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MLBロックアウトはなぜ起きるのか〜1994年の型紙と2027年〜

MLBの現行労使協定は、2026年12月1日23時59分(米東部時間)に失効する。合意がなければ、その瞬間からロックアウトが始まる。争点はサラリーキャップ。1994年と同じだ。

以下、記述は8月16日時点のものである。


ロックアウトとは何か

ストライキは労働者が仕事を止める。ロックアウトは使用者が労働者を締め出す。試合が消えるという結果は同じでも、仕掛ける側が逆になる。

なぜオーナー側が先手を打つのか。時期を自分で選べるからだ。シーズン中に選手会がストライキを打てば、放映権料も入場料もグッズも一斉に止まる。1994年の8月がまさにそれだった。逆にオフの入口で締め出してしまえば、そもそも売る試合がない時期なので損害はほとんど出ない。開幕までの数か月を、まるごと交渉の圧力に変えられる。マンフレッド・コミッショナーが過去にロックアウトを肯定的に語っているのも、この時間の使い方を指してのことだ。

締め出しが始まると、40人枠に入っている選手と球団のあいだで一切の取引が止まる。FA契約、トレード、故障者のリハビリ、球団施設の利用、コーチとの連絡。日本からのポスティングも例外ではない。2021年12月のロックアウトでは、公式サイトから選手の顔写真が消えて影絵に差し替えられた。組合員である選手を球団の宣伝に使えなくなるからだ。

一方でマイナー契約の選手は組合員ではないため、そちらのキャンプは動く。1995年にオーナー側が代替選手をかき集められたのも、この線引きがあったからである。

止まっているあいだ、選手に給与は出ない。ただしオフシーズンは元から無給の期間なので、痛みが出るのは春先からになる。だから両者にとっての実質的な締切は、12月1日ではなく3月に来る。

九度の衝突

MLBの労使史は、1966年にマービン・ミラーが選手会の専従トップに就いて以降、オーナー側が仕掛けて選手会が押し返す反復だった。

九度。半世紀で九度である。

注目すべきは失われた試合の欄だ。1972年の86試合も1981年の713試合も、日程には戻らなかった。両年ともその不揃いなままで順位が決まっている。対して1985年、1990年、2022年はいずれも日程を組み直して162試合を守り抜いた。消えた試合が出たかどうかが、その紛争がどこまで行ったかの物差しになる。

1975年12月の裁定

制度の背骨をつくったのはサイツ裁定だった。アンディ・メッサースミスとデーブ・マクナリーが契約書にサインしないまま1975年シーズンに臨み、保留条項の永続性を仲裁人ピーター・サイツに否定させた。翌1976年のロックアウトを経て「メジャー在籍6年でFA」という枠が決まる。

このとき制度を動かしたのは訴訟ではなく、二人の個人的な判断だった。メッサースミスは未契約のまま一年間投げ切っている。マクナリーはシーズン途中で引退し、それでも申立人として名前を残すことを選んだ。現役の身分と収入を賭けた選択で、失敗すれば復帰の保証もない。今の選手会が72人の執行委員会で議決を重ねる姿と比べると、始まりの形はずいぶん違う。

以後50年、この6年は動いていない。2021年の交渉でもMLB側は「6年FAは1976年にマービン・ミラーが最初に合意したもの」と、制度の古さを盾に守りに回った。選手会が今回そこに手をかけているのは、半世紀ぶりの正面攻撃になる。

その間、オーナー側が真正面から勝った例はほとんどない。1985年から87年の共謀は仲裁で完敗し、2億8000万ドルの和解金を払わされた。

1994年に起きたこと

来年を読む型紙はここにある。

選手会が8月12日にストライキへ入り、9月14日にワールドシリーズの中止が決まった。1904年以来90年ぶりだった。12月、オーナー側は「交渉は行き詰まった」と宣言してサラリーキャップを一方的に実施する。米国労働法では、誠実交渉を尽くした末に行き詰まりが認定されれば、使用者は最終提案を単独で実施できるからだ。

