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今起きているクルーズ船のハンタウイルスってどんなウイルスなの? の巻

最近ハンタウイルスってのが話題になっているから一応まとめておきます。おそらく日本で働く医師でハンタウイルスの患者さんを見たことがある人なんて両手指で数えるほどもいないんじゃないかな。指といえば小学生時代、じゃんけんの勝ち手に応じて、階段を登る遊びしてたんですが、グーで勝ったら友達がグリコ・森永事件とかいって10歩も上がりやがってずるい!って言ってたものです。
さて、今回のケースですが、4/1にアルゼンチンを出航した船のようでして、5/6現在の時点では以下のようなケースが報告されています。

https://www.who.int/emergencies/disease-outbreak-news/item/2026-DON599  より


ハンタウイルスは1984年以降は日本で発生していないと言われている疾患です。ハンタって聞くとどうしても某長期連載(休載)のマンガが浮かぶと思うのですが全く関係がなくて、韓国のハンタンガン(漢灘江)という川の流域で流行していたからその名前がついたわけです。

このハンタウイルスは現在でも世界で毎年10-15万人程度の発生報告がある結構有名な感染症で、ブニヤウイルス目というグループの中に、げっ歯類媒介のハンタウイルスがあります。
ハンタウイルスは感染すると発症するまでに7~39日(中央値18日)くらいかかるんです。長いというか広いんですよね、だいたい感染症って、例えばインフルエンザ(1〜3日)や麻疹(10〜14日)みたいな狭い範囲で発症するんですが、7日だったり30日だったりみたいな広さの感染症ってあまりないんですよ。だから今回のケースも「乗船前に感染していた」とされてもおかしくないわけです。これは難しいですよね、1か月以上前の行動歴なんかわかんないし。

そして、ハンタウイルスに感染して発症すると最初は発熱と悪寒、筋肉痛みたいな症状から始まりますが、3-5日くらいそれが続いた後に以下の2つの病型になります。

腎症候性出血熱(HFRS)
 中国、韓国、ロシアなどのドブネズミ、セアカネズミが保有。
 腎臓を中心とした血管透過性亢進。
 悪化するとショックにいたり乏尿から腎不全に至る。
 全身の出血傾向(点状出血)が特徴。
 致死率1-15%
ハンタウイルス肺症候群(HPS)  
 南北アメリカのシカネズミが保有。
 肺を中心とした血管透過性亢進。
 血小板減少、肺水腫が中心。
 数日で一気に呼吸不全に至って死亡する。
 致死率40%

主に農村地域などでネズミの糞などに曝露すると感染すると言われますが、都市部における不適切なビルの清掃や解体により、そこにいたネズミの糞が空気中に浮遊し、それを吸入した周辺の人たちが集団発生するということがよく知られています。
ウイルスが強いというよりかは、侵入による人間の免疫応答が異常に強すぎて上記の症状が出ると言われます。空き巣が入った家があるぞ-!街中を空襲で焼き払え!みたいな感じ。ドブネズミは全然美しくないです。

特異的治療法はまだないです。リバビリンとかが効くと言われたりもしますが実際には有効性が乏しく、とにかくICUに入室して支持療法と対症療法、ときにECMOも回したりします。HPSに関しては奇跡的に救命されても何か月も後遺症があるケースもあります。韓国や中国にはHantavaxってワクチンがありますが、あくまでも国内における流行のためのものであり、どこでも打てるというものではないですね。

感染経路はエアロゾルなわけだから対策としてはとにかくネズミに近寄らない、ネズミに関連する業務のときはN95マスクなどをして吸入しないということが中心です。アルコールでも倒せます。
咳や下痢がそれほど出る疾患じゃないからヒトからヒトへの感染は稀とされるので、標準予防策で十分と言われますが、ハンタウイルスの一種である南米のアンデスウイルスだけは飛沫感染や性交渉でうつるのでは?ともいわれています。

今回の事例は南米由来だからHPSのパターンであった可能性が高そうです。一気に死亡に至っていることもそれを裏付けられますね。ただ潜伏期間的には乗船前からの感染があった可能性が高そうです。
接触歴次第ですが、船内で感染するにしては早すぎる印象もあり、各々が別の感染経路で乗船前に感染していたのではないかと推察されていますね。すでに隔離も終わっているので、船内で広がったり大きなパンデミックにつながる可能性は低いと期待したいところ。(むしろアルゼンチンでの3月の行動歴のほうが大事)

このあたりが現時点でわかっていることでした。
僕も一応渡航者感染症が専門でありますので、こういった真面目な記事も時々報告いたします。
なにはともあれ続報と動きを待つしか無いですが、センセーショナルな報道やSNSなどの扇動的な文章に煽られず、正しく理解して正しく恐れるってのはいつぞやのコロナのときにも学びましたもんね。

参考:
Emerg Infect Dis. 2006 Aug;12(8):1271–1273.
Hunter's tropical medicine and emerging infectious diseases

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