【フォトレジスト連載 第15回】High-NA EUVでレジストはどう変わるのか
EUVの次は、またEUVです。
ただし同じEUVではありません。
現在量産で使われるEUV露光装置のNAは0.33。
次世代のHigh-NA EUVでは、NAが0.55へ上がります。
波長はどちらも13.5nmです。
それでも解像力は大きく変わります。
そして露光装置が変われば、フォトレジストも同じままではいられません。
High-NAとは何なのか
リソグラフィの解像度は概念的に、
CD ≈ k1 × λ / NA
で表せます。
波長λを短くするか、NAを大きくすれば、より小さなパターンを形成できます。
Low-NA EUVは0.33。
High-NA EUVは0.55。
NAは約67%高くなります。
imecによれば、High-NA EUVは光学的には16nm pitch、すなわち8nm CD級の解像を狙える能力を持ちます。
すでに「実験だけ」の技術ではない
High-NAは長く将来技術として語られてきました。
しかし2026年時点では状況が変わっています。
ASMLは2025年末までに複数顧客へ計8台のHigh-NAシステムを出荷し、6台が稼働、第二世代EXE:5200Bも顧客サイトでフルスペックを満たしたと説明しています。
同社はHigh-NAを2027~2028年の顧客量産工程への導入に向け成熟させています。
つまり材料メーカーに残された時間はそれほど長くありません。
16nm pitchを印刷したレジスト
imecは2024年、ASMLのTWINSCAN EXE:5000を使い、High-NA EUVで16nm pitchのライン・スペースを単一露光で形成しました。
このとき使用されたのがMetal Oxide Resist(MOR)です。
さらに、
24nm pitchのコンタクトホール:CAR
24nm pitchのピラー:MOR
も実証されています。
ここで重要なのは、
MORがすべてを置き換え、CARが消えたわけではない
ことです。
パターン形状や工程ごとに最適材料が異なる可能性があります。
2025年には電気的歩留まりまで確認
レジストの画像がきれいに見えるだけでは量産には使えません。
本当に重要なのは、その後金属配線に加工して電気的に機能するかです。
2025年、imecはHigh-NA EUV単一露光で形成した20nm pitchの金属ラインについて電気評価を行い、MORを用いた構造で90%を超える初期電気歩留まりを報告しました。
これはHigh-NAが、
「レジスト像が出た」
から、
「デバイス製造に使える可能性を評価する」
段階へ進んだことを意味します。
High-NAになるとなぜレジストが難しくなるのか
露光像のコントラストが高くなるのであれば、レジストは簡単になるようにも思えます。
実際、High-NAの高い画像コントラストはLCDUやroughness改善、必要露光doseの低減に有利です。
しかし同時に、パターン寸法が小さくなることで別の問題が大きくなります。
薄膜化
微細なラインを厚いレジストで作ると、アスペクト比が高くなり倒壊しやすくなります。
そのためHigh-NAでは薄いレジスト膜が重要になります。
ところが薄くすると、今度はエッチング時に膜が持ちません。
つまり、
薄くしたいが、削られたくない
という矛盾が生まれます。
レジスト単体ではなく「スタック」で考える
この問題を解決する鍵がunderlayerやhard maskです。
High-NAでは、
レジスト
↓
underlayer
↓
hard mask
↓
被加工膜
という材料スタック全体で性能を設計する重要性がさらに高まります。
imecのHigh-NA実証でも、レジストだけでなくunderlayer、マスク、照明条件、OPC、エッチングを同時に最適化しています。
つまり次世代フォトレジストメーカーは、
レジスト液だけを売る会社から、パターニング材料システムを提供する会社
へ変わる必要があります。
High-NAでもstochastic defectは消えない
EUVの最大問題の一つが確率的欠陥です。
フォトン吸収や二次電子、酸生成などが離散的に起こるため、
line break
bridge
missing contact
merged contact
などのランダム欠陥が発生します。
High-NAでは空中像のコントラストが高まり、条件によっては改善が期待できます。
しかしパターンそのものがさらに小さくなるため、確率揺らぎの影響がなくなるわけではありません。
High-NA時代でも、
dose・roughness・defectivityの最適化
は中心課題です。
MORが注目される理由
High-NAでMORが注目される理由はいくつかあります。
EUV吸収性
高解像度
低LER
薄膜でのパターン転写性
無機成分による高いエッチング耐性
です。
2026年、imecはMORのPEB工程で酸素濃度を制御することでdose responseを改善できることも報告しました。
これは興味深い結果です。
材料の化学式だけではなく、
露光後の雰囲気までレジスト性能を左右する
からです。
High-NAでは材料とプロセスの境界がさらに曖昧になります。
CARは生き残るのか
生き残る可能性は十分あります。
CARには長年の量産実績があります。
原料、塗布、PEB、現像、欠陥管理に関する巨大なノウハウがあります。
またimecのHigh-NA評価でもCARはコンタクトホール形成などに使われています。
したがって当面は、
CAR対MORの全面戦争
というより、
レイヤーごとの使い分けと競争
になると見る方が妥当です。
ドライレジストという第三の方向
さらに液体レジスト以外のアプローチもあります。
Lam Researchは、気相プロセスで形成するドライレジスト技術を開発しています。
2025年にはJSR/InpriaとLamが、High-NA EUV、MOR、dry resistなど次世代パターニングで協業すると発表しました。
これは今後のレジスト競争が、
CAR
MOR
ドライレジスト
underlayer
エッチング
を横断することを示しています。
High-NAは日本企業に追い風か
日本の材料企業にとってチャンスは大きいでしょう。
High-NAで必要になるのはレジストだけではありません。
underlayer
rinse
developer
high-purity solvent
hard mask
cleaning chemical
filtration
まで要求水準が上がります。
日本企業が得意としてきた高純度化、精密合成、顧客共同開発が活きる分野です。
ただしMORやdry resistのように技術体系が変われば、既存シェアがそのまま保証されるわけではありません。
まとめ
High-NA EUVは、EUV露光装置の単純な性能アップではありません。
0.55NAによってパターンが小さくなると、
レジスト薄膜化
エッチング耐性
stochastic defect
underlayer
MOR
CAR
ドライレジスト
を同時に再設計する必要があります。
High-NA時代の勝者は「一番解像するレジスト」ではなく、量産プロセス全体で最も高い歩留まりを出せる材料システムです。
次回は最終回。
ここまでの16回を踏まえ、2035年までフォトレジスト市場がどう変わるのかを予測します。
