ショートショートエッセイ『読書にハマる時』
読書にハマる時、それは日常で頭の3.5割を小説の世界が占領している時。
それは日常生活や仕事の気掛かりなことを考えている時と同じ感覚。
例えば
職場のあの二人は絶対デキているはず。
なのに、なぜオフィスの空気は普段と変わらないんだろう。
私以外の人は気付いていないんだろうか。
あ、また昆布茶買うの忘れてた。白湯用のシリカ水も。
あれ? そういえば最近、給湯室の出入りが激しくなっていた気がする。
単純にお菓子でも食べているんだろうと思っていた。だってすぐに減るし。
あそこでヒソヒソと盛り上がっているの?
給湯室から戻ってきた人たちがそんな素ぶりをお首にも出さないのは部長の目が光っているからなのかも。ちょうど目に入る位置だし。
有り得なくもない……気になる。
やっぱこのチークネイル、自爪が透けてて落ち着かないな。
明日、二人以上給湯室に入ったタイミングで何気なく行ってみようかな。
最近あんまり給湯室で鉢合うことなかったから、そんなこと考えてもみなかった。
そういえばドラマでも給湯室ってそんな場所だったりするもんな。
でも……私のこと話してたら?
そしたら入った時の変な空気で分かるか。
いや流石にそれはない。
部長との関係はバレてないはず。
私達アイコンタクトすらしないもん。
……もし気付かれてたら?
ないない、そんなこと。
だってそういうの気付かない職場だもん。
……えー、実はずっと給湯室で避けられてたとかだったら、やだな。
明日から給湯室入りづらくなっちゃった。
みたいに現実世界の出来事をあれこれ思い出している頭と、小説を読んでいる時の頭は似ている。
読書を中断して日常を生きている時、頭の隅にある感覚は、現実のあれこれを考えているのと同じ感覚。
文字を読んでいるだけなのに、登場人物たちの問題を半分体感している頭。
小説の続きをぶら下げているのが、頭の中では同じ感覚。
だから読書していない時も頭の片隅にずっと本の世界が居座ってる。
別の人生を引き連れてる。
だから続きが気になるし、読みたくなる。
小説にハマるのはそういうこと。
反対に、読書にハマってない時、
それは頭の片隅を物語が占領するほど、
物語の面白みを感じられず、気掛かりでない時。
あるいは読書<他の事象となっている時。部長と不倫してる時。
