美容内科のエビデンスは永遠にできない
池田欣生氏のXポストが流れてきた。レタトルチドというEli Lilly開発中の三重作動薬を取り上げ、「美容内科の進化は止まりませんね」と書いている。
引用欄に的確なツッコミがあった。「肥満症の薬なのに、勝手に美容内科の実績にしててウケる」。
これが本質です。
美容内科という新興分野
日本美容内科学会は2023年10月設立。3年未満の新興学会です。理事長は青木晃氏(防衛医大卒・代謝内分泌系)、副理事長が今回ポストした池田欣生氏(皮膚科・形成外科)。
協賛企業リストを見ると性格が分かる。ロート製薬、メルスモン製薬、三菱商事ライフサイエンス、その他点滴・サプリ・プラセンタ系の業者が多数並んでいる。学会の経済的後ろ盾が誰かは、これで透ける。
設立趣旨は「EBMに基づく真に効果的で安全な美容内科医療を構築する」。
学会公式サイトには、こう書かれている。
未だエビデンスの集積が少ないこの分野においては、効果や安全性が不確実なまま医師の勝手な裁量の下にそれらが使われている
自分たちでエビデンス不足を認めている。そして「これから蓄積していく」と宣言している。
ところが、このエビデンスは永遠にできない。構造的に不可能だからです。
「美容内科」は標榜科ではない
そもそもの話を一つ。
「美容内科」は明示的に認められた標榜科目ではありません。「美容外科」「美容皮膚科」は2008年の医療法施行令改正で明示認可されていますが、「美容内科」はその例示に含まれず、厚労省通知にも記載がない。看板に掲げること自体が医療広告ガイドライン上グレーです。
明示認可されていない診療科を、新設学会の権威で正当化する。出発点からして無理がある。
エビデンスを作る動機を持つのは誰か
新薬のエビデンスを作るのは、巨大な臨床試験を回せる主体だけです。
メガファーマは適応取得で売上が倍増するから、数百億円を投じて第3相試験を回す。大学や公的研究機関は学術的価値と研究費のために走る。
美容内科クリニックは違う。すでに自由診療で儲かっている。
サプリ業者・点滴業者も同じ。むしろ効果が証明されたら医薬品規制下に入ってしまう。曖昧なまま売る方が儲かる。
エビデンスを作る動機を持つ主体が、美容内科の主要プレイヤーの中に一人もいない。
効く薬は美容内科に残らない
これが構造の核心です。
製薬会社が大規模治験を回して有効性が確認された薬は、承認薬になる。承認されれば保険適応か正規の自由診療ルートで流通する。専門医が処方する。
美容内科に残るのは、篩い落とされたものか、篩にかけられていないものだけ。
承認されなかった候補(試験で効かなかった)
承認されたが別適応(美容効果は未検証)
そもそも薬ですらないもの(サプリ、点滴)
GLP-1だけが例外的に「効くもの」として残っているように見える。でもこれは肥満症薬として承認取得済みであって、美容内科が育てた成果ではない。
経路を辿ると分かる。Eli Lillyが糖尿病薬マンジャロとして承認取得、次に肥満症薬ゼップバウンドで再承認、それを美容内科クリニックが適応外でダイエット流通。育てたのはEli Lillyで、横から取って売っているのが美容内科です。
池田氏が「美容内科の進化」と呼んだのは、正確には「Eli Lillyの創薬力」のことです。
RCTにかけられない商材ばかり
美容内科の典型的メニューを臨床試験にかけられるか、一つずつ考えると分かる。
NMN点滴。アウトカム指標が定義できない。「若返り」を何で測るのか。
プラセンタ注射。「疲労回復」「肌つや」の客観的定量化が困難。
エクソソーム点滴。製品ごとに中身が違う。ロット間で含有物が異なる。未承認再生医療等製品です。標準化できないものはRCTにかけられない。
オーソモレキュラー栄養療法。個別化を売りにする時点で集団試験が成立しない。
高濃度ビタミンC点滴。抗がん効果は否定済み。美容効果はそもそも定義されていない。
アウトカムが定義できないものは、原理的にエビデンスが作れません。
「個別化」という永遠の逃げ道
エビデンスを問われたときの常套句がある。
「個人差があるので一律のエビデンスは適用できない」「オーダーメイド治療なのでRCTにそぐわない」「全人的アプローチが必要」。
これは永遠にエビデンスから逃げ続けるための呪文です。
本物の精密医療はバイオマーカーで層別化したRCTで証明する。遺伝子変異ごとに薬を選ぶがんゲノム医療がそうです。美容内科の「個別化」はバイオマーカーなし、層別化なし、検証なし。
ただの言い訳を「個別化」と呼んでいる。
エビデンスの定義をすり替える
学会が「EBMに基づく」と言うとき、その「エビデンス」の中身を見ると面白い。
製薬会社のパンフレット。動物実験データ。症例報告。小規模オープン試験。査読なしの学会発表。
これら全てを「エビデンス」と呼んでいる。本来のEBMピラミッドで言えば最下層から中層止まりのもの。
大規模二重盲検RCTやシステマティックレビューレベルのエビデンスが存在する商材は、美容内科の主力メニューにほぼゼロです。
「内科」というラベルの借用
ここで一つ整理しておきたい話があります。
本物の内科専門医、糖尿病専門医、内分泌専門医は、EBMで戦う訓練を受けている。研修期間に何百本ものRCT論文を読み、批判的吟味の方法を叩き込まれる。臨床試験の限界を知っている。
美容内科を主導しているのは形成外科医、皮膚科医、アンチエイジング系が多い。内科のEBMトレーニングを受けていない。池田欣生氏自身も皮膚科・形成外科で、内科専門医ではありません。
「内科」というラベルを使うことで、学術的信頼性を借用している。実体は美容自由診療の延長です。
マッチポンプという構造
学会設立の建前と、理事メンバーの実態がズレている。
設立趣旨は「エビデンス不足の現状を整理する」。理事メンバーは「まさにそのエビデンス不足の治療で稼いでいる当事者」。
決定的なのは、学会公式サイトに「自由診療におけるGLP-1製剤・NMN/NAD⁺点滴・未承認再生医療等製品の適正使用に関する提言」が掲載されていること。自分たちが売っているものについて、自分たちで「適正使用してくださいね」と提言を出している。
自己批判の体裁を取りながら、市場全体は守る。新規参入者には牽制をかける。自浄作用を装った市場保護です。
振り込め詐欺被害者の会を、振り込め詐欺グループが運営している。構造としては、それと同じ形をしています。
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