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案内所流 欲多きは罪深き?       ~自分で自分を問う(かみこて編)~



 私は、ふいに尋ねられた。

「…半端な私だからこそ、
 自分で自分を問うことに、
 意味がある、
 ということですか?」
 蒼子さんの茶器を扱う、
 手際に変わりはないが、
 その口元は、
 笑みをたたえているように見える。 

「でもそれって、
 嫌いな自分とか、
 裏とか表とか仮面とか、
 なんでもアリになりますけど?」
「間違ってませんけど?」
「それが半端。
 とは言いたくないけど…」
「けどけど?」
 蒼子さんの口元は、
 完全に笑っていた。
「はい、どうぞ」
 私好みのお茶が、
 カウンターに置かれる。

「様々な自分を仮に、
 「仮面」と総称したとして、
 「仮面」ごとの関係性は、
 まるでないですよね?」
「そういう考え方ができる、
 あなたが好きよ」
 「それは光栄です」と、
 言葉を――
 赤面はしてしまっただろうが、
 踏みとどまった。
(限定的な好意か?
 いやいや、思考のみに…
 関心が?)
「…それって、
 蒼子さんが思う答えを、
 用意できなければ、
 嫌いになるってことですか?」
 私の気分は、
 「竹取物語」の大納言といったところか。
 無理難題に到達する、
 前の試練で散々な結果に見舞われ…
(ま、悪くはないかな。
 二者択一の質問で、
 「個性」か「思想」か。
 蒼子さんの優先度が――)
「そんなの、私の質問によるわ」
 私は「ぐぅ」と唸っていた。
(…主導権がそのままだ。
 あくまで、最初の問いが良いから、
 私の答えも良い、
 という枠から出られない。
 仮に、悪い質問をした場合、
 私が良い答えをするのか、
 悪い答えをするのか、
 そのどちらも、
 何も保障されてない)
 私は無意識に頭を抱えていた。
 蒼子さんは、
 私と同じお茶を、すすっている。
(…熱めに。
 私を観察したいがために、か)

「好きよ」

 ふいに、鈴のような声。

 慌てて顔をあげるが、そこには…
「どうかされた?」
「いや…。
 今日も蒼子さんは綺麗だなぁ、と」
「…ばか」
(ん~~…
 ちょっと違う気がする)



 蒼子さんはカウンターで、
 何かしら作業をしながら、
「自分という「結果」だけど、
 それは色々あっていい。
 そういう結論でいいの?」
 流し目で問う、
 蒼子さんがちょっと怖い、かも。
「ええ。
 私のような凡人は、
 嫌いな自分も認めてやらないと、
 やってられません」
 必要以上に強く答えてしまった、
 かもしれない。
「そう。
 私は、
 個人的にだけど、
 自分という「結果」に至るまでの、
 「過程」に本質が宿る、
 という考え方に寄りがちだけど…」
「否定しませんけど?」
 蒼子さんは笑わない。
 別にいい。
 笑いの感覚は以前から、 
 ズレているのは知っている。
 知ってはいるけど…

「でもあなたは、
 色々な自分を使い分ける?
 その判断基準にこそ、
 重きを置くのよね?」
「…どちらかと言えば、
 ですかね。
 「過程」には純度がある、
 と思うんですよ」
「進んでもいる」
「ですね。
 そこにエネルギーが感じられる」
「過程は自律してる?」
「…これ、
 誘導してませんよね?」
 蒼子さんはただ、
 パチクリと瞬きするだけ。
 

「…つまりは、評価軸ですけど、
 ここがより一貫していれば、
 自分の色が濃くなるかな、と」
 「悪くない」と蒼子さんが、
 自分の湯飲みを掲げる。
「…たぶんに、
 影響されてますからね」

 コチン

 私の湯飲みと、
 蒼子さんの湯飲みが、
 少し不器用に、
 重なる。

「容易に、
 反論が思いつくけど?」
「ええ、誘ってます」
「それも影響?」
「え? 
 自覚、ありません?」
 蒼子さんは本当に、
 分からない人のように、
 首を傾げた。
(…この人、本気も演技だからな)
 
 私は顔面の熱をごまかすように、
 空咳を混ぜる。
「ある作家が言っています。
 それぞれの自分は、
 「分かれた自分」であって、
 「分人」と呼ぶ、と」
「分人の集合体が自分であって、
 そこに、
 基準や評価軸はない」
「…容易でした?」
「いいえ、好きよ」
 私は奥歯を噛み締め、
 思考を飲み込む。
 でも、その言動は明らか。
 「その好きは…」と、
 私は完全に口ごもる。
「答えて欲しい」
「…いいえ。
 持ち帰ります。
 その方がずっといい」
「あら、残念」
 蒼子さんは、
 自分のお茶を飲み干した。