年が明けると、オーナー側はマイナー契約の選手や引退した選手をかき集め、代替選手でキャンプとオープン戦を強行した。開幕を代替選手で迎える構えを見せることで、選手会に復帰を迫る狙いだった。ボルティモアのピーター・アンジェロス・オーナーだけがこれを拒み、カル・リプケンの連続試合出場記録が偽物の試合で途切れることを避けている。デトロイトではスパーキー・アンダーソン監督が代替選手の指揮を拒んだ。球団から無給の休職扱いとされ、およそ15万ドルの給与を失っている。公然と拒否したメジャーの監督は彼だけだった。

選手会は不当労働行為として争い、全米労働関係委員会が差止命令を請求した。1995年3月31日、ニューヨーク南部地区連邦地裁のソニア・ソトマイヨール判事がこれを認容する。後の最高裁判事である。選手は復帰し、開幕は4月25日、144試合に短縮された。

負けた。

放映権も観客動員も長く傷ついた。この記憶は、オーナー側にも選手会にも残っている。

今回は何が違うか

オーナー側は1994年以来はじめてキャップを提案している。マンフレッド・コミッショナーは6月のオーナー会議後、競争均衡税で戦力均衡に対処しようとして失敗したと認めなければならない、という趣旨を語った。上限のないリーグはNFL・NBA・NHLと並べて野球だけである、という論法だ。

1994年と異なる点が三つある。

一つ目。オーナー側は譲歩材料を積んでいる。ドジャースなど高収益球団に地方テレビ収入の全額共有を求める内容が入っており(現行は48%)、大市場球団も痛みを負う設計になっている。最低年俸は78万ドルから100万ドルへの引き上げを提案した。金持ちが搾取しているという単純な世論の構図を、あらかじめ崩しにかかっている。

ただし、その48%という数字の重みは以前ほどではない。地域スポーツ局の経営破綻で、地方放映権そのものが収入基盤として崩れつつあるからだ。共有比率を100%に引き上げると言っても、分母が縮んでいる。譲歩の見た目と実際の痛みは、必ずしも一致しない。

二つ目。選手会の指揮系統が揺れている。トニー・クラークが2月17日に辞任した。内部調査で2023年に組合が雇用した義理の妹との不適切な関係が判明し、加えてニューヨーク東部地区連邦検察による組合財務の捜査も進行中だった。翌18日、ブルース・マイヤーが暫定専務理事に選出される。2018年入職、コロナ期の交渉と99日ロックアウト後の2022年協定をまとめた実務家ではあるが、肩書きには暫定がつく。1994年のドナルド・フェア体制とは事情が違う。

三つ目。それでも選手会は動いていない。マイヤーはキャップを競争しないための言い訳と呼び、どの球団も競争する資力はあって多くが競争しないことを選んでいるだけだと述べた。下限のみ設けて上限は不要という立場は変わっていない。対案として、小規模市場の全球団に年間2億4000万ドルの収入保証を含む収益分配の拡大を示している。

三月までに何が起きるか

2021年12月2日未明に始まったロックアウトは99日で終わった。開幕を1週間遅らせただけで、162試合は守られている。楽観論の根拠はここにあるのだが、日程を見ると余裕はほとんどなかった。批准は2022年3月10日、開幕は4月7日。間は28日しかなく、キャンプに充てられたのは21日である。逆算すれば、162試合を守れる着地の物理的な期限は3月中旬に来る。

見るべき所は三つだと思っている。

11月のオーナー会議。CBA失効の数日前に予定されている。1994年も2021年も、ロックアウトは30球団の全会一致で始まった。キャップ導入で失うものが最も大きいドジャース・ヤンキース・メッツあたりが割れれば、話は動く。

