「カート・ヴォネガット」600字のコラム
Laughter and tears are both responses to frustration and exhaustion. I myself
prefer to laugh, since there is less cleaning up to do afterward.
Kurt Vonnegut
笑いと涙はどちらも挫けたりくたびれはてた心地の表れです。わたしには、後始末が少なくてすむ分、笑いのほうが好ましい。
カート・ヴォネガット
団塊世代にとってはおそらく懐かしいアメリカの作家、カート・ヴォネガットが亡くなった。追悼記事に添えられた顔写真が思いの外やつれているので、こちらも少々暗い気分で本人のホームページを開いたところ、扉が開いた蛻の殻の鳥籠が画面にポンと現れた。
ヴォネガットは芸術家を炭鉱夫が坑内に連れてゆく籠の鳥に例えたことがある。世の中の空気はこのところ汚れるばかり、ほうっておくと大変なことになりますよと、ずいぶん前から囀りつづけてきたカナリアはとうとう遠い所へ飛び去った。空っぽの鳥籠は淋しく見えそうなものなのに、すっと心が軽くなり、おもわず微笑んだ。
ナチスの捕虜となり、収容所でドレスデンの大爆撃に遭遇したヴォネガットは、その体験を描いた『スローターハウス5』(1969年刊)で名を成した。虚実とりまぜ、ユーモアたっぷりに展開する物語は、米語のリズム、抑揚を巧みに活かして、読む者の心を弾ませた。
生真面目は野暮と思ったにちがいないヴォネガットのことばなら、もっと楽しいのもありそうだが、これも捨てがたい。I say in speeches that a plausible mission of artists is to make people appreciate being alive at least a little bit. I am then asked if I know of any artists who pulled that off. I reply, 'The Beatles did'. ("Timequake",1997 ) 。あなたもそうですよ、ヴォネガットさん。
(2007年6月3日)
