名誉毀損で8カ月半 立花孝志被告の勾留を条文から読む
2026年7月21日、神戸地裁が立花孝志被告の準抗告を棄却した。竹内英明元兵庫県議に対する名誉毀損罪での勾留が、8カ月を超えている。法定刑3年以下の罪でこの長さは、見慣れない。
ネット上では「人質司法」の語が飛び交う。制度批判としては筋が通っている。ただ、この一語で片づけると落ちる論点が多い。僕は条文から追ってみた。
六件の起訴事実
神戸新聞が2026年1月18日、起訴状の中身を伝えている。名誉毀損罪として問われているのは六つの内容。竹内氏が警察の取り調べを受けていたという発言、亡くなった告発者と最後に電話で話していたという演説、告発者遺族のメールを偽造したという話などだ。警察と検察は、六件が生前・死後のいずれについても犯罪の要件を満たすと判断した。
日経は起訴当日の2025年11月28日、被害者が死後の名誉毀損は適用要件が厳しく、正式な裁判で審理されるのは異例だと報じている。要件の厳しい類型で、六件が同時に立った。
生前と死後では適用条文が違う。刑法230条1項は事実の有無を問わずに成立し、真実性・真実相当性は被告人側の抗弁になる。同2項の死者に対する名誉毀損は、虚偽の事実を摘示した場合でなければ罰しない。虚偽であることの立証責任が検察側に移る。
一つの公判に、立証責任の向きが逆の争点が同居している。弁護方針も二層になった。石丸幸人弁護士が2025年11月14日にYouTubeで表明した「真実相当性は争わない」は、関係者によれば生前分についてのもので、死後分は争う可能性があると東スポが報じている。
保釈が通らない仕組み
刑訴法89条は「保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない」と定める。原則許可、例外列挙の建て付けで、除外事由は六つに限定されている。
立花氏の場合に該当しうるのは、4号の罪証隠滅のおそれと、5号の被害者・証人を加害・畏怖させるおそれ。神戸新聞も、証拠隠滅の疑いや事件関係者に危害を加えたり畏怖させたりする恐れがある場合に保釈が認められない、と説明している。
もっとも「おそれ」は抽象的では足りない。仙台高裁昭和29年3月22日決定は、公訴事実を否認したというだけでは、他に資料がない限り罪証隠滅のおそれがあるとは言えないとした。東京地裁平成22年6月22日決定は、接触禁止の条件を付ければ罪証隠滅の具体的危険は乏しいとして保釈を認めている。
地裁の保釈率は昭和40年代に50%を超えていた。平成15年に12.7%まで落ち込み、そこから緩やかに戻して令和5年で31.9%(令和6年版犯罪白書)。原則許可と書かれた条文の実態としては、なお低い水準にとどまる。
政治家の事件で保釈がいつ通ったかも、東スポが並べている。ガーシー元参院議員は初公判の2日後、つばさの党の黒川敦彦氏は初公判から1カ月後。公選法違反に問われた河井克行元法相は初公判後も勾留が続き、保釈は逮捕から約8カ月後だった。
弁当持ちの身
見落とされやすい事実がある。立花氏は執行猶予中だ。
2022年1月20日、東京地裁が懲役2年6月・執行猶予4年を言い渡した。東京高裁が支持し、2023年3月22日付で最高裁が上告を棄却して確定している。猶予期間の満了は2027年3月。
判決が認定した中身はこうだ。2019年9月、NHKの集金業務を請け負っていた会社の元社員と共謀し、業務用端末の画面に表示した受信契約者の個人情報50件を動画撮影。同年11月、一部修正を加えてYouTubeへ投稿した。一審判決は、情報を人質のように利用して業務を妨害したと指摘している。
名誉毀損は通常なら在宅・略式で罰金に終わる類型だが、執行猶予中の有罪となれば話が別になる。産経は逮捕2日後の2025年11月11日、元福岡県警本部長の田村正博・京都産業大教授のコメントとして、猶予が取り消されればより重い刑になるかもしれず罪証隠滅などの恐れがあると考えることはあり得る、と報じた。名誉毀損罪について「決して軽くはない」とも指摘している。
経過措置が効く
俗に「弁当切り」と呼ばれる手法がある。執行猶予中の再犯について控訴・上告で判決確定を引き延ばし、猶予期間の満了を待つ。満了までに新しい判決が確定しなければ、前刑の言渡しは効力を失い、執行猶予を取り消す対象そのものがなくなる。
令和7年6月1日施行の改正刑法で、これは封じられた。新刑法27条2項は、猶予期間内に犯した罪について公訴提起がされているときは期間経過後も刑の言渡しが効力を継続するとし、同4項は拘禁刑以上に処せられ執行猶予がつかない場合の取消しを必要的とする。
問題は経過措置だ。整理法448条1項は、新27条2項から6項までの規定を、執行猶予の言渡しが施行日以後にされた場合について適用する、と定めている。改正前に言い渡された執行猶予には及ばない。
理屈は追える。旧27条の下では、取り消されることなく猶予期間を経過すれば刑の言渡しが効力を失った。その前提で言い渡された執行猶予を、後から取り消せる扱いに変えれば、言い渡された側にとって不利益な変更になる。不利益不遡及だ。
ここから先は、係争中の事件について切り取られると意味が反転する内容を含む。
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