【フォトレジスト連載 第16回】2035年のフォトレジスト――市場・技術・企業勢力図を予測する
フォトレジスト連載も今回で第16回です。
最後は、ここまで見てきた技術・企業・サプライチェーンを一本につなげます。
2035年、フォトレジスト産業はどうなっているのでしょうか。
もちろん10年先を正確に当てることはできません。
そこで今回は単一の市場規模予測ではなく、
2026年時点で確認できる技術ロードマップから、起こる可能性の高い変化をシナリオとして整理
します。
前提1――半導体市場そのものが拡大する
SEMIやASMLは、世界半導体市場が2030年前後に1兆ドルを超える方向性を示しています。
ASMLは2024年Investor Dayで、2025~2030年の半導体市場について年平均約9%成長のシナリオを示し、先端LogicとDRAMのEUVリソグラフィ支出について二桁CAGRを想定しています。
半導体市場が大きくなれば、当然レジスト使用量も増えます。
しかし重要なのは、
ウェハ枚数以上に「1枚のウェハに何回リソグラフィを使うか」が増える
ことです。
微細化、多層化、EUVレイヤー増加、先端パッケージ化が材料需要を押し上げます。
予測1:EUVレジストは「特殊材料」から主力カテゴリーへ
2020年代前半、EUVレジストは先端ロジックの一部に使われる高価な特殊材料という位置づけでした。
2030年代には状況が変わる可能性が高いでしょう。
EUV適用は、
先端ロジック
DRAM
HBM関連工程
へ広がっています。
High-NAが導入されれば、さらにクリティカルレイヤーがEUVへ移行します。
したがって2035年のレジストメーカーにとって、EUVは「将来製品」ではなく主要収益源の一つになっている可能性が高いと考えます。
予測2:High-NAは全レイヤーを置き換えない
High-NAは非常に高価な技術です。
そしてすべてのレイヤーに8nm級の解像力が必要なわけではありません。
2035年でも、
High-NA EUV
0.33NA EUV
ArF液浸
KrF
i線
は共存している可能性が高いでしょう。
これは重要です。
技術世代が進んでも古いレジスト市場が消えるとは限りません。
パワー半導体、アナログ、MEMS、センサー、先端パッケージでは成熟リソグラフィが長期間残ります。
つまりフォトレジスト市場は、
最先端だけ伸びるのではなく、用途の多様化によって多世代が同時成長する市場
になり得ます。
予測3:CARとMORは共存する
「MORが有機レジストをすべて置き換える」
という見方は分かりやすいですが、実際にはそれほど単純ではないでしょう。
High-NA実証ではMORが非常に強い性能を示す一方、CARもコンタクトホールなどで使われています。
材料選択は、
ライン
ホール
ピラー
エッチング材
underlayer
dose
defectivity
によって変わります。
2035年は、
CAR・MOR・その他新規材料の棲み分け
が進んでいる可能性があります。
予測4:「レジスト会社」という境界が消える
これは大きな変化です。
従来のレジストメーカーは、液体材料を開発・製造する会社でした。
しかしHigh-NAでは、
resist
underlayer
hard mask
etch
filtration
dry deposition
metrology
を同時に最適化する必要があります。
2025年のJSR/InpriaとLam Researchの協業は象徴的です。
材料企業と装置企業が、お互いの技術領域へ近づいています。
2035年には、
「フォトレジスト市場」ではなく「パターニング材料・プロセス市場」
として競争する企業が増えるでしょう。
予測5:doseが経済性を左右する
EUV光源は高価です。
露光doseが高いほど、1枚のウェハに時間がかかります。
つまりレジスト感度は、単なる化学特性ではありません。
ファブのthroughputと装置投資回収率へ直結します。
一方、doseを下げすぎればstochastic defectが増える可能性があります。
2035年まで、
Dose × Defectivity × Roughness
の三角関係は材料開発の中心に残るでしょう。
imecが2026年にMORのPEB雰囲気制御でdose response改善を報告したように、材料単体だけでなくプロセス条件まで含めた感度改善が進むと考えられます。
予測6:中国企業は成熟品から確実にシェアを上げる
