AI規制という名の儀礼 止めたい官僚と止めたくない大統領
トランプがAIに規制をかけた。そう報じられた。だが中身を読むと、規制と呼べるものがどこにも見当たらない。
義務がない。罰則がない。それどころか、令そのものが「義務化を作ってはならない」と明記している。規制したい人間が、規制を禁じる文言を自分で書き込んでいる。
規制される側のサム・アルトマンが、この令を「バランスが取れている」と歓迎した。規制される側が歓迎する規制。その違和感から入っていく。
ザルは仕様
6月2日署名。フロンティアAIモデルを、trusted partner(信頼できるパートナー)への配布の最大30日前に政府のサイバー審査へ「自主的に」提出するよう要請する。一般公開のさらに手前、限定配布の段階で政府が見る。NSA、CISA、NIST、財務、国防が審査の枠組みを作る。
ただし任意。出さなくても罰はない。審査基準すら、これから策定する。器だけ先に作って、中身は空のまま署名された。
普通なら設計ミスと呼ぶ。私はそう読まなかった。ザルであることが、この令の目的に適っている。
厳しく審査すれば開発が止まる。対中競争で止まれば負ける。だから中身は緩くせざるを得ない。かといって審査の慣行がゼロでは、政府は最先端AIの能力を把握できない。緩く、しかし必ず通す。その一点だけが残った。
思い出しておきたい。バイデン政権の旧AI大統領令には、大手ラボへの義務的な報告要件があり、AI安全研究所も置かれた。それをトランプが2025年1月に撤廃した。撤廃した本人が、17ヶ月後に最小限の枠組みを復活させている。この反転自体が、規制の中身より体裁が問われていることを物語る。
バージョン番号という穴
仮にOpus 5で申請し、実際に出すのが5.1だったら。「同系統のマイナー更新です」で押し通せる。政府が見たモデルと、世に出るモデルが別物になる。
サイバー能力は連続的に伸びない。階段状に、ある日突然跳ねる。マイナーバージョンの表記でも、脆弱性の自動発見という閾値を平気でまたぐ。番号の刻みと能力の刻みは一致しない。
審査用に能力を絞った"おとなしい版"を提出し、通過後に本来性能を解放することも理屈の上では可能になる。排ガス検査のときだけ性能を変えた、あの構図のAI版。
製薬で考えると異常さが際立つ。同一成分の用量変更なら簡略な審査でも通る。だが適応症を追加するなら本来は再審査が要る。AIで言えば能力拡大こそ再審査の対象であるべきだ。それを「用量変更」程度の扱いで素通りさせる設計になっている。
しかし、ここで捻れる。目的が精密審査ならこれは致命傷だ。目的が「政府に毎回見せるパイプの維持」なら、見せた事実だけで足りる。企業も政府も、この穴を黙認するインセンティブで一致している。誰も困らないから、誰も塞がない。
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とある地方都市の某外科医のひとり言
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