行き詰まり宣言を打つかどうか。キャップを本気で通すなら、オーナー側は最終的に1994年と同じ道を通る必要がある。前回それで敗れている以上、法務的な積み上げは相当慎重になるはずだ。協定が失効しても、新協定か誠実交渉を経た行き詰まりに至るまでは現状維持が続くのが原則で、MLBが現状維持を望まないからこそロックアウトという手段を選ぶ、という整理もある。裏を返せば、12月1日の時点で合意が近ければロックアウトを先送りする余地もある。

そして細目の積み上げ。争点の大半はキャップや収益分配のような大玉ではない。報じられている項目には、ルール5ドラフトの資格加速、オールスター期間に降格された投手の資格年数と年俸保護、球団が収集した非独占的データや映像への全選手のアクセス権といったものが並ぶ。地味な話ばかりだ。1990年も2022年も、大玉で殴り合いながらこうした細部で信頼を積んで着地した。

12月1日のロックアウトはほぼ確実と見ていい。2027年の試合が消えるかどうかは別の話で、僕は五分と見ている。競技としての人気が上向いている今、キャップと引き換えに試合を消す代償はリーグ側も払いたくないはずだ。

ただ、オーナー側が「今回勝てなければ二度と機会はない」と考えている可能性は残る。1990年型(開幕遅延で収束)に着地するか、1994年型(焦土戦)になるか。分岐はそこにある。


追記・一ファンとしての私見

以下は分析ではなく、阪神ファンとしての感想になる。8月16日時点の情報による。

佐藤輝明のポスティングは今オフ見送りという方向が、週刊誌ベースだが出てきた。理由については二説ある。代理人サイドがロックアウトを見越して来オフへ切り替えたという筋と、阪神が容認しない姿勢を見て2027年オフ以降に照準を移したという筋だ。どちらも裏は取れていない。ただ、ポスティングの交渉期間45日が12月1日で凍結され、解除後に残り日数で再開する仕組みを考えれば、前者の話に筋が通ることはたしかである。鈴木誠也は2021年から22年にかけてこれを経験し、決着は3月までもつれた。

それに、新協定で移籍FAの契約年数や金額に上限が入るなら、中身が確定してから市場に出たほうがいい。1年待って28歳。外野もサードも守れる長打力の左打者なら、まだ十分に売れる年齢だ。

球団側にも待つ理由がある。才木浩人は2024年オフに直訴して認められず、昨オフも実現しなかったと報じられている。海外FA権の取得は最短で2030年、32歳になる。投打の柱を同時に流出させる球団はないとして、順番を決めるのは球団の温情ではなく、この年齢の切迫度のほうだろう。

立石正広は5月19日に1軍へ上がり、巨人戦で14打数7安打5打点と暴れたあと、16打席連続無安打を挟んで6月に降格した。7月18日に再昇格したものの27打数5安打で、8月9日にまた抹消されている。今季32試合、打率.198。素材は疑いようがないが、来季いきなり三塁を任せるのは酷だ。

今オフ才木、来オフ佐藤輝、その後に森下翔太。角が立たない配列としてはそのあたりに落ち着くのだろうと思う。譲渡金は契約総額に応じた段階制で、8000万ドル規模なら20億円前後が球団に入る。2029年オフの海外FAまで抱えれば、入るのはゼロ円。球団も出す前提で時期を計っているはずだ。

一つ引っかかることがある。高橋遥人が今季、登板間隔を丁寧に空けた運用で結果を出していることだ。国内では正しい起用だが、中4日で162試合を回す向こうのリーグでは、それが評価の減点材料になる。才木のイニング数不足も同じ話で、日本の故障明け投手は米側の査定でどうしても割り引かれる。新協定で移籍FAの契約年数に上限がかかるなら、その割引はもう一段効く。

その上で、優勝して送り出すのが一番きれいだと思っている。今年は打撃3部門で上位を走る主砲がいて、トミー・ジョン明けの高橋が開幕から白星を積み、2月に左アキレス腱を断裂した石井大智が今季中の復帰を目指してリハビリを進めている。石井は昨季、50試合連続無失点というプロ野球記録を作った投手だ。従来の記録は平良海馬の39試合だった。

まずは今年、アレを獲ってほしい。


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