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岩手山やや深部低周波地震急増

岩手山で、やや深部低周波地震が一時的に増加しました。

2026年4月10日、気象庁によって
山頂直下のやや深い場所で低周波地震が増加したと報告されています。

ここで気になるのは、

「やや深部低周波地震とは何なのか?」
「地下で何が起きているのか?」
「噴火につながるのか?」

という点です。

結論から言います。

このタイプの地震は、マグマや流体の移動に関連して発生していると考えられています。

つまり、地下では何らかの流体の移動が起きている可能性があります。

ただし、今回の活動だけをもって
噴火が差し迫っていると判断することはできません。

むしろ、長期的な火山活動の変化に関係する現象の一つと考えられます。

今回は

1 岩手山で起きたやや深部低周波地震とは何か
2 地下で何が起きているのか
3 噴火につながるのか

この順番で解説します。


1 岩手山でやや深部低周波地震が発生

2026年4月10日、岩手山の山頂直下、やや深い場所で
低周波地震が一時的に増加しました。

この地震は、いわゆる浅い低周波地震とは異なります。

浅い低周波地震は、火口直下の数km以内で発生し、
噴火警戒レベルの判断にも使われることがあります。

一方で今回のものは、深さ5〜10 km程度。

より深い領域で発生しており、
火山の内部、特に流体の挙動に関係していると考えられます。

どちらかといえば、

いわゆる「深部低周波地震」に近い性質を持つもので、
火山によっては噴火の1週間以上前に活発化するなど、
長期的な活発化の指標として使われることもあります。

ただし、この現象自体はまだよく分かっていません。

提案されているメカニズムは複数あります。

・マグマの移動
・マグマ上昇に伴う脱ガス(H2OやCO2)
・マグマ上昇に伴う応力変化(traction force)
・流体流路の自励振動
・クラックの振動

一方で、必ずしもマグマが関与しないケースもあります。

例えば、

・マグマの冷却・固化に伴う揮発成分の放出(second boiling)
・プレート深部から上昇する流体

などです。

実際に、

島根県東部やマウナケア、
さらに大阪湾や有馬温泉直下などでも、
火山とは直接関係のない場所で同様の現象が観測されています。

つまり、

「低周波地震=マグマ」

とは限らないということです。

今回の場合は活火山である岩手山で起きているため、

マグマが関与している可能性もあるし、
流体だけで説明できる可能性もある、

この両方を考える必要があります。


2 地下で何が起きているか

では、地下では何が起きているのか。

ここは、速度構造と過去の研究が重要になります。

1998年の岩手山の噴火未遂の際にも、
やや深部低周波地震が活発化していました。

Nakamichi et al. (2002) によると、

その震源は「低速度領域の上端」に位置しており、
周囲は高速度領域に囲まれていました。

さらにこの時、

震源が深さ方向に広がる挙動が観測されています。

これは、

応力が増加して、
複数の深さで地震が起きやすくなった状態と解釈できます。

また、Nakamichi et al. (2003) では、

この地震は通常の断層滑りでは説明できず、

・CLVD成分(複数の断層の組み合わせ)
・体積変化を伴わない流体運動

といった特徴を持つことが示されています。

つまり、

単純な地震ではなく、
流体やマグマの影響を受けた特殊な地震です。

ではマグマだまりはどこにあるのか。

Nakamichi et al. (2002) や
Zellmer et al. (2019) によると、

岩手山の主なマグマだまりは
深さ10〜20 kmにあると考えられています。

今回のやや深部低周波地震は、
ちょうどその上に位置します。

さらに、

深さ30 km付近にも低速度領域があり、
そこでは深部低周波地震が発生しています。

つまり、

・深部マグマだまり(約30 km)
・浅部マグマだまり(10〜20 km)
・その上で起きるやや深部低周波地震(5〜10 km)

という階層構造が考えられます。


ここからは仮説です。

私は3つの可能性を考えています。


1 マグマが動いた説

2024年以降、岩手山はやや活発な状態が続いています。

特に2025年初頭から、
やや深部低周波地震の活動度が高い状態にあります。

さらに、

浅い領域で地殻変動が起きた後に
この地震が活発化しています。

これをどう解釈するか。

一つの可能性は、

浅部マグマの供給に対応して、
深部から新たなマグマ供給が起きたというものです。

つまり、

上が動いたから下も動いた

というパターンです。

ここは非常に重要で、

マグマは必ずしも「深部→浅部」に一方向で動くとは限りません。

Journeau et al. (2022) によると、

カムチャッカのKlyuchevskoy火山では、

微動の震源が
深部→浅部だけでなく
浅部→深部にも移動することが示されています。

つまり、

火山内部の流体・マグマシステムは
双方向的に応答する可能性がある。

この視点は重要です。


2 流体が動いた説

マグマだまりの直上で起きていることから、

マグマから分離した流体が
この地震を起こしている可能性もあります。

特に低周波地震は、

流体の関与を強く示唆する現象でもあります。


3 複数断層の同時活動

マグマや流体の移動によって応力が変化し、

複数の断層が同時に動いた可能性もあります。

今回「一時的に増加した」という点から、

長期的な応力蓄積ではなく、
短期的な圧力変化、

つまり流体やマグマの移動に伴う変化の可能性が高いと考えています。


3 噴火につながるか

結論です。

今回の活動だけをもって
噴火が近いと判断することはできません。

理由は3つあります。

・発生が比較的深い(5〜10 km)
・同様の活動は過去にも繰り返されている
・直接的な噴火前兆と一致しない

ただし重要なのは、

西岩手山周辺では熱活動が活発であり、
水蒸気噴火のリスクは常に存在するという点です。

つまり、

今回の現象は

「噴火の直接前兆ではないが、
火山が活動している証拠の一つ」

と捉えるのが適切です。


まとめ

・やや深部低周波地震は流体やマグマに関連
・地下では複雑な階層構造の活動がある
・マグマは一方向ではなく双方向に動く可能性
・今回の活動だけで噴火とは言えない
・ただし火山は常にリスクを持っている

重要なのは、

現象を単純に「危険」「安全」で判断するのではなく、
データと仕組みを理解して判断することです。

今後も冷静に、観測データを見ていきましょう。

本記事の内容の動画

https://youtu.be/DpSNnP48CLY


参考文献

気象庁「岩手山の火山活動解説資料(令和8年3月)」https://www.data.jma.go.jp/vois/data/report/monthly_v-act_doc/sendai/26m03/207_26m03.pdf

気象庁「火山の状況に関する解説情報」https://www.data.jma.go.jp/vois/data/report/activity_info/207.html

気象庁「岩手山の火山観測データ」https://www.data.jma.go.jp/vois/data/obs/kansoku/open-data.php?id=207

Nakamichi et al. (2002)
https://doi.org/10.1016/S0377-0273(02)00218-4

Nakamichi et al. (2003)
https://doi.org/10.1046/j.1365-246X.2003.01991.x

Zellmer et al. (2019)
https://doi.org/10.3389/feart.2019.00040

Journeau et al. (2022)
https://doi.org/10.1126/sciadv.abj1571


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