刺青の統計が日本にない 〜脳外科で見えるもの〜
頭痛を主訴に紹介されてきた患者の手を見る。指に文字が入っている。彫りは浅く、輪郭が崩れている。
日本に統計がない
WWD JAPANが2024年12月4日に紹介した都留文科大学・山本芳美教授の研究では、日本のタトゥー人口は2014年から2022年の8年間でほぼ倍増し、約140万人に達したとされる。人口比にすれば1%強。学術論文ではおよそ2%という数字が使われることが多い。推計であって、国が取った調査ではない。
米国と並べると落差が見える。Pew Research Centerが2023年8月に公表した約8,500人規模の調査では、成人の32%が最低1つのタトゥーを持ち、男性27%に対し女性38%、18〜29歳の女性では56%、年齢別では30〜49歳が46%で最多だった。入れた理由の最多は「何かを忘れないため、誰かをたたえるため」で69%。属性でも動機でも切れるだけの標本がある。
規制の側にはデータがある。2015年の観光庁調査は3,768施設に送付して581施設から回答を得ており、断っているが56%、断っていないが31%、条件付きが13%だった。入れない側の意向は数えられていて、入れた側は数えられていない。
243万回の証言
8月4日、彫り師のYouTuberが客層について語った動画を投稿した。入れ墨をした人に向けられる「怖い」「頭が悪い」「ヤンキー」という偏見を列挙したうえで、おおよそ正しいと自ら肯定する内容だった。予約は3件に1件が無断キャンセル、客層は建設業と夜の仕事が半々、挨拶がまともにできる客は1%に満たない。8月16日時点で243万回再生、チャンネル登録者は9.41万人に伸びている。
数字が具体的なので、実務の実感から出たものだろう。ただしこれは彼の店に来た客の統計であって、刺青を入れる人の統計ではない。
反応を受けて、8月11日に謝罪動画が出た。題名と中身の母集団がずれていたことを、投稿者自身が事後に処理せざるを得なくなっている。
見せるか隠すか
反論はすぐに出た。刺青を入れているYouTuberが複数、動画で応じている。擁護の中心にあるのは、髪型やアクセサリーと同じ自己表現ではないかという主張だ。美容院帰りの髪型も、好きなキャラクターのグッズも、新しい服も、みんな見せて歩いているだろう、と。
ところがこれを否定したのも当事者だった。両腕と背中、胸と前腕に刺青があると自ら明かす格闘技ジムの代表が、髪型を変えることと刺青を入れることは決して同じではないと書いている。人前に出せば非難されるのはある意味で当たり前だ、とも。
Netflixの恋愛番組『ラヴ上等』のシーズン2が8月4日に配信され、全身タトゥーの出演者が話題になったことで、火は別方向にも広がった。見える場所にしか入れていないのはダサいという批判が出て、それに対して見えない場所に入れる方が社会の印象を気にしていてダサいという反論が返る。
不可逆性という一点で、擁護論も割れている。そして議論の軸は「入れるかどうか」から「見せるか隠すか」に移った。
美容外科医の反論
医療者からの反論もあった。美容外科医の高須幹弥氏が8月12日に動画を出し、自身の患者の1割から1割5分にタトゥーがあること、その多くがホストやキャバクラ嬢であること、そして皆とても礼儀正しいことを述べている。ホストの世界は体育会系で目上を立てる文化があり、他の職種より礼儀がしっかりしているとまで言う。99%という数字はさすがに盛っているのではないか、というのが結論だった。
無断キャンセルについても数字を出している。美容整形のカウンセリングで約1割、自院はそれより少ない。ただし理由は客層だけではない。3日前に受付が確認の電話を入れ、手術には頭金を取り、キャンセル料の規定を説明する。制度で下げている。しげち氏の3件に1件という数字は、予約管理の有無を含んだ数字でもある。
同じ日本で、同じ時期に、タトゥーのある人間を大量に見ている二人が、正反対の結論を出した。どちらも嘘をついていない。片方は低単価帯の個人スタジオに来る客を見て、もう片方は自費の美容外科に来る患者を見ている。支払い能力で切った時点で、集団は分かれる。
そして高須氏は、自分の側の限界も動画の中で述べている。自分を指名して来てくれるホストやキャバクラ嬢の層がいいという可能性もある、と。反論しながら、その反論が何に依存しているかを自分で開示した。
さらに職業の側が保有を抑えている例もある。高須氏によれば、風俗で働く人にタトゥーは意外に少ない。入っていると予約が入りにくいからだという。入れるか入れないかは、本人の性向だけで決まっていない。
酷な話だ。
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