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良き思い出ーーBAR Departure【小説】

オパール色にネオンが光り
トパーズのオレンジ色に灯る。

このネオンが灯る時だけ
私はカウンターに立てる。

「こんばんは、
 こんなところにBARがあったんですね。」

初老ぐらいだろうか
大きなバックに
暖かそうなコート

ニット帽は雪が積もり
まだら模様がついている。

首から下げている、
光を失っていないロケットペンダントが
やけに目につく。

「すみませんね、こんな格好で」

砂糖を溶かしたラムにお湯を注ぐ
品のある年の積み重ねの香りが広がる。
優しく寄り添うバターを乗せる。

「ホット・バタード・ラム」

カクテル言葉は

「良き思い出」

「暖かいものはいいですね。」
「富士山に登ってきたんです。」
「綺麗だった、でも、少し物足りなくて」

無人駅のホームのように寂しそうだ。

「わかっているのですよ。」

「暖かいと気が緩んでしまう。
       マスター少し昔話をしても?」

男が静かに語り出す。

「夢を追い続けたのです。」

小さい頃から
「教師」
という職業に憧れていた。
大好きな野球を子供達としながら
給金がもらえる。

しばらくして、
職場に後輩が赴任した。
一目惚れとは、あのことなのだろう。

バラには
持つことができない
棘のない純粋さ

桜が嫉妬する
散ることのない
可愛らしさ

鈴蘭では
出せない
艶やかな黒い髪

国語科だった君の
品のある言葉遣いに

「この人を幸せにするために生まれてきた。」

そう思えた。

もう、40年ほど前の話だ
あの頃は休みなどなく
仕事と
半分趣味の混ざった部活動に明け暮れていた。

そんな私を、君は

「冬を知らない、四季のようですね」

などと意味のわからぬことを言って
愛してくれるようになった。

部活動の指導を終え、
家に帰ると
温かく、とても美味しいご飯を用意して
待っていてくれる。

祝福されながら、
式をあげた。

「学校の花を独り占めにした」

と揶揄られていたらしい。

当時、生徒指導の担当だった私に
そのようなことを言ってくる
無謀な生徒はいなかったが。


「仕事で忙しくてね。」
「新婚旅行にも、連れて行けなかった。」

あの日は、とても暑かった。

この試合に勝てば「甲子園」
生徒達と私の夢が叶う。

相手チームのホームランで
試合は幕を締め、
夢は「叶う」という言葉を知らず
灰になる。

指導者として、
情けない。
あの子達を連れて行けなかった。

「あなたの、生徒を責めないところ
               好きですよ。」

その帰り道
容赦ない太陽が落ち着き
他者を受け入れる
暖かでどこか寂しげな情景

その光を浴びた
君の横顔は
国語科の君でも
表現する言葉を知らない。

美しかった。

「あの時、
  美しいとしか言えなかったのは
       人生で1番の後悔ですよ。」

「自慢させてください。最近着け始めてね。」

輝きが強いペンダントを開け写真を見せてくる。

確かに、年の積み重ねが魅力になっている。

素敵な人だ。

「もう、2年になるかな?病気でね。」

「彼女がいなくても、
 綺麗な情景はあるんじゃないかってね、
           探しているんです。」

「見つからないってわかっているんですよ。」

ニット帽の雪が少しとけ
男の目尻に落ちる。

「さて、温まりました。
    今日は少しゆっくり眠れそうだ。」

時の積み重ねに甘さが足され
優しいコクのバターが乗った。

ホット・バタード・ラムが

寒そうな男に

暖かく

寄り添っていた。





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