「これ。
 もっと深く行けるけど?」
「上等です」
「自分の土俵のつもり?」
 これにはなぜか、
 私が噴き出してしまった。
「私はいつでも、
 チャレンジャーですよ?」
「…面倒くさいわ」
 私はなぜか、 
 窓の外の景色を観たくなった。

「状況や経験で容易に変わる、
 評価軸に普遍性を求めるのは、
 根拠が弱いのでは?
 という反論ですよね」
「嫌だわ、あなたの掌みたいで」
「環境、つまり、
 「他」の重合体が、
 「自分」を決定させるなら、
 それは、「選んでいる」のではなく」
「選ばされている。
 私、こんなに露骨?」
「そこは、チャレンジャーですから」
「「環境」という外を、
 「器」で内に濾すと、
 「自分」が立ち上がる。
 こんな感じ?」
「…さすがに。
 …美しい」
 私は、内心でも唸っていた。
「勝てない?」
「勝つことが、
 目的ではありません」
 蒼子さんは「そう」と、
 軽く返す。

「私が好きなところは、
 環境、つまり外部要因の重なり合いが、
 自分を決めているなら、
 ただの偶然とか可能性とか、
 必然の要素が見えにくいけど」
「内で濾してるわ」
「そう。
 重ねて、重ねて。
 まるでレイヤーのように。
 するとふいに、
 情報の海から、
 「自分」が立ち上がり、
 現れている。
 そこには「物語」があります」
 「それが言いたくて?」と、
 蒼子さんは淹れ直した、
 私のお茶を置く。

「物語は常に、
 編集されています。
 これは、実感です」
 蒼子さんは、
 「うんうん」とばかりに頷き、
「軸はないけど、
 軌跡として、編集しているのね」
「どこか「過程」と重なりません?」
 「それ、言っちゃうのね」と、
 蒼子さんは、
 同じお茶を自分に淹れながら。

「オーケストラの指揮者が、
 「好きにやっていいぞ」と、
 指揮を振る感じですかね」
「暗に、
 「器」の重要性を示唆してるわね」
 「それ、言っちゃいますか」と、
 私は笑った。

 蒼子さんは、私の表情から、
 笑みをもらいながら、
「まだ熱く、
 できそうだけど?」
 私は「いきましょうか?」と、
 手を掲げた。
 
 パン!

 私は掌の痛みを熱へ。 
 カウンター席から降り、
 「ご要望とあらば」と、
 深々と一礼。
 「あ~、面倒くさい」と、
 蒼子さんは声を立てて、
 笑った。

「実質的には、環境から自分が、
 半自動的に、
 一意的に決まってますけど」
「けど?」
「「器」という意識。
 これはメタです」
「…「器」を意識できること。
 それがメタということ?」
「ですけど、飛びましたかね」
 「いいえ、ただの確認」と蒼子さんは、
 「続けて」とばかりに微笑む。
「…「器」の大きさが、
 その人の度量を指すのは、
 イメージしやすい」
「より多く、
 環境を掬い取っている、
 イメージかしら」
「それはあります」
 私は「けど」と言いかけ、
 少し笑ってしまう。
「もっと本質的には、
 それを可能にしている視点、
 それがメタ的な視点ではないか、と」
「メタ的視点は、
 熱を冷静に観れてこそ、よね」
「自分で自分を俯瞰するイメージ。
 私には理解不能ですけど」
 私はカウンターで作業する、
 蒼子さんを観ながら、言葉を続ける。
「研ぎ澄まされた所作が、
 自分の無意識に落ちてこそ、
 メタが生まれる余地が生まれる」
「メタはメタを持続させるように働くの」
 「…さすがにそこまでは」と、
 私は肩をすくませた。
「私はもう一段階、
 あると思うのよね」
 私は首を振って答えた。


 一緒に外に出て、
 玄関の扉で見送る、蒼子さん。
「何をしに来たのか忘れるほど、
 楽しい時間でした」
 私は踵を返そうとしない足に、
 言い訳の言葉を与えてやる。
「その何か。
 思い出したら、
 また、来なさい」

 私は掲げられた、
 蒼子さんの手に、
 触れ、
 指を絡ませる。

 そのまま受け入れる、
 蒼子さんの沈黙、
 器の大きさに、
 私の手は滑っていく。

「じゃあ」
「ええ」

 蒼子は熱を、
 自分の熱に重ねた。


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かみこて 太っ腹♥ きっと、良いことがあったんだね💫