見出し画像

諏訪 ─ 古層が積もり続けている土地 | Earth Folklore Log #001

諏訪には、ミシャグジという古くから信仰されてきた神がいる。
しかし、その正体はよく分からない。

木ともいわれる。
岩ともいわれる。
山ともいわれる。

姿を持たず、それでいて人々は、その見えない存在を信仰しながら、この土地で暮らしてきた。
なぜ、これほど掴みどころのない存在が、いまも大切にされ続けているのだろう。

それが、私にとって諏訪の魅力であり、同時に違和感でもあった。


そのモヤモヤを抱えながら、私は各地を歩いた。
人が生み出す物語は、どこから生まれるのだろう。
歩くたびに、疑問は減るどころか増えていった。

なぜ土地ごとに、異なる「物語」が存在するのか。
なぜ人は、「意味」を求め、生成し続けるのか。
なぜ人は、世界を「ただ存在する世界」として受け入れられないのか。


私は最初、民俗学に答えがあると思った。
柳田國男の『遠野物語』を読み、中沢新一の『精霊の王』を読み、神話学や宗教学も読んだ。

どれも面白かった。

しかし、どれも私が知りたかった答えそのものではなかった。

私が知りたかったのは、神話の意味でも、歴史の正しさでもない。
なぜサピエンスは「物語」を生成するのか?せざるを得ないのか?
そのこと自体だった。


神話。
国。
貨幣。
SNS。
時代も姿もまるで違うこれらは、本当に別々のものなのだろうか。
どれも目には見えない「虚構」
手では触れられない「虚構」
それなのに、人々がそれを「ある」と信じることで「現実」は動き続けている。


ある日、諏訪の土地の断層を見た。そこに置かれる磐座。
ある日、金沢で雪解け水が街を形づくる様子を見た。水辺にある依代。
ある日、栃木でそびえ立つ岩山を見た。そこに掘られる磨崖仏。
そのとき、一つの仮説が浮かんだ。
「物語」は人間の頭の中だけで、生まれるのではない。
地球とサピエンスの「あいだ」から生まれるのではないか。


断層が、神を生み。
川の水が、祭りを生み。
境界が、妖怪を生み。
ネットワークが、新しい共同の物語を生む。
土地が「物語」を誘発している。


私は、このサピエンスが物語を生成するプロセスを読み解くために「Earth Folklore OS」というフレームワークをつくった。

地質・水・生態系から始まり、物語、制度、身体、認知へと積み重なる”7つのレイヤー”として整理したのが、このEarth Folklore OSである。

この概念図は、土地から物語が生まれるプロセスを、7つのレイヤーとして整理した仮説である。

地質、水、生態系という地球側のレイヤーの上に、神話や祭礼といった「物語」が生まれ、やがて制度となり、人の身体を通して体験され、認知世界へと積み重なっていく。

つまり、「物語」は最初から人の頭の中にあるのではない。地球とサピエンスのあいだを往復しながら生成されていく。

もちろん、このレイヤー分けが唯一の正解だとは思っていない。
机の上で完成する理論でもない。
旅をし、土地を歩き、観察し、対話し、仮説を立て、また歩く。
そのたびに、このOSもまた書き換えられていく。

このシリーズは、その仮説を一つずつ検証していく記録でもある。


では、最初の検証地はどこか。
私は迷わず、諏訪を選んだ。
よく、「諏訪には古い層が残っている」
縄文の気配。
神話。
国家。
祭り。
たしかに、それらはこの土地に積層されている。
しかし、歩いてみて感じたのは、少し違うことだった。

古層は、過去にできて、そのまま残っているのではない。
御柱祭は、いまも七年ごとに新しい木を曳き、新しい人が集まり、
新しい記憶を積み重ねている。
縄文の上に神話が。
神話の上に国が。
国の上に現代が。

そして、現代の私たち自身の解釈が積もっていく。
古い層は、いまも更新され続けている。

私はこの現象を「現代古層」と呼ぶことにした。
過去の遺物ではなく、いまこの瞬間も堆積し続けている層。
諏訪は、その営みがもっとも見えやすい土地のひとつだった。

Earth Folklore OSを最初に起動する場所として
これ以上ふさわしい土地を、私はまだ知らない。


次回から、Earth Folklore OSを携えて、この土地を実際に歩いてみる。
地質。
水。
生態。
物語。
制度。
身体。
認知。
それぞれのレイヤーは独立して存在するのではない。
一つの土地のなかで重なり合いながら、一つのEarth Folkloreを生み出している。

まずは、古層がいまも積もり続けている土地──
諏訪から、その旅を始めよう

Earth Folklore OS
地球とサピエンスのあいだから生まれる物語を探究するプロジェクト

Earth Folklore OSは、土地を歩き、地質・水・生態・物語・制度・身体・認知という複数のレイヤーを読み解きながら、「世界を物語として知覚する旅」を実践するためのフレームワークです。

Earth Folklore Log
各地を歩き、土地から生まれる物語を記録するフィールドノート。

Earth Folklore Lab
Earth Folklore OSを実践・検証し、新たな物語の生成を試みる実験プロジェクト。

世界を物語として知覚する旅へ

このプロジェクトの起点は、こちらの宣言から

いいなと思ったら応援しよう!