中国メーカーの国産化は止まらないでしょう。
南大光電や彤程新材の公開情報を見ると、ArFまで製品認定・ラインアップ拡大が進んでいます。
2035年には、
g/i線やKrFで中国企業の存在感が現在より大きくなっている可能性は高いです。
ArFでも採用範囲は広がるでしょう。
ただしEUV・High-NAでは、材料だけでなく露光装置、計測、マスク、エッチングを含むエコシステムが必要です。
そのため、
成熟領域では急速に国産化、最先端では時間をかけて追い上げる
という二層構造を予想します。
予測7:日本企業の強みは「シェア」から「認定網」へ
2035年、日本企業が現在と同じ市場シェアを維持しているとは限りません。
中国・韓国・欧米企業との競争は確実に強くなります。
それでも日本勢には強力な資産があります。
数十年の顧客認定
高純度化
ポリマー・PAG技術
品質保証
海外生産拠点
ファブとの共同開発
です。
特に重要なのが認定網です。
レジストは一度採用されると簡単には交換されません。
したがって日本企業の競争力は、
「日本で作って世界へ輸出する」
モデルから、
世界中の顧客近くで共同開発・製造・品質保証を行うネットワーク
へ変わっていくと考えます。
予測8:環境規制が材料設計を変える
2035年を考えるなら、性能だけでは不十分です。
半導体工場は大量の化学品、水、電力を使用します。
フォトレジストでは、
PFAS
有機溶剤
廃液
VOC
包装材
輸送
などが課題になります。
将来は、
「一番性能が良い材料」
ではなく、
性能・コスト・環境負荷を同時に満たす材料
でなければ採用されにくくなる可能性があります。
これは新規参入企業にとってチャンスでもあります。
既存材料をそのまま改良するのではなく、環境制約を前提に新しい化学系を設計できるからです。
2026→2035ロードマップ予測
2026~2028年
0.33NA EUVの使用層数が拡大。High-NAは顧客評価から初期量産へ。MORの評価・採用競争が加速。
2029~2031年
High-NAが先端Logic・DRAMの一部クリティカルレイヤーへ本格導入。underlayer・hard maskを含む材料セット競争が強まる。
2032~2035年
High-NA、0.33NA EUV、ArF液浸が用途別に棲み分け。MOR、CAR、ドライレジスト、新規分子材料が複数共存。中国ローカルメーカーの世界市場進出も進む。
これは筆者のシナリオであり、装置導入時期、地政学、規制、AI需要によって変化します。
2035年に強い企業の条件
最後に、企業名ではなく「条件」で予測します。
2035年に強いレジスト企業は、
1.EUVとHigh-NAを持つ
最先端ノードへアクセスできる。
2.ArF・KrFも捨てない
成熟ノード・パッケージ需要を取れる。
3.MOR/CARの両方を理解する
材料技術の変化に対応できる。
4.underlayerまで提供する
単品ではなくプロセス全体を最適化できる。
5.世界中で作れる
地政学リスクへ対応できる。
6.高純度化を量産で再現できる
研究室の性能を工場品質へ変換できる。
7.環境規制へ先回りする
PFAS、溶剤、廃液への対応力を持つ。
この7つを持つ企業が、2035年の勝者に近いでしょう。
フォトレジストは「なくならない」
この連載ではEUVやHigh-NAを中心に見てきました。
しかし最後に強調したいのは、
フォトレジストは最先端半導体だけの材料ではない
ということです。
自動車。
AIサーバー。
スマートフォン。
パワー半導体。
センサー。
MEMS。
HBM。
先端パッケージ。
これらのほぼすべてで何らかのリソグラフィが使われます。
半導体が存在する限り、パターンを作る材料は必要です。
技術体系は変わっても、
「必要な場所だけ化学反応を起こし、回路を描く」
というフォトレジストの役割は残ります。
連載の結論
16回を通して見えてきたフォトレジスト産業の本質は、
レジストは単なる感光液ではなく、光学・高分子化学・量子現象・超高純度化・装置・物流・地政学が交差する戦略材料である
ということです。
数十nmの薄い膜の中に、世界の半導体産業の技術競争が凝縮されています。
2035年にどの企業が勝っているのかは分かりません。
しかし一つだけかなり高い確度で言えることがあります。
半導体が進化するほど、フォトレジストに要求される技術はさらに高度になる。
見えない材料の競争は、これからも続きます。

