薬より先に、生活を見る
―小児在宅の初回訪問で、私が確認していること
初めて患者さんのお宅を訪問するとき、私は薬より先に見ているものがあります。
薬の数でも、処方内容でもありません。
この子とご家族が、安心して在宅療養を続けられる状態にあるか。
その視点で、自宅の様子を見ています。
もちろん、処方内容や残薬、服薬状況も確認します。
ただ、薬が正しく処方されていても、生活の中で安全に使えなければ治療は続きません。
初回訪問は、薬を届ける日ではなく、これから始まる在宅療養のスタートの日です。
呼吸器は、実際に見せてもらう
気管切開をしている子どもでは、まず呼吸器の使用状況を確認します。
日中も使うのか。
夜間だけなのか。
季節によって使用量も変わります。
冬は乾燥するため、加湿用の注射用水が増えるご家庭もあります。
初回訪問では、
「注射用水は何を使っていますか」
だけではなく、
「呼吸器を見せてもらえますか」
とお願いします。
同じ注射用水でも、呼吸器によって使える製品が違うからです。
点滴バッグタイプなのか。
細口開栓タイプなのか。
ここを間違えると、注射用水を届けても使えません。
商品名だけでは分かりません。
実際に見ないと分からないことがあります。
薬ではなく、テープを変える
NGチューブを使っている子どもでは、顔に貼っているテープも確認します。
毎日貼って、毎日剥がす。
その繰り返しで皮膚トラブルが起きることがあります。
一般的なテープを使っていて、皮膚トラブルが続いていたご家庭がありました。
そこで「優肌絆」を提案し、薬局で取り寄せてお渡ししました。
劇的な変化ではありませんでしたが、皮膚の状態は改善しました。
変えたのは薬ではありません。
テープです。
毎日使うものを少し変えるだけで、負担が減ることがあります。
こういう提案も、薬剤師の仕事の一つです。
ネブライザーは、薬の名前より順番を確認する
ネブライザーを使っているご家庭では、薬の種類だけではなく、どの順番で吸入しているかを確認します。
気管支拡張薬。
去痰薬。
吸入ステロイド薬。
複数の薬があると、使い方に迷うことがあります。
私は、
「何の薬がありますか」
ではなく、
「普段どんな順番で吸入していますか」
と聞きます。
気管支拡張薬、去痰薬、吸入ステロイド薬には、それぞれ役割があります。
処方内容によっては、先に気道を広げ、その後に去痰薬を使い、最後に吸入ステロイド薬を使用します。
ただし、順番や混合の可否は薬剤によって異なります。
医師の指示や製品情報を確認しながら、ご家庭で続けやすい方法を一緒に考えます。
必要に応じて、説明資料をお渡しすることもあります。
薬を追加しなくても、今ある薬の使い方を整理するだけで、より安全で効果的に使えることがあります。
「持っている」だけで安心しない
薬や医療材料が家に揃っていても、それだけでは十分ではありません。
どんな時に使うのか。
どの順番で使うのか。
残りはいくつあるのか。
不足したら誰に連絡するのか。
そこまで聞きます。
医療的ケア児を育てるご家族は、毎日たくさんのケアと判断をしています。
だから、一方的に説明することはありません。
普段どのように対応しているのかを聞き、そのやり方を尊重しながら、薬学的に補えるところがないかを考えます。
初回訪問で、本当に見ているもの
呼吸器。
加湿器。
注射用水。
テープ。
ネブライザー。
確認することはたくさんあります。
でも、機器や薬と同じように、ご家族の表情も見ています。
説明を終えたあと、
少し安心した表情になっている。
「困ったときは、薬剤師さんに相談していいんですね。」
そう言っていただける。
そのとき、
「今日は訪問して良かったな。」
と思います。
初回訪問ですべてを解決する必要はありません。
一度で全部理解していただく必要もありません。
困ったときに相談できる相手が一人増えた。
そう思ってもらえれば十分です。
薬より先に、生活を見る
初回訪問では、薬を見ているようで、実際にはその薬が使われる生活を見ています。
どんな医療機器を使っているのか。
薬をどう管理しているのか。
どこで困っているのか。
ご家族が無理をしていないか。
生活を知って初めて、薬剤師としてできることが見えてきます。
呼吸器に合った注射用水を準備すること。
皮膚に合ったテープを提案すること。
吸入薬の順番を整理すること。
一つひとつは小さなことです。
でも、その積み重ねが、子どもとご家族の毎日につながっていきます。
薬剤師の仕事は、薬を届けることだけではありません。
薬学的な知識を、生活の中で使える形にすること。
子どもとご家族が、安心して生活を続けられるように支えること。
それが、在宅医療で薬剤師にできることです。
おわりに
この連載では、小児在宅医療を始めたきっかけから、現場で学んだこと、そして私が日々の訪問で大切にしていることまで、自身の経験をもとにお伝えしてきました。
小児在宅医療は、薬局が社会課題の解決に直接関われる数少ない分野の一つです。
決して簡単な分野ではありません。しかし、最初からすべてを知っている薬剤師はいません。私自身も、一つひとつ現場で学びながら、ここまで歩んできました。
この連載が、一人でも多くの薬剤師にとって、小児在宅医療を知るきっかけとなり、「やってみよう」と思える最初の一歩につながれば、これほど嬉しいことはありません。
つなぐ薬局の小児在宅医療について
どんな支援を行っているのか、実際の取り組みについては、ホームページでも紹介しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。

