リベルサス(セマグルチド)はなぜ認知症に効かなかったのか〜マンジャロとの差が示す3つの仮説〜
Lancet誌に掲載された2件の大規模試験、evoke・evoke+。早期アルツハイマー病患者に経口セマグルチドを投与した結果は、どちらもネガティブだった。
前回の記事でマンジャロ(チルゼパチド)の認知症予防効果について書いた。同じGLP-1受容体アゴニストなのに、なぜ片方は効いて、もう片方は効かなかったのか。
試験の中身
evoke試験の対象は、早期アルツハイマー病。MCIから軽度認知症の段階にある患者です。主要評価項目はCDR-SB(臨床的認知症評価尺度の合計スコア)。投与量は経口セマグルチド14mg、毎日服用。追跡期間は104週、約2年。
結果は両試験ともプラセボと有意差なし。
2試験合わせて3808人を登録し、40カ国566施設で実施された。対象者は全員アミロイドPET陽性が確認されている。「早期」とはいえ、脳にアミロイドβが蓄積していることが画像で証明された患者群です。この条件を満たす時点で、臨床的な印象より病態は進んでいた可能性がある。
Novo Nordiskにとってはダメージの大きい結果です。アルツハイマー病に対する経口セマグルチドの第3相試験に巨額を投じていた。結果を受けて、1年間の延長試験期間も打ち切られています。
口から飲む問題
経口GLP-1製剤のバイオアベイラビリティは極めて低い。リベルサス(経口セマグルチド)の添付文書を見ると、空腹時に120mL以下の水で服用し、30分は飲食を避けるよう指示されている。それだけ条件を整えても、吸収率は注射製剤と比較にならない。
臨床現場でこの薬を処方すると、服薬指導の煩雑さに直面します。朝食前の空腹時に、コップ半分以下の水で飲んで、30分間何も口にしない。守れる患者もいるけれど、毎朝完璧にこなせる人はそう多くない。飲み忘れや食事タイミングのズレによる吸収のばらつきは、RCTの中でも起きていたはずです。
観察研究でGLP-1受容体アゴニストの認知症リスク低下が報告されてきたのは、多くが注射製剤のデータです。2025年のJAMA Network Openのコホート研究でセマグルチドとチルゼパチドの効果が確認されたが、あちらは週1回の皮下注射が中心でした。
「セマグルチドが効かなかった」というより、「経口という投与経路が効かなかった」可能性がある。
前回の記事で紹介したNature論文のメカニズムを思い出すと、皮肉な話になります。GLP-1が腸管の迷走神経末端を刺激して脳への信号を回復させるなら、腸に留まる時間が長い経口剤の方が局所作用は強いはずです。それでも効かなかった。吸収量の問題なのか、それとも別の話なのか。答えは出ていません。
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