「医療的ケア児、対応できますか?」その一本の電話が、すべての始まりだった
【第2回】
知ってしまったら、答えは一つだった
――小児科医からの一本の電話
2018年
つなぐ薬局に、一本の電話がかかってきました。
在宅医療で連携していた、緩和ケアを専門とする小児科医からでした。
「クリニックで小児在宅医療を始めることにしたんです。
医療的ケア児の訪問薬剤指導、対応できますか?」
正直に言えば、
その時点で私は
「医療的ケア児」という言葉を、ほとんど知りませんでした。
電話で初めて知った、小児在宅医療の現実
電話の中で、医師は淡々と説明してくれました。
NICUを退院したあとも、
人工呼吸器や経管栄養、たんの吸引など、
医療的ケアが必要な子どもたちがいること。
多くは通院が難しく、
在宅で療養しながら生活していること。
そして、
それを支える在宅医療の体制が、十分とは言えないこと。
電話を切ったあと、
私はすぐに調べ始めました。
調べれば調べるほど、
これは一部の特殊なケースではなく、
構造的な社会問題だということが分かってきました。
不安はあった。だからこそ、考えた
もちろん、不安はありました。
小児在宅医療に関する知識は、ほぼゼロ。
診療報酬の仕組みも、算定要件も、
その時点では把握できていませんでした。
ただ、病院薬剤師としての経験から、
やるべきことの「中身」は想像がつきました。
調剤は複雑になる。
無菌調製も必要になる。
家族との関わりも、より丁寧さが求められる。
簡単ではない。
でも――
やれない話ではない
そう冷静に判断している自分がいました。
「やります」と答えた理由
電話口で、私はこう答えました。
「やります」
勢いではありませんでした。
むしろ、
一度この話を聞いてしまった以上、
「できない理由」を探すほうが難しかった。
それが、正直な感覚でした。
創業時の想いと、一本の電話
つなぐ薬局を共同経営者と一緒に立ち上げたとき、
私たちの中にあった想いは、とてもシンプルです。
薬剤師が、
社会問題になっている部分に、
もっと踏み込めないだろうか。
当時、高齢者の在宅医療でも、
薬局は後手に回りがちでした。
医療費、多剤併用、残薬、24時間対応、無菌調整、多職種への支援
薬剤師が関われば改善できる課題は、
いくらでもあるのに。
小児在宅医療で聞いた話は、
その構造と、似ている印象がありました。
小児在宅も、同じ構造だった
薬局が十分に参画していない。
その分、家族が負担を背負っている。
支援の仕組みが、追いついていない。
これは、解決すべき問題だ。
高齢者在宅医療で、
少しずつ薬局が役割を取り戻してきたように、
小児在宅でも、同じことが起きるはずだ。
そう思いました。
個人的な理由も、正直に言えば
もうひとつ、
個人的な理由もあります。
私は、子どもが大好きです。
父親として、
子どもと過ごす時間の楽しさを知っています。
医療的ケアが必要な子どもたちと、
その親の姿を想像したとき、
「助けたい」
そう思ったのも、事実です。
ただ、それは
決断を後押しした理由の一つであって、
すべてではありません。
制度は、後から追いつけばいい
「やります」と答えたあと、
制度について徹底的に調べました。
当時は、
在宅薬学総合体制加算に
小児在宅の要件が入る前の時代です。
評価は、正直十分とは言えませんでした。
それでも、
制度がないからやらない、ではなく
必要だからやる
そう決めました。
卸業者に薬剤の確保を確認し、
無菌調剤は全薬剤師ができる環境を整え、
小児対応ができる体制を、一つずつ整えていきました。
一本の電話が、すべての始まりだった
あの時、
「検討します」と答えていたら、
小児在宅医療に取り組むことはなかったかもしれません。
でも、
考えた結果、答えは一つでした。
「やります」
その一言が、
今のつなぐ薬局につながっています。
これは、勇気ある決断の話ではありません。
知ってしまったら、引き返せなかった話です。

次回予告
次回は、
実際に小児在宅医療を始めて直面した現実と、
約50名を支える現場でしか分からない話を、
率直にお伝えします。
