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20人のコピーを作るより、20人の『らしさ』を育てることにした。


前回の最後に書いた。次は「個人技を、組織に渡す」教育の話をすると。

で、この一週間ずっと考えていた。

結論から言うと——渡すのを、やめた。

予告と真逆のことを言っている自覚はある。順番に説明させてほしい。

自分の個人技

打合せの席でお客様と話していると、完成のイメージが瞬時に浮かぶ。

同時に、完成までの工程も、ステップも、「こうしたらもっと良くなる」という提案も浮かんでいる。

特にデザイナーさんと話すときは、図面の向こうにある真意を読みにいく。この人は本当は何を作りたいのか。

だから打合せが終わる頃には、お互いの頭の中に同じ絵がある。あの感覚は、ちょっと気持ちいいんだよね。

20年かけて身についた、自分の一番の武器だと思う。

この直感の正体

これを組織にどう渡すか。考えるうちに気になって、AIと一緒に文献を漁ってみた。

そうしたら、この「瞬時に浮かぶ」やつには、ちゃんと研究があった。

ノーベル経済学賞のダニエル・カーネマンが、直感研究の第一人者ゲイリー・クラインと一緒に書いた論文がある。専門家の直感の正体は魔法じゃなくて、パターン認識なんだそうだ。

長年同じ領域で、結果がすぐ返ってくる環境に身を置き続けた人間だけが、無数のパターンを頭に溜め込む。目の前の状況がそのどれかと照合されて、答えが「浮かぶ」。

思い当たりしかなかった。

現場で作って、取り付けて、お客様の顔を見て、失敗して、直して。20年間、結果が毎回すぐ返ってくる場所にいた。あの直感は、その積み重ねの出力だった。

つまりこれ、座学では絶対に育たない。

渡せないのは、教え方が下手だからじゃなかった

もう一つ、腑に落ちた言葉があった。

哲学者マイケル・ポランニーの「暗黙知」。人は語れることよりも多くのことを知っている、という話だ。

自転車に乗れる人が、乗り方を完全には言語化できないのと同じで、技能の核心部分はそもそも言葉にならない。

知識経営の世界的な研究者、野中郁次郎さんはさらにこう言っている。暗黙知が人から人へ移るのは、共同体験を通してだけだと。一緒に現場に立って、同じ経験を浴び続けることでしか移らない。

つまり自分の勘どころを誰かに渡すには、その人と20年、現場を一緒に回るしかない。

無理だ。物理的に無理。

渡せなかったのは、自分の教え方が下手だったからでも、メンバーの能力が足りないからでもない。構造的に、渡せないものだった。

これがわかって、正直ちょっと楽になった。

コピーは作らない

じゃあ会社はどうするのか。

自分のコピーを20人作っても、会社は強くならない。どんなに優秀でも、コピーである限りオリジナルは超えられない。そもそも作れないことは、もうわかった。

それより、メンバー一人ひとりがすでに持っている独自性を力に変えたほうがいい。

これも調べてみたら、経営学の大御所ドラッカーが昔から言っていた。成果をあげるには強みの上に築けと。弱みの矯正に時間を使うな、と。

ギャラップという世界的な調査会社は、何十年もかけてこのテーマを研究している。強みを活かせている集団は、そうでない集団より収益性が23%高いというデータまである。

ついでに耳の痛い数字も見つけた。日本で仕事に熱意を持って取り組んでいる人は、わずか6%。世界最低水準らしい。

弱みを直させて、型にはめて、熱意6%。それが日本の平均だとしたら。

うちは逆を行く。会社は「創業者の技」で勝負するんじゃなくて、「メンバーの得意の集合」で勝負する。そう決めた。

仕組みは拍子抜けするほどシンプル

じゃあ教育の仕組みとして何をやるのか。

数字の目標をお互いに握る。KPIを決める。達成までのプロセスを上長と一緒に管理しながら進む。

それだけ。

雑に見えるかもしれないけど、これにも裏付けがある。目標設定の研究では半世紀近く前から、曖昧な「頑張れ」より、具体的で少し高い目標と定期的なフィードバックの組み合わせが、一番人を伸ばすとわかっている。

そして一番大事なのはここ。方法は、自分で生み出してもらう。

方法まで渡したら、またコピー作りに戻ってしまうから。

心理学に自己決定理論というのがある。人のやる気の一番深いところにあるのは「自分で決めている」という感覚なんだそうだ。やり方を指定された瞬間、仕事は他人事になる。やり方を任された瞬間、仕事は自分事になる。

目標は一緒に握る。道は任せる。

そのかわり、得意ゾーンへの自己投資は促すし、会社としても一定の協力をする。学びたいものがあるなら、背中を押す。

前回の評価制度が「結果と処遇をつなぐ仕組み」だとしたら、こっちは「得意と成長をつなぐ仕組み」。

二つ揃って、やっと土台ができた。

自分の技は、まだ自分が使う

技を渡すのをやめたら、もう一つはっきりしたことがあった。

この武器は、これからも自分が最前線で使う。

譲る話でも、退く話でもない。むしろ逆だ。

メンバーがそれぞれの得意で戦えるようになれば、自分はコピー作りから解放されて、自分の得意に全部の時間を注げる。

一人の技で引っ張る会社から、20人の得意で駆け上がる会社へ。

でも先頭はまだ譲らない。

DW


追伸

前回「肩の力を抜く」と宣言したくせに、今回ちょっと文献とか引っ張ってきて、また力んでるじゃないかと思われそうなので言い訳を。

AIと壁打ちしていると、こういうことが起きるんです。自分の腹で決めたことを話すと、「その考え、実は研究があります」と返してくる。

自分の20年が、学問の言葉と握手する瞬間。これが結構、癖になる。

次回は、ずっと温めてきた数字の話。粗利率33%を40%に持っていく、その実況を始めます。

→ その回はこちら:粗利は「率」じゃない、「額」だ。1,000万円の仕事より、100万円を選ぶべき時がある。

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