AIを「カウンセラー」と呼ぶ国 白書が示した41%の意味
ドイツの回答者の41.0%が、生成AIを「カウンセラー」と答えた。中国では38.1%。日本は12.9%にとどまる。
総務省が2026年7月24日に公表した令和8年版情報通信白書の数字である。
順位が違う
「生成AIはどのような存在か」という設問で、日本・米国・ドイツともに最多は「機械・道具」だった。日本38.3%、米国46.0%、ドイツ43.3%。中国だけは「秘書・アシスタント」44.7%が首位に立つ。
割れるのは二位以下だ。日本は「辞書・百科事典」28.9%が続く。米国と中国では「友人」(25.3%、39.9%)、ドイツでは「カウンセラー」41.0%がそこに入る。日本で「友人」を選んだのは10.9%だった。
白書は、利用率の高い3か国では感情を共有する相手として捉えている層が相当数存在する、と整理している。
ただし数字の読み方には注意がいる。日本の回答割合を全11項目足すと154.5になる。概要版に明記はないが、複数回答形式と考えるほかない。一人が「道具」と「カウンセラー」の両方を選べる設計だとすれば、道具派と友人派が別々の集団として存在しているわけではない。同じ人間が場面によって呼び名を変えている、と読むほうが実態に近いだろう。
依存が育つ条件
依存形成に必要な条件は、すでに揃っている。24時間の可用性、即時の応答、ほぼゼロの金銭コスト、そして拒絶されないこと。物質依存であれ行動嗜癖であれ、強化が起きる場面には「求めたときに、確実に、すぐ手に入る」という共通の構造があり、対話型AIはその条件を静かに満たしている。
応答品質にばらつきがある点も見逃せない。同じ質問でも、返ってくる答えは日によって鋭かったり凡庸だったりする。当たりが不規則に混じる強化は、規則的な報酬より行動を持続させる。ギャンブル研究が繰り返し示してきたのは、この不確実性そのものが反復を駆動するという事実だった。次はもっと良い答えが返るかもしれない、という期待が、対話を一往復ずつ延ばしていく。
もう一つ厄介な性質がある。現在のAIは利用者の発言を肯定的に受けとめるよう調整されている。人間の友人やカウンセラーが持つ摩擦——反対意見、沈黙、面談枠の制約、関係を終わらせる選択肢——が、そこには存在しない。
摩擦がない。
心理療法の教科書には、共感だけでは治療にならないと書いてある。転移を扱い、必要に応じて直面化し、終結までを設計する。無条件に肯定し続ける相手は、治療構造としては成立しない。
待機列の国
ドイツの41.0%という突出ぶりには、社会構造の説明がつくかもしれない。ドイツでは公的医療保険で心理療法がカバーされ、精神分析の伝統も厚い。心理的な困難を専門家に話すという行為への抵抗感が、日本より小さい土壌がある。
同時に、保険診療の心理療法枠は慢性的に不足しており、初回面接から治療開始まで待たされることが珍しくない。制度上の権利はあるが、順番が回ってこない。その待機期間に、無料で即座に応答する相手が現れたとき何が起きるか。
白書はそこまで踏み込んでいない。カウンセラー文化の成熟がAIの受容を後押ししたのか、供給不足がAIを代替に押し上げたのか、この調査だけでは切り分けられない。ドイツの41%が思い浮かべているのは、おそらく傾聴の部分だけだろう。
15歳から19歳
日本の年代別利用経験率は、15〜19歳が91.7%で最も高い。20代78.2%、30代56.3%と下がり、60代は33.5%。ドイツの15〜19歳は98.1%、中国96.2%、米国81.7%。どの国でも若年層が突出している。
判断力も対人関係の型もまだ固まっていない年代が、最も濃くこの相手に接している。
そして白書の注記には、登録モニターのサンプル数確保の都合で15歳未満と70歳代以上が調査対象外になった、とある。小学生と中学生のデータが、この調査には存在しない。「どのような存在か」の設問についても、年代別のクロス集計は概要版に載っていない。10代が「友人」と答える割合が全体より高いのかどうかは、現時点では確認できない。
依存という観点から最も脆弱なのは、対人関係の原型を形成している最中の層である。判断材料が欠けたまま、その層が最も濃く接している。
3,108人の内訳
国際比較を読む前に、設計を確認しておく。
