母の胸ぐらをつかみたかった【短歌2首】
こんにちは。なぜ応募記事を書くのか。
それは募集要項を読んでいるうちに、
自分の心の奥の、いくつもの小石のうちのひとつが
キラッ✨️とまたたいて
自分を拾い上げて外に出してよ
という声が聞こえる気がするからかもしれません。
前置きが長い、考える赤柴です。
今日は内容の都合により少し強めの言葉で書いてはいますが
普段のわたしはいたって穏やかで
むやみに噛みつくこともいたしません。
ただの柴犬好きの人ですので
安心してください。
#なんのはなしです家
(以下本文1995文字)
実家に帰らないと決めて20年になる。
母とのかみ合わないやりとりは
今思えば、まるで未発達なAIとAIの会話のようだった。
想像してみてほしい。
世界の格言、権威のある人や有名人の言った言葉、
昭和という時代をものともせず
表舞台で活躍した女性たちのデータばかりを集めた生成AIを。
これは母だ。
そしてもう一方は
童話、こども向け物語、友達との会話からなる生成AI。
これは私。
どちらも偏っていることは否めない。
だから会話はこんなふうになる。
「傘を持ってなかったから迎えにきてほしかった」
『ソレハアナタガ天気予報ヲ確認シナイノガ悪イ』
「友達の家でおやつを出してくれるみたいに、
友達が遊びにきたらおやつを出してほしい」
『家トイウ場所ヲ貸シテアゲテイルノニ、ナゼオヤツマデ出サナイトイケナイノ』
「あしたの遠足のお弁当、おにぎりにしてほしいな」
『オニギリニシタイノハアナタノ都合。ジブンデヤリナサイ』
「新学期、ぞうきんがいるんだけど」
『アナタガ使ウノダカラ、自分デヤリナサイ』
「髪を伸ばしてみたいの」
『見タ目ヲ気ニスルナンテミットモナイ。一切面倒ミナイカラ自分デヤリナサイ』
「春菊はあんまり好きじゃない…」
『世界ニハ食ベタクテモ食ベラレナイ人ガタクサンイル』
「どうして青魚ばっかり?」
『土光サンハ毎日メザシヲ食ベテイタ』
「宿題のここだけ分からないから聞きたいんだけど」
『読書百篇、意、オノズカラ通ズ』
「ちょっと暑い」 「ちょっと寒い」
『心頭滅却スレバ火モマタ涼シ』
「体重は今41キロ」
『標準体重ヨリ少シ重イホウガ健康的デ長生キト新聞ノ記事ガ…』
「たまには私だけじゃなくお母さんも、ご飯を作ってほしい」
『コッチガ頼ンダワケジャナイ。アンタガ勝手ニヤッテイル。文句ヲ言ウナ』

「それはあなたが悪い」
そんなメッセージを受け取り続け
自分の感情や人との距離感がよく分からないまま大人になった。
どうも生きにくい、と壁にぶつかるたびに
自己分析を試みると
原因はどうしても幼少期と母に行き着く。
母の筆跡を見るだけで、声を聞くだけで血圧が上がり動悸が激しくなる。
自分を守るには距離を置くしかない
だから帰省も電話もしないことにした。
それでもいつかは
「あの時、何であんなふうに言ったの? すごく嫌だったんだよ」
なんて、ざっくばらんに話せる時がくるかもしれないと
まだどこかで思っていた。去年までは。
父の葬儀で久しぶりに会った母に
あなたを拒否した覚えは全くないと、
朗らかに、きっぱり言い切られるまでは。
うそでしょ。覚えてないの?
母にとっては初孫に当たる、
息子が生まれると知らせた電話に
開口一番「何も手伝えないから」と言い放ったことも?
小さな息子を連れて実家に帰ろうと思い詰め
決死の覚悟で
「ちょっと帰って相談したいことがあるんだけど」とかけた電話に、
「忙しいから困るわ」と
理由も聞かず拒否したことも?
さすがに妹が母に
「お姉ちゃんが自分から実家に電話するなんて何かあったんだよ」
と言ったのをスルーしたことも?
母の自己評価は今
「4人の子をワンオペで育て上げ、夫をみとり、生涯学習を続けている私」なのだ。
「あなたのことがどうしても好きになれなかった」とか
「あの時はイライラしていたから」とか
言われたほうがまだ良かった。
笑っちゃうよね。
母に「母であること」を求めるのはやめよう、と
何度も何度もあきらめてきたはずだったのに
まだどこかで期待していたなんて。
私が閉じ込められた「記憶の檻」の鍵を
歩み寄ってきてくれた母が
「あの時はごめんね」と外側から開けて
私を解放してくれるんじゃないかって。
でも、そんなものは幻想だった。
「記憶の檻」の鍵は内側にあって
自分でそれを開けて外へ出ていくしかないのだ。
そしてその鍵は、気づけばもう私の手の中にある。
ぶつかり、もがきながら生きてくるうちに
いつのまにか手の中に、小さなしっかりした鍵が握りしめられていた。
これは和解じゃない。
許すことでもない。
許せない、ということも全部まとめて
ここに置いていくということだ。
私は自分で檻の外へ出ていく。
明るいほうへ。
いい匂いのするほうへ。
弟に頼まれて渋々入った実家LINEには
今日も母から、花の写真や痛む体についてのLINEが届く。
私は短い返事や無難なスタンプを返し
そっとLINEを閉じる。
【短歌】
子育てをやりおおせたと言う母の
胸ぐらつかみ叫びたかった
見晴るかす 母という名の海原を
浮き輪ひとつで漂った日々

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