イラン攻撃6日目 頭を潰しても胴体は死なない
前の記事を書いたのは攻撃開始から72時間後だった。あれから丸2日。
攻撃は6日目に入った。収束の気配はない。むしろ、状況は拡散している。
モジタバ・ハメネイという皮肉
3月3日、イラン反体制派メディアIran Internationalが報じた。専門家会議がモジタバ・ハメネイを次期最高指導者に選出したと。56歳。故ハメネイ師の次男。選出は革命防衛隊の圧力の下で行われたとされる。
イスラエルの高官筋は「数時間以内に正式発表がある」との見通しを示した。
その前に、イスラエルは中部コムにある専門家会議の施設を空爆していた。イスラエル国防当局者は「新指導者が選出されるのを防ぎたかった」と述べた。Fox Newsによれば、攻撃時、投票の集計中だったという。施設は倒壊したと報じられている。何人の聖職者が内部にいたかは不明。
爆撃されても、選出は行われた。
そして数時間後、モジタバが米軍の攻撃で殺害されたとの報道が流れた。テヘランへの空爆。公式確認はまだ出ていない。だが複数のソースが同じことを伝えている。
父を殺し、後継者を選ぶ会議を爆撃し、それでも選ばれた息子をさらに殺した。
1979年、イスラム革命はパフラヴィ王朝の世襲君主制を打倒して成立した。「王政の否定」が革命の原点だった。その体制が、追い詰められた末に世襲に頼った。父から息子へ。革命が否定したはずのものに、最後の生命線を求めた。
その世襲すら、数時間で潰された。
モジタバは最高指導者になるべき人物ではなかった。複数の意味で。
父親がそれを望んでいなかった。Euronewsは2024年、専門家会議のメンバーの発言として「ハメネイ師は息子モジタバが最高指導者になることに反対していた」と報じている。NYTも同様の趣旨を伝えていた。Middle East Instituteは「息子を後継者に指名すれば、政治的・宗教的指導層に対立を引き起こす」と分析していた。世襲の体裁を取れば、革命の正統性そのものが揺らぐ。ハメネイ師はそれを理解していた。
宗教的な資格も足りない。最高指導者はシーア派法学の高位の学識を持つことが条件だ。モジタバはコムの神学校で教鞭を取る中位の聖職者に過ぎない。WSJは「深刻な宗教的資格を持たない」と評し、The Guardianは「聖職者の服を着てはいるが、最高指導者にふさわしい神学的地位には程遠い」と書いていた。
そして、ハメネイ師が本来の後継者として育てていたのは別の人物だった。2024年にヘリコプター事故で死亡したライシ大統領こそが「本命」だったと広く見られている。
にもかかわらず、モジタバが選ばれた。理由はひとつだ。IRGCにとって都合がいいから。
宗教的権威が弱いからこそ、IRGCに依存せざるを得ない。政治基盤を持たないからこそ、IRGCが実権を握れる。通常なら「欠点」であるものが、IRGCから見れば最大の「利点」になる。Bloombergが2026年1月に報じた調査によれば、モジタバはロンドンやドバイに海外不動産帝国を築き、制裁をかいくぐって資産を移動させていた。3億2800万ドルの暗号通貨送金にも関与したとされる。IRGCとモジタバの間には、互いの弱みを握り合い、互いに依存し合う共犯関係が成立する。
ハメネイ師の伝記作者メフディ・ハラジの言葉が的確だ。「指導力が一人に集中することはほぼ確実になくなる。次の最高指導者は大部分が儀礼的な存在になるだろう」。
名目上は聖職者がトップに立ち、IRGCが実権を握る。これはCIAが攻撃前に提示した複数のシナリオのひとつと合致する。NYTの報道によれば、CIAは「聖職者が名目上の指導者だが、IRGC内のより実利的な一派が実際に国を動かす」可能性を分析していた。
だが「実利的」であることと「協調的」であることは違う。既得権益を守るために選ばれた操り人形が、その既得権益を脅かす相手に協力するインセンティブがあるか。あるとすれば、それは「これ以上壊されたくない」という恐怖だけだ。恐怖は短期的には従順さを生む。長期的には怨恨を生む。
