなか人間らしい人。ただ最後には相手の気持ちに寄り添って貧乏クジを引いてしまうのだ――いつも、いつも。
私が特に好きなのは、ジョージの優しさが際立つ子ども時代のエピソード。この間、再鑑賞したら開始11分のここでもう号泣してしまった。
ジョ一ジが手伝っている薬局の主人・ガウワーさんはお客(病気の子ども)に渡す薬の調合を間違い、毒物(!)をお使いのジョージに持たせてしまう。気づいたジョージはどうしたらいいかわからず、父親に相談しようと金融会社に出向くけど、父は取り込み中。とぼとぼ薬局に戻りガウワーさんに「なぜまだ届けてないんだ!」と叩かれたジョージは、これは毒だと指摘して、ガウワーさんは泣きながらジョージを抱きしめる。
――そしてジョージのこの言葉。
「悲しい知らせが来たからでしょ。誰にも言わないよ」
あぁ、もうダメだ。 うわ~ん・・・。
そう、ガウワーさんはその日、「息子が亡くなった」という電報を受け取っていたのだ。人の痛みがわかる少年ジョージ。そしてガウワーさんと結ばれる生涯の絆・・・。
ちなみに後で観返して気づいたのだけど、その時たまたま薬局にいた少女メアリー(後の妻)もこのことを知っていたはず。ジョージがどんな人間かを心底理解していたメアリー。そりゃあ彼を深く愛するはずだよね(新婚旅行がダメになっても怒らないほどに)。
■窮地のジョ-ジを翼のない天使はどう助けるか
こんな風に、自分が弱っている時にそばにいた人間が「誰だったのか」ということは、大きな救済に繋がることがある。思えばこの映画は全編そんな感じだ。あなたが困った時、そばにいたのは誰ですか? ――街の人達の多くは答えるだろう。それはジョージです、と。
父親から受け継いだ住宅金融会社は、大富豪ポッターから常に嫌がらせを受けていて、吹けば飛ぶような零細企業。それでもマイホームで穏やかに暮らしたいと願う街の人達の心の支えのような存在だ。ジョージも妻メアリーという人生最大の幸福に恵まれて、仕事にやりがいを感じていた。
いたのに・・・。
クリスマスの夜、ジョージに訪れる不運は観ていてすごく辛い(叔父さんのオッチョコチョイが原因なんだけど、ポッターも人でなし)。
でもそんななか、目の前に現れる「翼のない二級天使」のなんとトボけていることか・・・。自分のほうが川に飛び込むという、最初の助け方も雑だし(笑)、翼を「どうしても手に入れたい、協力してくれ」とお願いするのもジョージのお人好しに付け込んでいる感じだし、「もちろん」と答えるジョージにも笑えてしまう(あんた、この状況で)。
けれどもそんな天使が思いついたアイディアが素晴らしい。心を激しく揺さぶられて、終わった後しばらく立ち上がれなかったくらいだ。

■融資だけじゃない、思いやりを形にしていたジョージ
天使がジョージにみせたもの。
この映画もこのエピソードも有名なので、書いてもいいかなと思うのだけど・・・(知りたくない方はご注意ください)。
それは、「ジョージが最初から産まれていない世界」。
あまりに荒廃した人の心と、街並み。
人々の憩いの場だったバーには「すぐに酔える強い酒」しか置いてないし、映画館や百貨店があった場所はすっかり夜のネオン街。ジョージが融資した街の人たちの家も、当然ない。笑い合った友人達の心は荒み切って、街はポッターに牛耳られていた。
ジョージがしていたのは、住宅ローンの融資だけじゃなかった。
街の人達に人間的で穏やかな暮らしをしてほしいと願う「思いやり」を形にしていたのだ。
二級天使クラレンスは言う。
「奇妙だろ? 一人の命は大勢の人生にかかわり、その人間が欠けるとすべてが変わる」
「君は素晴らしい人生をおくってきた」
ジョージはようやく気付くのだった。
■私達には「それが誰か」が大切
もちろんこれはファンタジーだし、現実には私達のもとに天使が訪れることはない。でも、これだけは言える。この後でジョージに起こった奇跡と救済は、天使によるものではないということ。
「幸運は、準備していた者にのみ訪れる」・・・と何かで読んだことがあるけれど、ジョージはずっと準備してきた(無意識のうちに)。思えばこれまでの人生すべてがこの奇跡を受け取る準備だったと言ってもいい。
だって人間は、「どのくらい困っているか」よりも「誰が困っているか」を大切にすることがあると思うから。もしもこの映画で完璧な悪役であるポッターが死ぬほど困っていても、助けに走る人はどのくらいいるだろう。
でもジョージだったら?
ジョ-ジが少しでも困っていたら?
この街に住んでいたら大半の人が同じ行動をとるんじゃないだろうか。
――なんかもうこのクライマックスは、いろいろ神がかっていて一人ひとりの登場人物について語るとキリがないけど、私が個人的に好きなのは黒人のメイド、アニーだ。「離婚した時のために・・・(以下略)」というセリフもユーモアが効いていて、泣きながら笑えてしまう(あと薬局のガウワーさんが出てくると癒される)。

■人生には主観だけじゃないー客観と俯瞰もある
思い通りにならない人生は、本人にとっては「素晴らしくもない」ものだろう。でもそれは主観の人生で、客観や俯瞰の人生はまた別にあるのかもしれない・・・と最近思うようになった。
つまり「あなたが生きている今日は素晴らしい」と思ってくれる他者がいるかもしれないということ。――客観の人生。
もうひとつは「ままならない人生にも素晴らしい日は訪れる」ということ。――俯瞰の人生。
私達はきっと・・・そういう多角的な人生を生きているんだと思う。
この映画は「決して甘くない人生」を描いている。でもだからこそ、監督のフランク・キャプラは『It’s a Wonderful Life』(原題)という甘いタイトルをつけることができたんじゃないかな。
■人間扱いした人が、人間扱いしてもらえる
最後に、私がいちばん好きなジョージのセリフを引用したい。映画前半で、父親が遺した住宅金融を潰そうとする強欲なポッターに対して、ジョージが怒りと、父親への尊敬を込めて語る場面だ。
「確かに父は商売上手ではなかった。この会社も零細企業そのものだ。だが父の行いを侮辱する発言は許せない。叔父も知ってるが父には私欲がなかった。弟の学資すら出せない。だがあなたの貸家から何人も救い出した。彼らの生活水準は大きく向上したんだ。(中略)あなたが見下す低所得者は貧しい生活に追われ死んでいく。彼らが家を持つのはぜいたくなのか? 父はそう考えなかった。偏屈な年寄りと違って父は彼らを人間扱いした。そんな父を誇りに思う」
この映画が何十年経っても古くならないのは、呆れるほどに現代にも当てはまる「ごく当たり前のこと」を伝えているからだと思う。
私達はいつだって、誰だって、人間扱いされたい。
人間扱いされることの、なんと当たり前で素晴らしいことか・・・。
確かにこれはファンタジーだし、世の中そんなに甘くない。それでも心の拠り所となる物語を持っていることは、生きる力になる。
本当になる。
だから私は他者を思いやる人間が本物の幸せをつかむ姿を観たくなったら、『素晴しき哉、人生!』を思い出すことにしている。
今日も祈ろう。
――私のなかにいる、あなたのなかにいる「ジョージ」にMerry Christmas…


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