イラン戦争36日目─月に飛んだ日に石器時代を語った大統領
4月1日のアメリカでは、ふたつの打ち上げがあった。
ひとつはケネディ宇宙センターから。午後6時35分(東部時間)、Artemis IIが発射台を離れた。4人の宇宙飛行士が50年ぶりに月へ向かった。もうひとつはホワイトハウスから。午後9時、トランプが19分間の演説で「イランを石器時代に送り返す」と宣言した。
同じ国の、同じ日の出来事だ。
ペゼシュキアンの手紙
演説の数時間前、イランのペゼシュキアン大統領がアメリカ国民宛の公開書簡を出した。
「イラン国民は他国の人々に敵意を抱いていない。アメリカの人々に対しても、ヨーロッパに対しても」「あなたがたの政府の"America First"は、本当に国民のための政策なのか」「政治的レトリックの向こう側を見てほしい」。
NYTは「外交の扉を開けておく意図」、The Hillは「停戦の糸口を残す書簡」と読んだ。
ただし同じ日に、イランのミサイルがカタールのタンカーに命中し、クウェートの空港燃料タンクが燃え、イスラエルにクラスター弾が落ちている。「近隣国を攻撃しない」と書かれた書簡と、クウェート空港の炎上映像。言葉と弾頭が同時に飛ぶ戦争だ。
19分の空砲
午後9時。Operation Epic Fury開始から36日目にして、初めてのホワイトハウスからの国民向け演説だった。
トランプの主張はこうだ。核心的な戦略目標は完了に近づいている。イランのミサイル能力は事実上壊滅した。今後2〜3週間、極めて激しく攻撃する。石器時代に戻す。撤退後も必要なら"spot hits"で再攻撃する。アメリカはかつてないほど勝っている。仕上げに入る。
APの総括は手厳しい。「新しい情報はほぼなかった」。
19分間で触れなかったものを並べた方が早い。終了日。地上部隊の投入計画。濃縮ウランの回収。そして外交交渉。数日前まで「前向きな対話が進んでいる」と自ら言っていたはずの交渉について、一言もなかった。イラン側は一貫して交渉の存在そのものを否定している。
ガソリン4ドル超には触れた。「短期的な上昇だ」と。経済対策の発表はない。代わりに朝鮮戦争とベトナム戦争を引き合いに出し、「子どもたちと孫たちの未来への真の投資だ」と締めくくった。
NATOという単語は一度も出なかった。数日前までTruth SocialでNATO離脱を示唆し、英仏を名指しで罵っていたのに。言い回しだけ変えた。「ホルムズ海峡を通じて石油を受け取っている国々は、その航路を自分で引き受けなければならない」「遅れた勇気を奮い起こせ」「海峡に行って、獲れ。難しい部分は終わった。簡単なはずだ」。名前がなくても宛先はわかる。日本も含まれる。
Politicoの読みはこうだ。「"I came, I saw, I conquered"を言いたかった。NATOとの喧嘩は勝利の絵柄に合わない」。APは別の角度を示した。サウジとUAEが「イランはまだ十分弱っていない、もっと叩け」とトランプに迫っている。湾岸の声は、NATOの沈黙より重い。
朝は最高裁、夜は戦争
演説だけの日ではなかった。
午前中、トランプは連邦最高裁に足を運んだ。出生地主義(birthright citizenship)をめぐる口頭弁論の傍聴だ。現職大統領が最高裁の口頭弁論に出席した記録は、合衆国史上ない。
朝に司法の場へ現れ、夜に議会を通さない戦争の継続を宣言する。APは「行政権力の異例な一日」と書いた。三権の境界線が、一人の大統領の動線の中で溶けていく。その異様さに対して、翌日の報道は驚くほど淡白だった。
「石器時代」への返答
トランプが演説を終えて数時間。イラン統合司令部が声明を出した。「より壊滅的、より広範、より破壊的な行動をとる」。アミール・ハータミー元国防相は踏み込んだ。「敵軍の兵士が地上侵攻を試みた場合、一人も生還させない」。Iran Internationalが伝えた。
言葉だけでは終わらなかった。
Artemis IIが地球軌道を離れ月への遷移軌道に入った頃、地上では逆方向のことが起きていた。4月2日未明、イランはイスラエル中部へ少なくとも4回のミサイル斉射を行った。一部にクラスター弾頭。ブネイ・ブラクの住居ビルが被弾し、乳児2人を含む14人が負傷した。前回記事で触れた11歳少女の重体、40歳女性の死亡に続く、クラスター弾による二度目の市街地攻撃だ。
ヒズボラも連動した。北部イスラエルへ50発以上のロケット。2人が負傷。
湾岸への攻撃も止まらない。NPRによれば、バグダッドの米大使館が安全警報を発令。NYTはバスラ沖で石油タンカー2隻が攻撃を受けたと伝えた。
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