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リボにハマるのは情弱だからではない

前回、リボ払いはクレカ会社の本業=消費者金融業の主戦場だと書いた。会社がどれだけ甘い言葉を並べても、この商品が客のために設計されていないことは動かない。

では、なぜハマる人が後を絶たないのか。情弱だから、で片付けるのは雑だ。賢い層でも同じ罠を踏む。むしろ賢い自己像を持つ人ほど踏む。


人間の初期設定がハマるようにできている

リボにハマる心理は、意志の弱さや知識不足の問題ではない。人間の認知の初期設定そのものが、この商品に反応するようにできている。

ひとつめ、双曲割引。目先の利益を過大に、将来のコストを過小に見積もる脳の癖だ。「今月1万で済む」は具体的で、「7年後に総利息30万」は抽象的で遠い。50万円の残高を年15%・元利定額で月1万ずつ返すと、完済まで7年弱、利息の総額は30万近くに達する。月2万なら3年弱で、利息は10万強に収まる。月の支払額を少し上げるだけで総利息は大きく縮むのに、その差が目先の1万に霞む。この非対称は知能では補正されない。医師でも投資家でも、同じ神経回路を使っている。

ふたつめ、デフォルト効果。入会時に設定されたものを、人は解除しない。臓器提供の意思表示率を国別に比べた有名な研究では、オプトアウト方式のオーストリアが同意率99%超、オプトイン方式のドイツが12%程度。国民性ではなく初期値の置き方だけでこれだけ開く。「自分で選んだ」感覚があるぶん、設定されたことにすら気づかない。

みっつめ、月額フレーミング。残高=借金という認識が起きない。毎月の支払額だけが見える設計だと、脳は債務残高を勘定に入れない。サブスクの「月980円」が年11,760円を意識させないのと同じ穴だ。意志力ではなく、提示された情報しか処理できないという認知の限界。

判断力が落ちた瞬間を狙われる

よっつめが、消耗のタイミングを突かれること。

「家計が苦しい月」に「あとからリボに変更しませんか」のメールが届く。判断力が最も落ちている瞬間を狙い撃つ。余裕のある人間の平常時の判断力を前提に「情弱だから」と切り捨てる論は、この時間差を見落としている。誰でも消耗すれば判断は鈍る。

いつつめ、勝利体験による記憶の上書き。「5,000ポイントもらった」は快感として鮮明に残り、その後の月375円の利息は記憶に残らない。短期の快感と長期の損失は、記憶への刻まれ方が違う。

「賢く使えばお得」という兵器

ここからが核心だ。会社は情弱に売っていない。賢い消費者向けにパッケージングしている。

「使い方次第でお得」「上手にコントロール」「計画的なリボ活用」。この語り口は、利用者に「自分は管理できる側だ」という自己像を与える。人は自分を平均以上に有能だと思う。「情弱がハマるやつでしょ、自分は違う」と思った瞬間に、警戒が解ける。有能感を刺激して警戒を外させる。

リテラシー啓発すら養分になる。「金利を理解して使いましょう」は一見良心的だが、裏返せば「理解すれば使っていい商品」という前提を刷り込む。知識が防御ではなく参入許可証に変わる。

知識量を横軸、被害率を縦軸に取ると、逆U字が描ける。完全な無知は近寄らず、完全な理解は逃げる。山の頂点は中間の「わかった気」だ。ダニング=クルーガー効果が言う、少しの知識で自信だけが跳ね上がる帯。ここが最大の市場になる。

手元に金を残したいという錯覚

もうひとつ、需要側の深いところに流動性の錯覚がある。

リボは「今月1万だけ払えば、残りは手元に残る」ように感じさせる。だが残高は借金で、手元の現金は自分の金ではない。まだ返していない金だ。それでも脳は、口座残高が減らないことを「余裕がある」と誤認する。

まやかしだ。手元に残した10万円には年15%のコストが乗っている。10万を手元に置くために年1.5万を払っている。それなら10万を返済に回して、本当に必要になった時点で30日無利息で借り直す方が安い。生活が不安定な人ほど「手元の現金」の心理的価値は跳ね上がり、目先の流動性のために将来の高コストを飲む。消費者金融が総量規制で失った市場をリボが吸収した、その需要側の正体がこれだ。

ポイントだけ抜こうとして辞めた話

私はかつて、ポイント目的でリボを使ったことがある。

理屈はこうだ。登録して特典ポイントだけ受け取り、利息が出る前に完済すればいい。実際にやってみた。だが多くのカードは、特典を出す条件に「最低1回はリボ残高を持ち越すこと」を組み込んでいる。早く払えばポイントは付かない。ポイントを取れば利息が走る。抜け道は最初から塞がれていた。

締め日と設定を毎回図るのが面倒で、辞めた。アメックスだけは特典が破格だったので割に合ったが、それは例外だ。気づけた側でも、常に気を張る負荷という形でコストは取られる。前回書いた認知コストという見えない税は、得する側に回ってもきっちり徴収される。

サラ金のほうが御しやすい

冷静に金利を並べると、意外なことがわかる。

リボは実質15%前後。カードキャッシングは15〜18%。消費者金融は上限18%近く。金利だけ見れば、アコムがリボより安いわけではない。むしろ高いことが多い。

それでも消費者金融のほうが御しやすい。総量規制という年収3分の1の天井が効く。借金だと自覚して借りる。残高が明瞭に見える。同じ金利でも、自覚のある借金は返せる。リボは自覚を奪う設計だから返せない。

さらに、大手消費者金融には無利息期間がある。アコム、プロミス、アイフルは初回契約から30日間。レイクはWeb申込で、契約額50万円以上かつ収入証明の提出なら180日どころか365日、50万円未満でも60日という長めのプランを用意している。金額や条件は各社で違うが、短い資金需要をこの期間内に返しきれるなら、リボより明確に安い。無利息は基本初回のみで、期間を超えれば利息が走る点には注意が要るが、会社は複数ある。1社で完済し、次は別社を使えば、短期ブリッジを何度でも利息ゼロで回せる。多重申込が信用情報に残る点と、総量規制は各社合算で年収3分の1という天井は変わらない点だけ、頭に入れておけばいい。

世間はサラ金を怖がり、リボを手軽だと思っている。短期資金では逆だ。

そして業界はすでに次の場所へ動いている。BNPL、後払い決済。Paidy、メルペイスマート払い、PayPayあと払い。リボという警戒語を使わずに、同じ構造の利益を回収する新しい商品群が若年層に広がっている。

明らかに損な商品を契約する人が後を絶たないのは、利用者が愚かだからではない。目先を優先する脳の癖、初期設定を疑わない習性、残高を見せない月額表示、消耗した判断力、勝利体験の残り方、有能感の刺激、そして手元に金を残したいという錯覚。この七つを束ねて突いてくる業界と、たった一人でそれに抗う利用者の、非対称な戦いの結果だ。私がポイント狩りを辞めたのは、気づけたからではない。ただ面倒だったからだ。


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