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手術を勧める医師は、本当にあなたのことだけを考えているのか

このタイトルは少し刺激的に感じられるかもしれません。しかし、患者さんにぜひ知っておいていただきたいテーマであるため、あえてこのタイトルにしました。

最初にお伝えしたいのは、多くの医師は患者さんのために最善の治療を考えています。私自身も外科医として、その姿勢は当然のことだと思っています。

しかし、患者さんに知っておいてほしいことがあります。

それは、医師も人間であり、診療を行う環境によって判断に影響を受ける可能性があるということです。


勤務医と開業医では立場が違う

私は勤務医です。

例えば鼠径ヘルニアの患者さんが来られたとき、まず考えるのは

  • 本当に手術が必要か

  • 今すぐ行うべきか

  • 経過観察でもよいか

ということです。

私が「手術をしない」と判断しても、私個人の収入が直接減ることはありません。

もちろん病院経営は重要ですが、それは主に経営陣が考えることであり、私の判断基準は患者さんにとって何が最善かです。

一方、自らクリニックを経営している医師は少し状況が異なります。

スタッフの給与、家賃、医療機器のリース代、借入金の返済など、毎月大きな固定費を抱えています。

つまり、診療を行うことがそのまま経営にも直結します。

もちろん、だからといって不必要な治療を勧めているという意味ではありません。しかし、「患者さんの利益」と「経営」が同時に存在する環境では、利益相反(Conflict of Interest)が生じる可能性があります。これは世界中で医療倫理のテーマとして議論されてきました。

逆に勤務医にも別の利益相反があります。病院の経営方針や診療体制、紹介元との地域連携、病床稼働率、手術件数など、さまざまな要因が判断に影響することもあります。つまり、利益相反は開業医だけの問題ではなく、医療という仕組み全体に存在するものなのです。


問題は「悪意」ではない

ここで誤解してほしくないことがあります。

私は「開業医が信用できない」と言いたいわけではありません。

実際に素晴らしいクリニックは数多くありますし、私自身も尊敬する開業医の先生がたくさんいます。

この問題の本質は悪意ではありません。人は誰でも、環境によって無意識のうちに判断が影響を受ける可能性があります。

心理学では、このような現象を認知バイアスの一つとして説明しています。

つまり、本人も気づかないうちに、

「手術したほうがいいのではないか」

という判断に少しずつ傾いてしまう可能性があるのです。

だからこそ欧米では、医師の利益相反について多くの研究が行われ、医療倫理の指針まで整備されています。


グレーな症例ほど、医師の考え方が表れる

明らかに手術が必要な患者さんなら迷うことはありません。

逆に、全く必要ない患者さんも判断は容易です。

問題は、その中間です。

例えば、

「今すぐではないけれど、将来的には手術になるかもしれません。」

そんな患者さんです。

鼠径ヘルニアは、明らかに手術が必要な方もいれば、すぐに手術しなくても経過観察できる方もいます。そのような「判断に迷う」症例こそ、医師の考え方や施設の方針が反映されやすい領域です。

このような痛みなどの症状が乏しい患者さんでは、

「迷っているのであれば、数か月後にもう一度診ましょう。」

という医師もいれば、

「嵌頓の可能性も考えると、早めに手術をしておきましょう。」

という医師もいます。

どちらも医学的に間違いではないことがあります。

だからこそ、患者さん自身が「なぜ今手術なのか」を理解することが大切です。


私なら、こんな質問をします

もし私自身や家族が手術を勧められたら、次のようなことを聞きます。

  • 今すぐ行う必要がありますか。

  • 手術時期を選ぶことはできますか。

  • 手術しない場合のデメリットは何ですか。

  • 他の医師であれば、違う判断をする可能性はありますか。

  • セカンドオピニオンを受けても構いませんか。

誠実な医師であれば、このような質問を嫌がることはありません。


病院選びで大切なこと

私は、患者さんには「どこの病院やクリニックがよいか」だけではなく、

「その医師がどのような立場で診療しているか」

という視点も持っていただきたいと思います。

勤務医や開業医の良し悪しの話ではありません。

重要なのは、その医師が利益相反を自覚し、それを適切に管理しながら診療しているかです。

利益相反は、それ自体が悪いことではありません。勤務医であっても開業医であっても、医療に携わる以上、何らかの利益相反は避けられません。大切なのは、その存在を自覚し、患者さんにとって何が最善かを常に問い続ける姿勢です。利益相反があることと、不適切な診療を行っていることは決して同じではありません。

もし私自身が経営者になれば、同じ葛藤を抱えるかもしれません。だからこそ問題なのは個人ではなく、そのような葛藤を生み得る医療制度や経営構造そのものなのです。

医療に絶対の正解はありません。

だからこそ患者さん自身が少しだけ医療の仕組みを知ることで、医師と対等な立場で治療方針を考えられるようになります。

それが、納得できる医療を受けるための第一歩であり、本当の意味での病院選びにつながるのではないでしょうか。


本記事は、開業医・勤務医の優劣を論じるものではありません。医療における利益相反という考え方を知っていただき、患者さん自身が納得して治療を選択するための一助となれば幸いです。

※利益相反(Conflict of Interest)は、日本だけでなく欧米でも長年議論されている医療倫理のテーマです。詳しく知りたい方は以下の資料をご参照ください。

【参考文献】
・American Medical Association. Physician Self-Referral.
・American Medical Association. Conflicts of Interest in Patient Care.
・American Medical Association Journal of Ethics. Physicians' Financial Interests.
・U.S. Department of Health and Human Services. Physician Self-Referral Law (Stark Law).


この記事はマガジン
「消化器外科医がみる医療現場のリアル」にまとめています。


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