古道の大神と犬の姫 七ノ十 -勇の者達-

 そして、勝負は一方的に流れ・・・流れて・・・・・
遂に

 ギャィーーーーー!

「ハハッ!
 また、受けたな?」
「くうッ・・・」
「ハハハッ・・・」
「くうぅぅ・・・」

 ドッ、トッ・・・

脇差は、清次郎の手を離れて落ちた・・・
「清次郎様・・・」
「・・・」
千右衛門の、その倍以上の筋肉量の差がある豪剣を避けきれず受け続け3、40回
清次郎の腕は握力を失う程にしびれて、ついに刀を落としてしまう
お万とユウギの、すぐ目の前で・・・
「受けるのに精一杯で・・・活路を、見いだせなかった・・・・・」
心の声が、そのまま声になってしまう

 その姿を見た千右衛門は
「まぁ、立派な腕だ・・・」
また静かに、話し出す
「刀も良い
 そしてワシの剣を刃をこぼれさせずに受け続けた技量
 やはりお父上譲りの天賦ってやつですかねぇ・・・」
「私に、か?
 そんなもの・・・」
「しかし、どういたしましょうか?」
「・・・・・」
「ここはぁ、戦場でしたねぇ・・・」
「そうだ」
「ではやはり
 ワシはあなたの首を刎ねましょうか」
「そうしたいなら、そうすれば良い」

 「清次郎様!」

思わず声を上げるお万
しかしその声は、何も意味を持たず・・・

「フフッ
 あなたの父は素晴らしいお方だった」
「・・・」
「でもなぁ・・・」
また急に、人が変わったかのように語気が荒くなる千右衛門
怒鳴る

 「その息子がこんな情け無いんじゃー!こっちも馬鹿らしくなってきますわなぁ!!!」

「ぐぅぅ・・・」

 「テメェの首なんざぁ!どうでも良いんだよぉ!!」

「うぅっ!」

 「テメェの命なんざ、犬畜生と変わんねぇんだよ!
 ケッ!」

その言葉の数々に、清次郎
自分の不甲斐なさを、噛み締める・・・

 「ハッ!
 一太刀でも浴びせねぇかと期待してやったのによぉ!」
 「ハッハッハー!泣きそうだぞアレ!」
 「アレが・・・オレ達の大将になる可能性にあった男の姿かよ・・・・・
 みっともねぇ」

罵倒する周りの男達
そして

 「ヒッヒッヒッ!」
 「ヒャッヒャッヒャー!」

また、笑いが小屋中に溢れる
そしていつの間にか、涙が清次郎の頬を流れて、落ちた・・・



「ぐっ・・・」
涙を流して下を向く清次郎
情けなくて・・・いたたまらなくて・・・
その目の端に、ユウギの鼻先から顔までが入ってくる
「ユウギ殿・・・」
その瞳はまだ、輝いている
黒かと思えば茶色でも無い
赤いようでもあり、少し緑がかった瞳
真っ直ぐな瞳が、自分を見ている
「ゥゥ・・・・・」
「ユウギ殿・・・」

 清次郎は、初めて出会った時のことを想い出していた
自分の倍近く上背のある千右衛門に吠えてかかった、あの勇姿を・・・
 そしてもう1つ、想い出す

 「はい!ユウギ様です!
 村で一番の人気者で、勇敢で勇猛、猟犬として武勇にも優れた勇の者なんです!」

あの笑顔の、お万を・・・

 しかし今はどうだろうか・・・?
泣き疲れて、ユウギに寄り添うだけの小さな女の子・・・



 チャキッ・・・

清次郎は、落とした脇差を手に取り、そして
「私が・・・」
「ん?」
「私が、ユウギ殿の分までも・・・お万殿を御守りいたさねばならぬっ!!」
そう言って、お万とユウギの目の前に立って

 「このままは終われない!千右衛門!」

構えて

 「いざ、参る!!」

千右衛門に切りかかる!

 迎える千右衛門
「律儀に・・・
 構えてから切りかかるんじゃねぇよ・・・」
今更だと、力の無い打ち込みに構えること無く

 ギィィィーン!

蚊でも振り払うかのように清次郎渾身の一太刀は切り払われ、無情にも脇差は宙を舞い

 ドッ!

