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案内所流 欲多きは罪深き? ~それが自分?(円《まどか》編序章長々)~

 本記事は、
 案内所の登場人物である、
 まどかを思索し、整理する、
 目的で書かれています。

 円が扱う「喪失」や「葛藤」は、
 現実の痛みと地続きのものです。
 心が揺さぶられたり。
 心がつらいと感じたり。
 そんな時は…

 外を。
 窓の外を。
 あなたの窓からは、何が見えますか?

 あなたの心のペースを、
 何より大切にされてください。



 円は出された、
 花びらが浮かぶお茶に、
 「ありがとうございます」と、
 お礼を口にし、
 口に運ぼうとしていた手を止め、
 湯飲みをカウンターへ戻した。

「…蒼子さんが質問?
 レアな体験ですけど、
 どうかされたんですか?
 それが蒼子さんの、
 自分らしさですか?」
「…質問を質問で返す人は多いけど、
 質問をそのまま返される、
 体験はレアかも」
 蒼子はニッコリ微笑んだ。
「…私からも学びを?
 知的向上心の塊?
 興味半分?」
 間を置かない疑問。
 蒼子は受け止めるように、
 目を大きくする。
「どれも否定しないわ」
「もう半分は?」
「それが知りたくて」
 「そうですか」と呟き、
 円はお茶を「塩気が美味しい」と、
 感想を述べる。

「蒼子さん、
 ジグソーパズルはお好き?」
「ええ。時々やるわ」
「時々、ですか。
 私は気づいたら、やってます。
 蒼子さんはなぜ?」
「脳のデトックス」
 「やっぱり」と、円は呟き、
 声にやや感情を乗せ、
「そういう効果があるんですか?」
 蒼子はあくまで淡々と
「ゾーンとかフローは、ご存じ?」
「…言葉ぐらいは。
 そう言われる状態が、
 雑多な思考をリセットして、
 思考が最適化され、行動が融合する。
 みたいな?」
「円さんはいつも、
 十二分だわ」
「…もう少し、詳しくいいですか?」
「ズレてますけど?」
「蒼子さんなら、
 簡潔にまとめられるでしょう?
 私も理解力、ある方だし」
 さすがの蒼子も、
 うなじの辺りが痒くなってくる。
 お茶がもう、
 半分ほどなくなっていた。
「私、ばかりね」
「大丈夫ですよ。
 私、スロースターターだから
 やきもきは最初だけです」
 円はにっこり微笑んだ。

「一般的に、
 シンプルなルール。
 明確な目的。
 解答のフィードバックが即座。
 難易度の調整が可能。
 これぐらいの条件が揃えば、
 ゾーン、もしくはフローに、
 入りやすいとされてますけど?」
 円は案内所の窓から、
 桜前線を置き去りにする満開、
 里山の山桜を見ながら、
「エアロバイクとか、
 運動を伴う場合は?」
 蒼子はさすがに溜息混じりに、
「どちらも、
 脳のワーキングメモリーを、
 最適化してるの。
 パズルは、
 雑多な思考を直接消していくイメージね」
 円は蒼子の目線を受け、
「エアロバイクは、
 脳内麻薬で強制排除するイメージ、
 ですか」
 「…同じなんだ」と呟く、
 円の解答のトーンは、
 質問のトーンと変わらない。
「…どうして、
 エアロバイク?」
「素美先輩が好きなんです。
 サイクリングもですけど」
「桜茶も、素美さん好きよ」
 「へぇ~」と、
 関心なさそうな円の返事。
「…仲良くやってるの?」
「仲良くというか、
 付きまとってます」
 舌を出して小さく笑う円が、
 素美の姿と重なる。 

 ふと、
 円の指が湯飲みに伸び、
 桜茶の花びらを指で掬い上げると、
 それを口に含み、
 真顔で指をしゃぶる。
「塩分、いいですね」
 蒼子はその様子を、
 瞬きもせず見つめていたが、
 「そうね」と返し、
 自分の湯飲みを手に取ると、
 残っていたお茶を、
 花びらごと一気に飲み干した。

「桜餅があるの?
 お好き?」
「…ほんと、風流。
 私、ほんと、
 そういうのなくて。
 だからかな?
 桜餅も好きです」
 円の瞳が蒼子を射貫く。

 その瞳は色素が薄いのだが、
 その光彩の縁だけが濃く、
 輪郭がはっきり見える。

 「嬉しいわ」と、
 蒼子は喉を鳴らし笑い、
 カウンター奥へ踵を返す。



 出された桜餅を平らげ、
 指先に残る、桜の香を愉しみながら、
 ペロリと塩気を舐める。

 お茶は熱めの煎茶。
 ほどよい渋みと爽やかさは、
 どこまでも脇役に徹する。

「千本桜ですよね」
 円は窓に目をやり、
 蒼子もそれを追う。
「そうね。
 もう少し増やしてもいいかもね」
「いいえ、
 桜茶に桜餅、
 私に蒼子さん
 千本桜です」
「今日はそんな気分だったの」
 蒼子は、
 桜色に染められた着物の袖を
 一振り、舞って見せる。
 
 円が目を閉じる。
「…素敵な時間。
 …返せるかな」
 円の語尾が微かに震える。
 
 円は目を開けながら、
 体は桜溢れる外を向く。
 語り出す。

「私にとって、
 ジグソーパズルは、
 自分を分解する作業なんです」
 円はカウンターに肘をつき、
 リラックスした態度と口調で続ける。
「例えば、身体の感覚。
 痛み、つかえ、息苦しさ、
 漫然とした不安。
 例えば、他人が与えた物語。
 努力、怠惰、偶然、必然、
 社会が求める期待。
 例えば、芸術。
 奇麗なもの、可愛いもの、惹かれるもの、
 理由がつけられないもの。
 色だったり、配置だったり。
 これが多くて、好き。
 私は黄色なんです」
「危険ね」
 「そう、そうです」と、
 円は笑いを留めるように、
 握る指先が唇に触れる。
「あとは、「自分」とかの言葉。
 認知的なアプローチかな。
 自由とか誠実とか挑戦?
 対立する概念で、
 自分の違和感を、
 特定していく、みたいな、です。
 そうそう、
 最近は社会的な役割もありました。
 先輩や蒼子さんも――」
 円は椅子の上で、
 クルリと回転、
 蒼子と向き合う。
「――私の1ピースです」
「それが、
 円さんにとっての分解なのね」
「はい。
 私は千々に分解されても、
 一番大きなピースから、
 自動再生されますから」
「サバイバーズ・ギルト」
「ええ。
 私は加害者で被害者。
 赤の他人の命を生きる者です」
 円のトーンは変わらない。
 まるで、昨日の朝食を
 淡々と語るよう。


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かみこて 太っ腹♥ きっと、良いことがあったんだね💫