案内所流 かゆくなってくる ~episode3~
じめじめした梅雨の昼下がり、
私は涼しくて居心地のいい、
「あの場所」でパソコンを広げていた。
趣味のエッセイを書いている。
基本的に血は NG です。
でも 、柔らかな子供の肌に掻き壊しの傷。
爪の跡が赤い線になって、
二の腕や背中に……
「ひぃ~、皮膚科に行こう!」
だったんですけどねぇ。
50を過ぎて、全身がかゆいです。
今の季節なら、乾燥かな。
春先でも手放せなくなった、
ヒートテック系アンダーウェア。
これも生地によっては、
乾燥肌を助長するらしい。
市販の薬でも、
良いものはあるのだろうけど、
お値段がねぇ。
原因根治型はさらにお値段が……
「しょせん対症療法だしなぁ」
そんなこんなで騙し騙し。
年2回ある健康診断でも、
「好中球が上がってる?
炎症反応、そりゃあるでしょ。
かゆいもん。
それより、悪玉コレステロールだよ。
生活全般かなり意識してるのに、
全然減らない。
悪玉の由来はここなのか?」
人間、慣れって怖いですよね。
花粉症の季節を今年も無害でやり過ごす。
梅雨に入り、じめじめした時期。
「かゆいな…あせもかな。
ん? 半年、同じこと言ってないか?」
私は介護職をしているので、
それなりに医療知識は持っている。
ほら、医療連携が基本だし、
素人だから調べてなんぼ。
その結果、
「帯状疱疹っぽいんだよね。
ピリピリ痛いし、
左肩にかゆみが集中してる感があるし」
「でもねぇ」と、
私は両腕を広げ伸びをする。
左肩にピリッとした違和感がある。
「皮膚に目立った症状はなく、
乾燥と帯状疱疹。
まんま、おじいちゃんだよ」
私は実際に、
今書いたばかりの動作を、
なぞるように伸びをした。
「誰がおばあちゃんよ」
「はい、どうぞ」と座っていたテーブルに、
着物姿の年齢不詳の美人が、
おかわりのお茶を持ってきてくれた。
「…えっと、すみません。
ファミレス代わりに使って」
「いいわよ。狐月庵の東方美人茶でしょ。
催促した気はないけど、嬉しいわ。
一人で楽しむけど」
「…それはもう、
蒼子さんの物ですから、ご自由に。
それに、
『高級品は分かる人が楽しめばいい』
が持論ですので」
「それより」と、
私はパソコンの画面を見せる。
「見えます?」
「失礼ね」と、蒼子さんはお盆で叩くふり。
椅子を引き寄せ、私の隣に陣取る。
「コンテスト用の記事だったわね。
読んでも?」
私はどこかギクシャクと頷きながら、
講釈する。
「神経も自然治癒するけど、一日で一ミリとかだし、ずっと掻いてたし、神経が過敏になったせいか、長引いてるし……」
「それが、あなた流の最悪の事態?」
「まあ、ですね。そもそも、かゆみの信号は微弱で、神経の興奮を鎮める薬も――」
「それはお医者さんと議論したら?」
「…ごもっともです」
「ひと押しが欲しいのね」
「痛いのは勘弁です」
「ここ、案内所ですけど」
「相談というレベルではないでしょ?」
蒼子さんはさらにグイっと近づく。
パソコンをブラインドタッチする。
「さっさと行きなさい。
こんなところで油売ってないで」
蒼子さんは椅子を定位置に戻す。
「ふむ……続きは受診後だな」
私はパソコンを閉じ、
おかわりのお茶を一気に飲み干す。
そして、蒼子さんに大仰な一礼を送る。
「かゆくなりそう」と、蒼子さんは笑った。
私はまた、余韻に浸りながら、
梅雨の里山路を万全の長靴で歩く。
咲き誇る、紫陽花の群生地。
その紫に私はまた、
顔の火照りを感じるのだった。
「う〜〜ん、行きたくなくなって来たぞ。
……なぜだ? また、怒られるぞ?」
すると、雨が降り出した。
けっこう強めだ、一気に濡れてしまう。
折り畳み傘を取り出そうとした、
手が宙に止まる。
雨に打たれる。そのまま。
ふと、
均一なノイズに遠く混ざる、乱れた息……
けぶる視界の先に、大きく揺れる傘が……
【本日のお題】
『高嶺の花が自分のことを、
心配してくれたら?』
【かみこて流一歩目】
『同じ心配されるなら、一択でしょ。』
不幸もまた、幸せのエッセンスになるかも
『こいつは俺じゃない。いかれてやがる』
【本日のお題(追加)】
『高嶺の人が迎えにくる、
シチュエーションはどう?』
【かみこて流一歩目(追加)】
『想像できない。幻覚でも心地よい。いや、幻覚だからか』
『嘘だろ、あなたまで……』
【次に進む】
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太っ腹♥
きっと、良いことがあったんだね💫