応接間という失われた空間〜今の若者は知らない昭和の部屋〜
実家を思い返すと、あの部屋が浮かんできます。
応接間です。
リビングとは明確に区別された、来客専用の特別な空間でした。
消えた応接間という文化
今の住宅を見渡しても、応接間という部屋は見当たりません。
リビングがその役割を引き継いでいるのでしょうが、あくまで別物です。
リビングは家族の日常空間であり、応接間のような格式や緊張感はありません。
ふと気になったのですが、今の若い世代は小説で「応接間」という言葉を読んでも、具体的なイメージが湧かないのではないでしょうか。
彼らにとっては、もはや歴史の教科書に出てくる「床の間」と同じくらい遠い存在なのかもしれません。
応接間の風景
あったんです、昔は。家に来客を迎え入れるための専用の部屋が。
そこには豪華なソファーとテーブルが鎮座していました。重厚な革張りか、ビロード地のクッション。座るとやや硬めで、子供の頃は落ち着かなかった記憶があります。
棚には洋酒の瓶が並び、百科事典や美術書が背表紙を見せていました。読むためではなく、飾るための本です。
テーブルの上にはシガーケースが置かれ、中には葉巻が数本。父が吸うわけでもないのに、なぜかそこにありました。おそらく来客に勧めるためのものだったのでしょう。灰皿も当然のように常設されていて、タバコを吸わない家庭でも応接間には灰皿があった時代でした。
カーテンも分厚く、昼間でも少し薄暗い雰囲気。その暗さが妙に威厳を醸し出していました。普段は誰も使わない部屋なのに、いつも掃除が行き届いていて、ホコリ一つない状態に保たれていたのも印象的です。
リビング中心の現代住宅
今の住宅設計を見ると、リビングが家の中心になっています。家族が集まり、テレビを見て、食事をして、時には来客も同じ空間で迎える。効率的で合理的な空間利用です。
でも応接間には、効率とは別の価値がありました。非日常性と格式です。子供が勝手に入ってはいけない雰囲気があり、父の会社関係者や親戚の偉い人が来た時だけ使われる特別な場所でした。
おそらく高度経済成長期の名残なのでしょう。家に応接間があることが、ある種のステータスだった時代です。サラリーマンが出世して一戸建てを建てる際、応接間は必須の間取りだったのかもしれません。
世代を超えられない言葉
これは明らかな世代間ギャップです。
今の20代に「実家に応接間あった?」と聞いても、ほとんどが首を傾げるでしょう。彼らが生まれた頃には、すでに応接間という概念自体が消えかけていました。あったとしても、物置か趣味の部屋に転用されていたはずです。
小説や映画で「応接間」という言葉が出てきても、若い世代はイメージできないまま読み飛ばしているかもしれません。それは私たちが時代劇の「納戸」や「土間」を何となくしか理解していないのと同じことです。
住空間の変化は、生活様式だけでなく言葉も奪っていきます。応接間という言葉が辞書の中だけの存在になる日も、そう遠くないのかもしれません。
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