裁判官マップは病院口コミと同じ道をたどるか
「裁判官マップ」というサービスが公開された。全国の裁判官約2515人の所属・経歴を一覧でき、匿名で口コミを投稿できる。公開数日で460件超の口コミが集まったらしい。
開発したのは田中一哉弁護士。インターネット上の誹謗中傷問題を専門にしている。
きっかけ
弁護士ドットコムニュースのインタビューで、田中弁護士が開発のきっかけを語っている。
田中弁護士はGoogleマップの口コミに関する名誉毀損訴訟を担当していた。東京高裁はこう判断した。「Googleマップの口コミは、投稿した個人の主観的な事実の認識、評価を示すものと理解されており、閲覧者において、直ちに投稿された事実や評価を信用するというものではない」。請求は棄却された。
この判決を読んで「それなら裁判官の口コミサイトを作ったらどうだろう」と思った。田中弁護士はそう述べている。
生成AIを使い、一人で開発を始めて約1ヶ月。「Claude Code」で開発し、Next.jsとSQLiteで構築したという。
病院の口コミで起きていること
Googleマップの病院口コミがどうなっているか。
2024年、全国の医師約60名がGoogleに対して集団訴訟を起こした。事実と異なる中傷が放置されているという訴えだった。2025年には東京高裁が歯科医院への口コミで名誉毀損を認定している。勝訴しても投稿者の特定にかかる調査費で赤字になる。そういう報道も出ている。
病院の口コミには構造的な偏りがある。治療に満足した人はわざわざ書かない。書くのは不満を持った人だ。そして医師には守秘義務がある。「この患者さんにはこういう理由でこの方針を選んだ」とは言えない。評価される側に、反論の手段がない。
Googleは巨大企業で、モデレーション体制もある。それでもこの状態になっている。
反論できない構造
裁判官マップの構造は、病院の口コミと似ている。
裁判では必ず一方が不利な結果を受ける。敗訴した当事者が感情的に書く動機は十分ある。裁判官は判決文で判断理由を示すのが仕事であって、口コミサイトで弁明する立場にない。個別の案件について公に説明することは職業倫理上できない。
病院の口コミには返信機能がある。守秘義務で実質使えないとはいえ、仕組みとしては存在する。裁判官マップには、それすらない。評価される側が反論する仕組みが、設計上存在しない。
田中弁護士は「建設的な口コミは、司法の質の向上に寄与する可能性がある」と言う。投稿ガイドラインで虚偽や侮辱的表現は禁止しているとも。
ガイドラインで防げるなら、病院の口コミはとっくに健全になっている。
460件の速度
公開5日で460件。1日あたり90件以上のペースになる。
冷静に訴訟指揮の傾向を分析した建設的なフィードバックが、このペースで集まるものだろうか。初期に飛びつくのは、溜まっていた不満を吐き出したい人だと考えるほうが自然だと思う。病院の口コミでも、開設直後に低評価が集中する現象はよく知られている。
口伝えと匿名投稿
田中弁護士自身がこう認めている。裁判官の訴訟指揮に関する情報は「一部の弁護士の間で口伝えされるだけ」だった、と。
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