入り口の近くの柱に、刺さった・・・
「ぐぅぅ・・・」
(やはり、私では・・・ッ!)
と、下を向く清次郎
そこを黒い影が通過する
刹那!

 「ぐおオオオオオオオォーーー!」

獣の雄叫び!?
いや
それは確かに千右衛門の叫ぶ声!
そして

 ドッ!
 「うがああッ!」

顔を上げた清次郎の目の前
床に突き刺さる刀!
「これは、千右衛門の太刀・・・」
そしてその刀ごしに、千右衛門を見ると

 「ユウギ!?・・・ユウギ殿!!」

 「ぐおァァァァーーー!」
 「グゥゥゥゥーッ!」

あの千右衛門の巨体が尻を付いている!
左の脛にユウギが噛みついているではないか!
痛み苦しみ、のたうち回る千右衛門
その千右衛門に血をまき散らしながらも噛みついたまま、離れないユウギ!

 「アヴゥゥーッ!」

 「ユウギ殿・・・見事ッ!!」

その勇姿に思わず叫んだ清次郎!
そして、目の前に舞い降りた幸運・・・
 ギラリッ
囲炉裏の炎を受けて怪しく光る、千右衛門の大太刀
「ここは、戦場・・・」
そう呟いて、清次郎はその大太刀に手を掛ける
その間

 「オォォ!テメェ!離しやがれッ!!」
 「グゥゥウゥゥウゥゥゥゥゥッ!」

拳で殴ってユウギを引き剝がそうとする千右衛門
あの手この手
拳が当たる所
指が引っかかる場所全てを手探りで探して握り潰して割いて、叩きのめす!

 「このッ!このーッ!」 

 ドガッ!ゴッ!ゴッ!グヂャ!

 犬の畜生ごときがァァァ!!」
 「ヴヴゥゥゥゥゥゥゥゥーッ!」

しかし目を潰されても
耳を千切られても、鼻をもがれても喰い込む牙!
深く深く、骨にまでも達したユウギの牙は離れない
血にまみれても
骨を露出しても
それでも!何処までも千右衛門に、喰らい付く!

 「うがあアアアアアーッ!」
 「グヴゥゥゥゥーッ!」

2頭の獣の雄叫び!その激しさたるや!
気遅れした清次郎
「い、今しか!」
千右衛門の大太刀を床から引き抜いて、目の前のユウギを避けて素早く千右衛門の頭の上へと回り込む!
しかし
それを見ていた千右衛門

 「うぉらぁーッ!」

左手でユウギの相手をしながら体を反転
その回転する勢いで伸ばした右手で清次郎の左手を掴んだ!

 「ぐっ!」

その千右衛門の大きな、熊のように毛むくじゃらで黒い手!
刀の鍔と清次郎の左手を全て覆いつくすように掴んでいる
そして吠える!

 「返せーッ!
 それは神鳴千右衛門様の、自慢の大太刀だァーーー!!」
 「ならぬーッ!
 ここは戦場!
 お主の刀で!私がお主を討ち取るーッ!!」
 「ああああ‶!糞がァァァァー!」

うつ伏せになっていた千右衛門の体
その左足の下敷きになったユウギ
千右衛門はユウギの頭部を床に激しく

 ドガッ!ドガッ!ドガッ!

打ち付ける!

 「おらぁぁああアあああアアアアア!!!」
 「グヴゥゥゥゥゥゥゥゥーッ!」

それでもまだまだ低く響くユウギの唸り声!
それに対峙する獣のような千右衛門の闘志!
 今まで一緒の釜の飯を食ってきた清次郎
この大男を敵にすることの恐ろしさを
それを武士として、感動すらを肌で感じてしまう!

 「何て・・・何て男だぁぁぁァー!!」

清次郎は称えるかの如く
同時に憎しみの込めて叫んだ!
そして未だ千右衛門の大きな手は、清次郎の刀を握った手ごと覆って、動けない!

 「うおぉぉぉ!
 返しやがれえええエええエエエエエーッ!!!」
 「グヴゥゥゥゥーッ!」
 ドガッ!ドガッ!ドガッ!

清次郎とユウギを相手にしているのに全く引けを取らない千右衛門
ユウギが力尽きる前に清次郎が刀で致命傷を与えなければ、最早勝ち筋は無い!

