京大論文改ざん事件 告発者が職を失い、不正した側が教授になった
2026年3月31日、京都大学が研究不正の調査結果を公表した。この日、京大が同時に発表した不正認定は3件——生命科学研究科の小田裕香子教授、理学研究科の元特定研究員、医学部附属病院の元准教授だ。論文計10編以上、不正認定箇所は累計20点を超える。
3件すべてに、同じ定型句が並んでいた。「研究の進展への影響は低い」。
各メディアの扱いは小さかった。3件まとめての公表は、結果として一つひとつへの注目を分散させる効果を持った。これが意図された手順かどうかは分からない。だが少なくとも、もっとも矮小化された判定で押し通された案件があった。生命科学研究科・小田裕香子教授の事案である。
科学ジャーナリストの須田桃子氏による調査報道(SlowNews、全3回)を読んで、これは見過ごせないと思った。
何が起きたか
2021年、小田氏は助教として「JIP」と名付けたペプチドに関する論文を米科学誌Science Advancesに発表した。上皮細胞の接着を誘導するという内容で、がんや炎症への応用が期待されるとして高く評価された。
その後、小田氏は飛躍する。翌年3月には優れた女性研究者に贈られる「京都大学たちばな賞」を受賞。4月にはiPS細胞研究所(CiRA)の准教授に昇進し、研究代表者として獲得した競争的研究費は総額約2億8000万円に上る。科研費、AMED、JSTなど、いずれも税金が原資の公的資金だ。「成果」が改ざんで作られた可能性がある以上、配分プロセス自体の検証責任も問われる。
2023年12月、小田氏の研究室に在籍していた博士研究員A氏が、京大の公正調査監査室にJIP論文の疑義を通報した。A氏はJIP論文の共著者でもあった。
「JIP自体が凝集するだけで、細胞間接着が形成された結果は得られなかった」。複数回の追試を試みたが再現できず、マウス実験のデータに不審な削除も見つかった。共著者として、気づいた以上はそのままにしておけなかったという。
時系列が示すもの
通報前の2023年10月10日、A氏は別の研究員も同席の場で小田氏に問題を伝えた。
小田氏は一部の不備を認めながらも、「Aさんはラボを潰したいですか」と発言。「あなたは自分がしたいことをすればいいじゃないですか。少額であれば研究させてあげますよ」と告げたという。
翌日から、小田氏はA氏と一切のコミュニケーションを断った。
A氏が2023年12月に正式通報すると、京大は約1ヶ月の予備調査を経て、2024年3月29日に本調査を開始した。
その2日後の4月1日、小田氏はCiRAの准教授から生命科学研究科の教授に昇進した。任期制から無期雇用への栄転だ。
そして通報から約3ヶ月後の2024年2月末、A氏はCiRAの事務スタッフから雇い止めの通知を受けた。「小田先生の異動に伴い予算規模が縮小するため」という説明だった。
その間、A氏が取り組んでいた研究プロジェクトは事前の相談もなく別の研究員に引き継がれ、机と椅子だけの隔離スペースでの勤務を提案されていた。日本企業のいわゆる「追い出し部屋」と機能的に同型のやり方が、国立大学の研究機関でも使われたということになる。
A氏は2024年6月末にCiRAを退職した。
以下は、確認できた事実に基づく構造的な考察。事実と推測を区別しながら書く。
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