【フォトレジスト連載 第14回】中国はフォトレジストを国産化できるのか――ArF・EUVの壁
中国の半導体国産化政策を語るとき、露光装置やGPUばかりが注目されます。
しかし、装置があっても材料がなければ半導体は作れません。
その代表例がフォトレジストです。
では中国は、フォトレジストを自国だけで作れるのでしょうか。
結論から言えば、
成熟世代では国産化がかなり進む一方、先端ArFとEUVでは「作れる」と「量産ラインで安定使用できる」の間にまだ大きな壁がある
というのが2026年時点の実態に近いと考えます。
「中国のフォトレジスト」を一括りにしてはいけない
最初に重要なのが世代分けです。
フォトレジストには、
g線
i線
KrF
ArF dry
ArF液浸
EUV
があります。
難易度は同じではありません。
成熟工程のg/i線を量産できることと、最先端ロジック向けArF液浸やEUVを安定供給できることはまったく別の技術です。
中国の国産化を見るときは、
「フォトレジストを作れるか」ではなく、「どの波長・どの工程で量産認定されているか」
を見る必要があります。
g線・i線――国産化が最も進みやすい領域
g線・i線は長年使用されてきた成熟したリソグラフィ技術です。
パワー半導体、MEMS、アナログ、ディスプレイ、パッケージなど用途は現在も非常に広く残っています。
中国企業はこの領域で比較的早く製品ラインアップを整えてきました。
2025年の彤程新材の開示資料では、同社の半導体用製品がg線、i線、KrF、ArFまでカバーしているとされています。
したがって、
「中国はフォトレジストをまったく作れない」
という説明は現在では明確に誤りです。
KrF――国産化の実戦領域
248nmのKrFは、成熟ノードから一部メモリ工程まで広く使用されます。
中国企業にとってKrFは重要です。
理由は、最先端EUVほど技術難易度が高くない一方、半導体工場での使用量と市場価値が大きいからです。
ただし、ここでも「サンプル開発」と「量産認定」は違います。
材料メーカーは、
感度
解像度
CD均一性
欠陥
ロット間安定性
保存安定性
を長期間評価されます。
国産化率を上げるには製品数ではなく、実際に顧客の量産レイヤーへ採用される数を増やす必要があります。
ArF――中国企業が最も力を入れる壁
193nmのArFは先端半導体で極めて重要です。
中国の南大光電は2024年末時点で、3種類のArFフォトレジストが下流顧客の認証を通過し、販売を開始したと開示しています。
これは大きな進展です。
さらに同社は、機能性モノマー、樹脂、感光剤など、原料からレジストまでの自主化を進めていると説明しています。
つまり中国企業は、
完成したレジスト液だけを国産化する段階から、原料まで含めて国産化する段階
へ進んでいます。
ただし、ArFでも難易度には段階があります。
ArF dryとArF液浸では要求水準が違います。
さらに同じ液浸でも、どのノード・どのレイヤーへ使うかで性能要求は変わります。
「ArF認定」という一言だけで先端量産対応を判断するのは危険です。
なぜ先端ArFは難しいのか
先端ArFレジストでは、単に193nmで反応すればよいわけではありません。
必要なのは、
高解像度
高感度
低LER/LWR
低欠陥
高いエッチング耐性
液浸水との適合性
極低金属不純物
極低パーティクル
です。
そして最大の難関が再現性です。
研究所で一度きれいなパターンが出ても、それだけでは量産材料になりません。
何百、何千ロットと作っても同じ結果になる必要があります。
これはレシピをコピーするだけでは獲得できない能力です。
EUV――さらに別次元の難易度
13.5nmのEUVになると状況はさらに厳しくなります。
EUVではフォトン数が少なく、二次電子や酸生成の統計的ばらつきによるstochastic defectが問題になります。
レジストには、
高いEUV吸収
高感度
低LER
低欠陥
薄膜でのエッチング性能
が同時に求められます。
現在の最先端では、従来の化学増幅型レジストだけでなく、金属酸化物レジスト(MOR)も有力候補です。
ところがMORでは、金属クラスター、前駆体、高純度ろ過、供給装置まで新しい技術基盤が必要になります。
EUVレジスト国産化は、単なる「高分子化学の問題」ではなくなります。
中国にとってもう一つの壁――露光・評価環境
レジスト開発には実際の露光装置が必要です。
特にEUVでは、材料を作っただけでは性能を十分評価できません。
最先端スキャナー、計測装置、欠陥検査、エッチング設備まで含む開発環境が必要になります。
これは非常に大きな参入障壁です。
材料開発は装置開発と切り離せないからです。
それでも中国の国産化は進む
ここまで読むと、
「では中国には無理なのか」
と思うかもしれません。
そう単純でもありません。
中国には巨大な国内半導体市場があります。
国内ファブが存在することで、材料企業は顧客と共同評価を繰り返せます。
さらに政策支援、研究開発投資、企業買収、人材獲得も続いています。
彤程新材の2025年年次報告は、ArF、KrF、i線、g線と周辺材料まで製品マトリクスを拡大していることを示しています。
南大光電もArF製品の顧客認定と販売を進めています。
この進歩は無視できません。
「完全自給」と「実用的な国産化」は違う
中国の目標を考えるとき、100%自給だけを見る必要はありません。
例えば、
70%を国内調達できる。
複数の国内メーカーを認定できる。
輸入が止まっても成熟ノードを維持できる。
これだけでもサプライチェーン上の意味は非常に大きいです。
したがって中国の現実的な戦略は、
すべてを一気に置き換えるのではなく、成熟品から国産化率を上げ、先端品へ徐々に侵食していく
形になる可能性が高いでしょう。
日本企業は中国勢に負けるのか
ここも二択ではありません。
中国企業が成長しても、すぐに日本企業が消えるわけではありません。
日本勢には、
数十年の量産実績
原料精製
高純度化
顧客認定
グローバル供給
EUV・High-NA共同開発
があります。
一方、中国勢には、
巨大な国内需要
政策支援
顧客との地理的近さ
国産化への強いインセンティブ
があります。
今後は「日本対中国」という単純な勝敗より、
製品世代ごとにシェアが分かれていく
可能性が高いと考えます。
2030年前後に起きそうなこと
筆者の予測では、
g/i線
中国メーカーの比率はさらに上昇。
KrF
国内ファブでの採用拡大が進み、日本・海外勢との競争が本格化。
ArF
複数の中国企業が量産認定を拡大。ただし最先端液浸では日本勢が優位を維持する可能性が高い。
EUV
研究開発と試作は進むが、露光装置・材料エコシステム・量産認定が最大の壁。
という段階的な構図を予想します。
これは断定ではなく、2026年時点の公開情報から見たシナリオです。
まとめ
中国はすでにフォトレジスト国産化を進めています。
しかし、
「フォトレジストを作れる」ことと「世界最先端ファブで安定量産できる」ことは違います。
本当の競争は、
原料
分子設計
高純度化
欠陥制御
顧客認定
装置との共同最適化
まで含む総合戦です。
そして次回取り上げるHigh-NA EUVでは、その要求水準がさらに一段上がります。
