羽化を待つ日々
先月の半ば頃から、観察していたものがあった。
それは、アゲハ蝶のサナギ。
春先に植えた金柑の木に、いつの間にかいたようで、気がつけば幼虫が一本の枝にくっついたまま微動だにせずそこにいた。
見つけた瞬間、思わず声が出た。
蝶もガも、まして幼虫なんて苦手だからだ。
それなのに、葉っぱもそう多くない金柑の木を毎日のように見て、水やりまでしていたのに、一度もその存在に気づかなかったことに驚いた。
でも、気になったのは場所だった。
お日様は容赦なく照りつけるし、すぐそばには室外機がある。熱い風も吹きつける。
「こんな場所でサナギになるなよ。」
そう思っていた翌日には、同じ場所で、サナギの姿になっていた。
嫌いなはずなのに、自分の庭木にいるからだろうか。
いつしか、水やりのたびに目で追うようになった。
旅に出ている間も気になった。
なんなら家族にも紹介したくらいだ。
たった二本の糸だけで体を支え、真夏の暑さに耐えている姿を見ると、放っておけなくなってしまった。
暑すぎて羽化できないんじゃないか。
伸びてきた新芽が邪魔になるんじゃないか。
余計なお世話だとわかっていても、心配ばかりが増えていく。
そして、「もうそろそろかな」と思って見に行った朝。
何匹ものアリが、サナギの上を歩いていた。
サナギは、とうとう帰らぬまま、
ひっそりと、ほかの命へその身を繋げていた。
嘘だと思って近づくと、
カサカサと、風に揺られて、その身だけが音を立てていた。
今朝は、いつもより少し涼しかった。
その涼しさが、かえって胸に沁みた。
羽化する姿を見られるものだと、どこかで勝手に思い込んでいた。
でも、自然は人の願いどおりにはならない。
命は、生きるためだけではなく、ときに別の命を生かすためにもつながっていく。
圧倒的な自然の摂理を前にすると、人ができることなんて、本当に少ない。
そんなことを思った、夏の朝の一幕だった。
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