調査はインターネットアンケートで、2026年1月から2月に実施された。有効回答は日本1,236件、米国・ドイツ・中国が各624件。合計3,108件。年代と性別が偏らないよう均等割付が行われ、日本は10代から60代まで各206人、他3カ国は各104人ずつという構成になっている。
冒頭に置いたドイツの41.0%も、n=624の上に載った数字である。年代別で見れば各104人。ドイツの15〜19歳98.1%は104人中102人ということであり、数人の増減で1ポイント以上動く。
居住地域(都市部か地方部か)の偏りについても、白書は登録モニターの構成による制約を受けうると認めている。ネットモニターという母集団が、そもそもデジタルに親和的な層に寄っている可能性も残る。数字は方向を示すが、精度を保証しない。
道具としてしか
「機械・道具」38.3%という日本の数字を、健全な距離感の表れと読むことはできる。だが利用の中身を並べると別の絵が浮かぶ。テキスト生成55.0%に対し、画像・動画16.3%、コード7.0%、音声6.5%、音楽5.8%。中国はテキスト88.3%、画像・動画55.8%。使い方の幅が違う。企業側でも、効果を実感する業務の首位は議事録・メール作成補助の72.3%だった。
道具としか思っていないのではなく、道具としてしか使っていない。
企業データがそれを補強する。生成AI活用による業務変革について「組織的な取組はない」と答えた日本企業は27.0%で、他の3カ国が5%以下であるのと対照的だった。環境整備の項目はさらに差が開く。スキルやノウハウを学ぶ環境があると答えた割合は日本39.9%に対し、米国62.7%、ドイツ60.4%、中国71.7%。社内データを学習させたりデータベースを構築したりしていると答えた割合は、日本24.5%、米国57.2%、ドイツ54.4%、中国73.0%。
学ぶ場がなく、自社のデータも繋がっていない。その環境で使えるのは、汎用の文章生成までである。用途の狭さは個人の選好ではなく、置かれた条件の反映という側面が大きい。
利用経験率は2023年度9.1%、2024年度26.7%、2025年度58.8%と動いてきた。ただしこの推移は単純比較できない。2023・2024年度の調査対象は20歳以上で、2025年度から15〜19歳が加わっている。同じ20歳以上に揃えると2025年度は52.2%になる。それでも2年前の9.1%からの伸びは大きい。ほぼ毎日使うと答えた日本人はすでに約3割、うち1日1時間以上が11.1%。差が縮まるまでの時間差にすぎないのなら、日本の低さは「まだ」の数字ということになる。
恋人という選択肢
回答表の最下段に「恋人」がある。米国9.0%、中国6.6%、ドイツ6.1%、日本2.8%。日本は最下位だが、ゼロではない。
注目したいのは割合より、この選択肢が用意されていたという事実のほうだ。総務省の委託調査が、生成AIを恋人と捉える層の存在を想定して設問を組んだ。数年前なら選択肢に入らなかったであろう項目が、いまは統計の一行として並んでいる。
行政の設問設計は、社会の想定範囲を映す。そこに恋人が加わった年が、2026年だったということになる。
呼び名を選ぶ
ドイツの41%に戻る。
あの数字が示しているのは、AIを傾聴の相手として使う層の厚さであって、彼らが道具として使っていないという話ではない。同じ設問で「機械・道具」を選んだドイツ人は43.3%いる。二つの数字は重なり合っている。
家族という回答も似た位置にある。米国21.5%、中国22.1%、ドイツ12.5%、日本6.2%。恋人よりはるかに多い。近接の強度で言えば、恋愛より家族的な距離のほうが日常に食い込む。
危ういのは「AIを友人と呼ぶ人が何%いるか」ではない。同じ人間が、業務では道具として使い、深夜には相談相手として使い、その切り替えを意識しないまま往復することのほうだ。道具に向かって効率を求める姿勢と、カウンセラーに向かって内面を差し出す姿勢は、本来まったく別の構えである。それが同一のテキスト入力欄で、地続きに行われる。
自分がいまどちらの構えでいるのか。切り替えたことに気づかないまま、肯定だけが返り続ける関係に滞留してしまう可能性を、私は軽く見ていない。
インターネット利用時の不安を尋ねた別の設問で、「自分や身近な人がインターネット依存になっていないか」を挙げた人は13.1%だった。前年は13.2%。ほとんど動いていない。
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