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火山の深部低周波地震と南海トラフの深部低周波地震は何が違うのか?

2026年1月9日、気象庁は南海トラフ地震関連解説情報を発表し、
「南海トラフ沿いの大規模地震の発生可能性が、平常時と比べて相対的に高まったと考えられる特段の変化は観測されていない」
と報告しました。


この発表の中では、深部低周波地震(微動)と同期した地殻変動が観測され、それらがゆっくり滑り現象(スロースリップ)に関連して同時に起きた可能性が示されています。

ここで混同されやすいのが、

  • 火山(例:富士山)で起こる 深部低周波地震

  • 南海トラフなどプレート境界で起こる 深部低周波地震(微動)

という、名前は同じだが性質の異なる現象です。


◾️ 結論:同じ名前でも、まったく別の現象

まず結論から述べます。

  • プレート境界の深部低周波地震(微動)→ ゆっくり滑りに伴って発生する「断層滑り」の一部

  • 火山の深部低周波地震→ マグマや流体の移動が関与した現象で、必ずしも断層滑りではない

以下では、
① メカニズムの違い
② 活動の違い
③ 例外的・少数派の説
の順で説明します。


① メカニズムの違い

プレート境界の深部低周波地震(微動)

プレート境界では、断層が非常にゆっくり滑る「ゆっくり滑り現象」が起こります。
この滑りのうち、

  • 地震波を出さない部分 → 地殻変動(GNSSなど)で観測

  • 小さな地震波を出す部分 → 深部低周波地震(微動)として観測

という関係にあります。

このメカニズムについては、

井出哲教授(東京大学)が
「深部低周波地震はプレート境界でのせん断滑りによって生じる」
ことを示しています。

「Mechanism of deep low frequency earthquakes: Further evidence that deep non-volcanic tremor is generated by shear slip on the plate interface」
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2006GL028890

※ 井出先生の著書は、初学者にも現在の地震学の最前線がわかりやすく紹介されており、おすすめです。


火山の深部低周波地震

一方、火山下で発生する深部低周波地震は、

  • マグマの移動

  • マグマ由来の流体(水・ガス成分)の移動

などが関与すると考えられています。

代表的な研究として、
中道治久氏(東北大学) による岩手山の研究があります。

「Source mechanisms of deep and intermediate-depth low-frequency earthquakes beneath Iwate volcano」https://academic.oup.com/gji/article/154/3/811/713249

つまり、火山の深部低周波地震は「断層滑りとは限らない」点が本質的な違いです。


② 活動の違い(規模分布)

両者は「活動の仕方」も異なります。

火山の深部低周波地震

  • 規模別頻度分布は冪乗則(Gutenberg–Richter則)に従う

  • 明確なマグニチュードの範囲が見えにくい


プレート境界の深部低周波地震

  • 規模に明確な上限が存在

  • ゆっくり滑りの一部として発生するため、活動様式が制約される

この違いは、
麻生尚文氏(東京大学) の研究で整理されています。

「Tectonic, volcanic, and semi-volcanic deep low-frequency earthquakes in western Japan」https://doi.org/10.1016/j.tecto.2012.12.015

要するに、

プレート境界の深部低周波地震は「ゆっくり滑り現象の一部」

と考えるのが現在の主流です。


③ マイナーな説:流体移動説

一部には、

「プレート境界の深部低周波地震も、火山と同様に流体移動で説明できるのでは?」

という考えもあります。

代表例が、

Shapiro 教授(当時フランスIPGP)
「Low-Frequency Earthquakes and Pore Pressure Transients in Subduction Zones」https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2018GL079893

ただし、この説は現在では少数派です。

プレート境界の深部低周波地震を最初に発見したのは実は日本人で、小原一成先生(防災科研・当時) ですが、当初は流体説も検討されていました。

小原一成先生
「Nonvolcanic Deep Tremor Associated with Subduction in Southwest Japan」https://www.science.org/doi/10.1126/science.1070378

その後、観測網の充実と解析の進展により、

断層滑り説が強く支持されるようになり、現在ではほぼ決着がついた

と考えられています。


まとめ

  • 南海トラフの深部低周波地震(微動)→ ゆっくり滑りに伴う断層滑り

  • 火山の深部低周波地震→ マグマ・流体移動が関与する別種の現象

  • 名前が同じでも、意味する物理過程はまったく異なる

今回の気象庁の発表は、
「ゆっくり滑り現象が観測されている」ことを示したものであり、

直ちに巨大地震の切迫を意味するものではありません。

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