高市政権が参政党を「無力化」した日〜比例名簿に見る保守囲い込み〜
石破派、沈む
1月27日公示の衆院選。自民党の比例代表名簿が波紋を広げています。
石破茂前政権の閣僚経験者が軒並み下位に沈みました。北海道ブロックで伊東良孝前沖縄北方担当相が6位。中国ブロックで阿部俊子前文部科学相が20位。四国ブロックで村上誠一郎前総務相が10位。全員が比例単独での立候補で、前回は比例1位だった面々です。
村上氏の処遇は象徴的でしょう。四国ブロックの定数は6。自民党が獲得できる議席は3程度。村上氏より上の9人は全員が選挙区との重複立候補です。9人のうち7人以上が選挙区で勝たない限り、村上氏の当選はない。公認はついている。でも当選はほぼ不可能。**事実上の「公認付き非公認」**でしょう。
東京大学の牧原出教授はこう評しています。「自民党は、もはや国民政党あるいは広く国民各層の意見を吸収する『包括政党』としての役割を捨てようとしている」
露骨です。意図的に露骨なのでしょう。
参政党の誤算
この動きを読み解くには、時計の針を戻す必要があります。
衆院選を前に、参政党の神谷宗幣代表は面白い戦略を打ち出していました。1月14日の記者会見での発言です。
「高市さんの足を引っ張ろうとしている自民党の議員もいるので、そういう人たちはいない方がいいじゃないの、ということを頭の片隅では考えている」
「我々と考えが近いということは、高市さんの政策に対してポジティブに進めようとしている議員さんたちを落としてしまうと、高市さんの党内の基盤が弱くなってしまいますから、そういう人はなるべく避けていこう」
与党を丸ごと敵にしない。野党がやりがちな全面批判とは違う。与党内部に「味方」と「敵」をつくり、党内力学に外から介入する。少数政党としては合理的な戦略に見えました。
漁夫の利の構造
でも、この戦略の本質は「高市政権の後支え」ではなかった。
参政党が狙っていたのは漁夫の利です。自民党内の分断を煽り、保守層に囁く。「自民党には隠れリベラルがいますよ」「あの議員に票が行くかもしれませんよ」。不信感を醸成して、自分たちへの票に変える。味方のふりをした競合。
この戦略が機能する条件は明確でした。自民党内に「隠れリベラル」が可視化されずに残っていること。高市派と石破派の対立が続くこと。保守層が「自民党は信用できない」と感じ続けること。
党内がゴタゴタしているほど、参政党にとっては美味しい構図だった。
掛け声だけの「選択的刺客」
そもそも参政党の「選択的刺客」戦略は、言葉通りに実行されていたのか。
数字を見れば明らかです。2024年衆院選での参政党の小選挙区擁立数は85人。今回は182人。2倍超に膨らんでいます。「親高市の議員は避ける」どころか、全国に候補を立てまくっている。
象徴的なのは新藤義孝元経済財政相の選挙区です。新藤氏は外国人問題で高市首相に近いとされる議員。参政党の論理なら「避けるべき」選挙区でしょう。でも参政党は候補を擁立しました。理由を問われた神谷代表の回答は「地元で出馬したいという意向を尊重した」。
1月22日の産経新聞インタビューでは、トーンが変わっています。「党が違うのだから戦って当たり前だ」「自民にも通していい人と通したらまずい人がいる」。1月21日の会見では「160人候補者擁立、自民党と正面から戦う」と明言。
「親高市」「反高市」の仕分けは、候補者の地元出馬希望を優先した時点で破綻していた。あるいは最初から、掛け声だけだったのかもしれません。
先に動いたのは高市政権
高市首相は、この構図を選挙前に潰しにいきました。
比例名簿での石破派冷遇。これは党内人事に見えて、保守層へのシグナルです。「自民党は保守です。リベラル系は冷遇しました。安心して戻ってきてください」
参政党が外から攻撃しようとしていた「親中」「リベラル」「緊縮」の議員。高市政権が先に処分済みにしてしまった。参政党が「あの議員は保守じゃない」と叫んでも、高市政権が「うちもそう思っています」と返せば攻撃は空振りになる。
保守層の囲い込み。
参政党のポジションは「自民党の外にいる保守の受け皿」でした。自民党内にリベラル派がいる限り、その存在意義は担保される。
高市首相がやったのは、受け皿の必要性そのものを消すことです。「自民党の中に保守の本丸があります」と宣言し、リベラル派を可視化して冷遇する。
保守層からすれば、参政党に入れなくても高市自民で同じ効果が得られる。しかも政権与党だから実効性もある。
参政党は自民党内の力学に介入するつもりが、その構図ごとひっくり返された。
二重の破綻
参政党の戦略は二重に破綻しています。
一つ目は、自分たちの「選択的刺客」戦略を自ら放棄したこと。候補者確保を優先し、「親高市」選挙区にも擁立した結果、「高市政権を後支えする」というストーリーに穴が空いた。
二つ目は、高市政権に先手を取られたこと。党内の「隠れリベラル」を外から攻撃しようとしたら、高市首相が先に可視化して冷遇してしまった。参政党の攻撃材料が消えた。
神谷代表は1月26日の会見で「自民対中道改革の構図が作られている」と危機感を示し、「第3極みたいな形で、数の力で存在感を示す」と語っています。「高市政権の後支え」から「第3極」へ。ポジションの修正を迫られているように見えます。
分裂より囲い込み
社会学者の西田亮介氏は「自民党内でも分裂の火種が燻っている」と指摘しています。ここまで露骨な処遇は党内に禍根を残すでしょう。石破氏周辺が「中道」に流れる可能性も取り沙汰されている。
でも高市首相にとって、党内融和より保守層の囲い込みが優先だったのでしょう。選挙で勝てなければ党内基盤も意味がない。保守票が参政党や日本保守党に流れれば、自民党全体が沈む。
分裂のリスクを取ってでも、保守層を固める。その判断が比例名簿に出ている。
一枚上手
参政党の「分断介入」戦略は、少数政党が議席数以上の影響力を持つための方法論として合理的でした。
高市首相は、その戦略が機能する前提を消しにいった。参政党が利用しようとしていた党内対立を、自分で決着させてしまった。
勝手に動く味方ほど扱いに困るものはない。高市首相は、その「勝手に動く味方」を無力化した。
今回の衆院選、参政党の議席数だけ見ていても意味がない。保守層の票がどこに流れたか。高市政権の囲い込みは成功したのか。その結果が、保守政治の地図を書き換えます。
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とある地方都市の某外科医のひとり言
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