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ニパウイルスワクチン、東大発で4月臨床試験〜致死率75%の感染症に挑む〜

昨日の記事でWHOの優先病原体リストを紹介しました。その中で触れたニパウイルスについて、今朝の日経新聞に朗報が。

東京大学先端科学技術研究センターが開発したワクチンが、4月からベルギーで第1相臨床試験を開始します。


顧みられない感染症

ニパウイルス感染症は、途上国で深刻な被害を出しながら国際的な認知度が低い。致死率40〜75%という数字は恐ろしいものの、患者数が少なく市場も小さいため製薬企業が手を出しにくい領域です。

このワクチン開発を率いるのは、東大医科学研究所の甲斐知惠子特任教授と米田美佐子准教授。甲斐・米田研究室は、ニパウイルスの遺伝子改変からウイルス合成、動物実験まで一貫して行える世界唯一の研究拠点です。

なぜ「世界唯一」なのか。2006年、米田准教授らがニパウイルスの遺伝子から感染性ウイルスを作出する「リバースジェネティクス系」の確立に世界で初めて成功したから。この技術なしには、遺伝子改変による弱毒化ワクチンの開発は不可能でした。Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)に掲載されたこの論文が、すべての出発点になっています。

2013年には、麻疹ウイルスをベクターにした組換えワクチンを開発。フランス・リヨンのBSL-4施設で検証した結果、ハムスターでもサルでも100%の防御効果を確認しました。

2019年、感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)がこのワクチンの実用化に向けて34.4億円の支援を決定。日本から初めてCEPIに採択されたプロジェクトでした。オランダのBatavia社が製造を担当し、European Vaccine Initiative(EVI)、スタンフォード大学、バングラデシュの国際下痢性疾患研究センター(ICDDR)との国際共同開発が始まる——はずだった。

コロナ禍で研究は大幅に遅延。CEPIの支援は打ち切られました。

その後、日本のワクチン開発司令塔である先進的研究開発戦略センター(SCARDA)が引き継ぎ、2023年から2029年までの支援が決定。日経新聞のコメント欄で、ノンフィクションライターの最相葉月氏が甲斐教授の言葉を紹介しています。

「アジアのことはアジアでがんばりたい」

麻疹ベクターという選択

東大チームが採用したのは、麻疹ウイルスをベクター(運び屋)として使う技術。麻疹ウイルスにニパウイルスの抗原タンパク質を組み込み、免疫反応を誘導します。

麻疹は「終生免疫」をもたらす代表的なウイルス感染症です。

1846年、隔絶された孤島フェロー諸島で行われた疫学調査では、65年間にわたって免疫が持続していたことが確認されている。オレゴン大学の研究では、麻疹ウイルスに対する抗体の半減期は67年、消失するまでに300年かかるという結果も出ています。

この特性をワクチンに応用したのが麻疹ウイルスベクター。AMEDの公開資料によると、2回の接種で強い防御効果が得られ、その免疫はほぼ一生持続すると期待されています。毎年の接種は不要。

もう一つ大きいのは、凍結乾燥製剤として冷蔵庫保存が可能な点です。

mRNAワクチンがコールドチェーンの問題で途上国への普及に苦労したことを思い出してください。ニパウイルスの流行地域であるバングラデシュやインドの農村部で、マイナス70度の冷凍設備を維持するのは現実的ではない。冷蔵庫で保存できるワクチンなら、WHOの麻疹排除計画で整備されたコールドチェーンをそのまま活用できます。

ところで疑問が一つ。多くの人はすでに麻疹ワクチンを接種済みです。麻疹抗体を持っている人に、麻疹ウイルスベクターワクチンは効くのか。

結論から言えば、効きます。

元・国立予防衛生研究所の山内一也氏によると、麻疹ウイルスベクターワクチンの有効性は麻疹抗体の存在に影響されないことが動物実験で確認されています。チクングニア熱ワクチンでは、人での臨床試験でも確認済み。

アデノウイルスベクター(アストラゼネカのコロナワクチンと同じプラットフォーム)では、既存のアデノウイルス抗体があると効果が低下するため、アストラゼネカはヒトの間で抗体が存在しないチンパンジーのアデノウイルスを使っていました。麻疹ベクターにはこの問題がありません。

ベルギーで試験を行う理由

臨床試験をベルギーで行うのは、当初のCEPIプロジェクトの枠組みに理由があります。

EUのワクチン開発支援機構であるEVIが臨床試験を担当する計画だった。CEPIの支援が打ち切られた後も、この国際連携の枠組みは維持されています。ベルギーはEU圏内で規制環境が整っており、臨床試験のインフラも充実している。

日本国内でニパウイルスワクチンの臨床試験を行うには、BSL-4レベルの安全管理体制が必要です。長崎大学にBSL-4施設は整備されましたが、ワクチン臨床試験の実績では欧州に一日の長がある。

東大とオックスフォード

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