 「ぐウゥゥ!離せぇぇェェェーーーッ!!」
 「テメェが離ししやがれェェェーーーッ!」
 「グゥゥゥゥ・・・」
 ドガッ!ドガッ!ドヂャッ!

 「負ける訳にはーッ!いかぬのだアアァアァァーッ!!」
 「テメェらみてぇな雑魚と畜生にィィ、負けてらんねぇんだよオオオオ!!」
 ドヂャッ!ドヂャッ!ドヂャンッ!

 「ぐおォォおおあああアアーーーッ!」

突然!
また猛獣のようなけたたましい大声を上げて苦しむ千右衛門
次の瞬間!
清次郎と刀を掴む手を離れる!

 「今かッ!」

清次郎は空かさず刀を大きく振り上げ、そして振り下ろす!

 「はあああッ!」

大太刀の重い刀身は清次郎の予想を遥かに超えて加速
千右衛門の頭部目掛けて振り下ろされる!
しかし

 「ふッざけんなーーーッ!」

千右衛門は何と!

 ガンーッ!

清次郎の一太刀を右拳の裏で払いのけて見せた!

 「あぁッッッ!」

大太刀の、側面に受けた衝撃
そして慣れない、通常の刀よりも遥かに重い大太刀
「くううウッ!」
拳に弾かれて暴れる大太刀を何とか制御しようとよろけながら足を、腰を、全身を使って捌く
そして大太刀は

 ピタッ

清次郎の上段に定まった

 「これで・・・」
 「ぐッ!」

床に転ぶ千右衛門を見る清次郎
あの千右衛門を見下ろす
初めてだ
少しの、躊躇
しかし

 「終いだー!」
 「クッソがあああああああアあああアアーッ!!」

その一太刀を気迫で押し返すように叫ぶだけの千右衛門
その一撃が、振り下ろされる!!

 ガッ!

「・・・・・あぁぁ?」
清次郎の、気の抜けた声
「・・・ッハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・」
その振るわれた大太刀は、天井の梁に深く深く突き刺さったのみ・・・
「ハァ・・・ハァ・・・
 アッハッハッハッ!ガッハッハーーーッ!」
高笑いの千右衛門
そして足元のユウギに目を向ければ・・・
「コイツ・・・ハァ・・・・・死んで、いやがる・・・・・」



「うぅぅ・・・・・うぅぅぅぅ・・・・・」
静かになった小屋には、お万のすすり泣く音・・・
そして

 「ユウギ殿ぉぉぉォォーーー!!」

叫ぶ清次郎
梁に深く刺さって抜けない大太刀を抜こうと必死!

 「抜けろオォォォーッ!」

 「馬鹿めがァ!
 これが犬死にだなぁ!ハッハッハッハッハッ!」

そう笑ってから千右衛門
ユウギの頭部
唯一形を留めたままの顎を手に持ち

 「ぐアアアアッ!
 いっつぅぅ・・・・・畜生ガァッ!」

唸りながら外して、左足を大きく振ってユウギのその亡骸を吹き飛ばす

 ドフッ!!

亡骸は、お万のすぐ隣の壁に当たって・・・

 ザァーーー・・・

崩れて、落ちた・・・

 ユウギの血
四方八方に飛び散って、お万の顔に・・・
その瞬間

 「うわアアアアアアアアアアアアアー!!!!!」

お万の大声が小屋中に響く!

 キィィーーーーーーーーーーーーーーーン!

同時に、もの凄い耳鳴り
男達を耳鳴りと、頭痛が襲う!

 「なっ!何だこの声!」
 「あの餓鬼・・・アイツなのかッ!!?」

しかしそれに全く屈しない千右衛門
「ぐウゥゥゥ・・・」
と、悶えながら

 「ワシの太刀を、返せッ!」

転んだまま、清次郎の足を掴んで転ばせた

 「がァッ!」
尻もちを付く清次郎

そして、千右衛門は立ち上がって、天井の梁に深く刺さった大太刀に手を掛ける
「ハァ・・・ハァ・・・」
「くッ!」
清次郎は、祈った
(抜けてくれるなぁぁッ!)
しかし

 ガッ

その太く黒い腕で、いとももたやすく大太刀を抜く千右衛門
清次郎を見下ろして
「ハッハッハッ・・・」
嘲笑う

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