そのモジタバも、もう殺されたかもしれない。次は誰が座るのか。IRGCはまた別の頭を据えるだろう。そしてその頭も、狙われる。
ジハード宣言の虚と実
3月1日、ハメネイ師殺害の翌日。イランの最高位聖職者が相次いでジハードのファトワを発出した。
アヤトラ・ナーセル・マカーレム・シーラーズィー。「復讐は世界中のすべてのムスリムの宗教的義務であり、この犯罪者たちの悪を地球上から根絶せよ」。
アヤトラ・ホセイン・ヌーリー・ハメダーニー。100歳。コムで最も保守的な高位聖職者のひとり。「すべてのムスリムが、殉教した指導者の血の復讐を犯罪の実行者に対して果たすことは義務である」。
ペゼシュキアン大統領。「ハメネイ師の殺害はムスリムに対する宣戦布告だ」。
シーア派がジハードを宣言する。これは異例だ。
シーア派の伝統的な教義では、攻撃的ジハードの宣言権は隠れイマーム——9世紀に「お隠れ」になった12代目イマーム・マフディー——にしかない。マフディーが不在のこの世では、正式な攻撃的ジハードは宣言できない。これがシーア派法学の伝統的な立場だ。
しかし、ホメイニ師が革命で導入した「ヴェラーヤテ・ファギーフ」の教義がこの制約を覆した。最高指導者がイマームの「代理」として統治権を持つという理論だ。イラン・イラク戦争でもホメイニ師は「聖なる防衛」としてジハードの論理を使った。
今回は最高指導者が殺された。「防衛的ジハード」としての根拠はこれ以上なく明確だ。そしてファトワを出したのは最高指導者ではなく、コムの最高位のマルジャ(模範的法学者)たち。指導者が不在でも、高位聖職者がファトワを出すことは、シーア派の法学体系の中で一定の正統性を持つ。
だが正統性と実効性は別の話だ。
「全ムスリムの宗教的義務」とファトワは言った。世界のムスリム人口は約20億人。そのうちシーア派は10〜15%、約2〜3億人。残りの85〜90%はスンニ派だ。スンニ派にとって、コムのマルジャのファトワに宗教的拘束力はない。
ではシーア派の2〜3億人が動くのか。イラン国外の主要なシーア派人口を見る。
パキスタンに約2,000〜3,000万人。ただし総人口2億4千万の15〜20%に過ぎない少数派で、国内にスンニ派過激組織との長い対立の歴史がある。組織的な武装蜂起は現実的でない。
イラクに約2,000万人。シーア派が多数派の国だが、前の記事で書いた通り、民兵はドローン数十機が精一杯だった。イラク国民全体が「イランのためのジハード」に乗るかといえば、そうではない。
インドに約2,000万人。14億の中の1.5%。モディ政権下で組織的行動はほぼ不可能だ。
レバノンのシーア派は推定100〜150万人。ヒズボラの母体だが、戦力は5分の1まで落ちている。
バーレーン、サウジ東部、アゼルバイジャン。いずれも動く力か動く意志、あるいはその両方を欠いている。
ファトワの射程は狭い。実際に「ジハード」として現れているのは、パキスタンでの暴動(22人死亡)、バグダッドでの大使館デモ、散発的なドローン攻撃。「世界規模の聖戦」ではない。
このジハード宣言の本当の機能は「対外的な軍事動員」ではなく、「対内的な体制維持」にある。IRGCがモジタバを操り人形に据えたのと同じ論理だ。宗教的権威を最大限に利用して、「我々はまだ戦っている、体制は死んでいない」と国内に向けて叫んでいる。
ただし、一つの危険がある。
国家間の戦争は停戦交渉で終わらせられる。しかし「全ムスリムの宗教的義務としての復讐」には、署名する主体がいない。撤回するメカニズムがない。たとえ実効性が限られていても、この言葉は残り続ける。5年後、10年後、どこかの都市で誰かがこの言葉を思い出す。散発的なテロの根拠として、ファトワは時限装置のように機能し得る。
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