企業で働く個人のキャリアの確立を促す実践共同体のあり方に関する質的研究(論文メモ)
キャリア形成の意欲は、どのような要因によって高まるのでしょうか。
例えば、職場外の人との交流が刺激となり、意欲を向上させることがあるかもしれません。しかし、具体的にどのような外部環境との関わりが、キャリア形成の意欲を高めるのでしょうか。
企業で働く個人のキャリア形成に影響を与える「実践共同体」のあり方について研究した論文を紹介します。特に、どのような特徴を持つ実践共同体が、キャリア意欲の向上につながるのかを明らかにしています。
紹介する論文
タイトル:企業で働く個人のキャリアの確立を促す実践共同体のあり方に関する質的研究
年:2009
著者:荒木淳子
概要
企業で働く個人が職業アイデンティティを獲得しキャリア形成への意欲を向上(キャリア確立)させる実践共同体※のあり方を明らかにすることを目的としています。
※実践共同体とは、共通の関心を持つメンバーが互いに貢献し合いながら学習し、知識を創造する場のことを指します。
調査方法
本研究では、10の実践共同体に参加するメンバー30名を対象に半構造化インタビューを実施しています。対象者は以下の3つのグループに分類してます。
コーディネーター:共同体の運営を担う中心的な役割のメンバー
アクティブ・メンバー:積極的に活動に参加するメンバー
周辺メンバー:活動への関与が比較的少ないメンバー
データの収集にあたっては、インタビューを録音し、内容を分析することで、実践共同体がキャリアの確立にどのような影響を与えるのかを検討しました。
以下、会話データのカテゴリーの分類と定義です。

以下、分析対象の「実践共同体」と「インタビュー対象者」です。


研究結果と考察
本研究により、企業で働く個人が職業アイデンティティを獲得しキャリア形成への意欲を向上(キャリア確立)を促す実践共同体のあり方 についての、以下の示唆がありました。
1. 職場を越えた実践共同体への参加の有用性
キャリア確立には、職場内だけでなく、職場を超えた実践共同体への参加が有用であることが示されました。企業内では得られない新しい視点や方法論を学ぶことで、自己の職業アイデンティティを再認識する機会となっていました。
2. メンバーの多様性を活かす活動
多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まる実践共同体では、異なる考え方に触れることで、自分の仕事や組織を俯瞰し、客観的に捉えられるようになることが確認されました。対象者の中には、異なる業界や専門領域のメンバーと対話することで、従来の仕事の進め方に対する新たな気づきを得た例が多く見られました。これにより、キャリアの方向性を見直す機会が生まれ、自らの成長に対する意欲が高まることが示唆されました。
また、メンバーの多様性を活かすためには、成果を強く志向しない、柔軟な活動設計が求められることが分かりました。特定の成果目的を求める共同体では、対話や内省の機会が制限される傾向がありました。一方で、自由度が高く、メンバーが自身の関心に基づいて議論を進められる場では、キャリアについて深く考える機会があります。そのため、実践共同体のデザインにおいては、目的を明確にしすぎず、メンバーが自由に関与できる余白を残すことが重要であると考えられます。
3. コーディネーターによる参加状況の把握
実践共同体の成功には、コーディネーターの役割が非常に重要であることが確認されました。特に、参加者の状況や参加の仕方(多様な参加軌道)を把握し、適切に活動をデザインすることが求められます。具体的には、以下のような配慮型リーダーシップが効果的であることが分かりました。
参加者の関心や状況に応じた柔軟なサポートを提供すること
参加者同士のコミュニケーションの状況を把握し、適切な関与を促すこと
メンバーの多様性を活かせるよう、議論の進行やテーマ設定を工夫すること
このような配慮が行われることで、実践共同体は単なる情報交換の場ではなく、個々のキャリア確立を支援する場として機能することが示されました。
まとめ(感想)
企業がキャリア確立を促進するためには、職場を超えた実践共同体をつくるのは難しいかもしれませんが、社内で部門をまたいだ多様なメンバーが成果目標を持たずに学ぶことを目的としたコミュニティを形成することが、一つの有効な方法になりうると思いました。
なお、成果目標を持たない場合、コミュニティ自体が形骸化する可能性があるため、それを防ぐためにもコーディネーターの配慮型リーダーシップが重要であることが、本研究の示唆する重要なポイントだと感じました。
このようなコミュニティを形骸化させない仕組みについても、今後さらに探究し、実践的な示唆を得たいと思いました。
