研究職が知財を武器にできる本当の話 ーAI時代、"資格より先"に求められる力を、ベテラン20人に聞いてきたー
「AIに、知財の仕事は奪われるんやろか」
2026年に入って、知財の現場に生成AIが一気に入ってきた。先行技術の特許調査も、明細書のたたき台づくりも、AIがあっという間にこなす。じゃあ、研究職や知財を目指すわたしたちの出番は、減っていくのか。
半年前のわたしなら、この問いにうまく答えられなかった。でも今は、はっきり言える。
去年、わたしはJIPA(日本知的財産協会)の懇親会で、200人の中にたった一人で飛び込んで、20人のベテランに同じことを聞いて回った。「研究職が知財に行くなら、まず何が必要ですか」と。
その答えが、AI時代の今、むしろ重みを増している。今日はそんな話をします。
この記事で分かること
・弁理士資格より先に、知財の現場で本当に求められる力
・生成AIで特許調査をやってみた、わたしのいまの一次体験
・知財検定2級の勉強では学べなかった、実務の生々しい話
弁理士資格より先に、20人が口を揃えた「たった一つ」
(この章で分かること:知財の現場で本当に問われるのは、資格じゃないという話)
「知財って、弁理士資格がないと無理ですよね?」
知財に興味があると言うと、必ず返ってくる質問。わたしもずっと、そう思い込んでいた。
でも、JIPAの懇親会で20人のベテランに聞いて回って、その思い込みが消えた。
全員が、判で押したように同じことを言った。
「スキルは後から学べる。先に要るのは、コミュニケーション力と、自発性や」
正直、拍子抜けした。
(資格の名前が、一人の口からも出てこなかった)
知財の働き方は、大きく三つある。特許事務所、企業の知財部、そして知財コンサル。このうち「弁理士資格が前提」になるのは、代理人として手続きを担う場面だ。
けれど、研究職の経験を武器に企業の知財部で動くなら、資格は入口の条件やない。先に問われるのは、発明者と話せる力と、自分から動ける姿勢のほうだった。

AIが特許を読む時代に、その言葉の価値が「上がった」理由
(この章で分かること:生成AIが普及するほど、人間に残る力がくっきりする)
あれから半年。知財の現場に、生成AIが当たり前に入ってきた。調べる、書く、要約する。AIがどんどん片づけていく。
じゃあ、20人の言葉は古びたのか。
逆だった。
AIが「調べる・書く」を引き受けるほど、人間に残るのは「発明者から話を引き出す力」と、「その内容を経営層に伝わる言葉へ翻訳する力」になっていった。
ある精密機器メーカーのセンター長がこう話していた。
「発明を掘り出すのは、人間の仕事」と。
AI時代の今、その言葉が的中していた。
わたし自身、弁理士の先生に「どう出願すれば、この技術を守りやすいか」を相談し、「もっとこういう情報はありませんか」と問われて、自分でも気づいていなかった中身を引き出してもらった経験がある。あの、対話を重ねて情報を掘り起こすプロセスは、AIには代われない。
便利な道具が増えるほど、最後に効くのは人と人の対話。半年前に20人が言った「コミュ力と自発性」は、賞味期限が切れるどころか、価値が上がっていた。

生成AIで特許調査をやってみて分かった「コツ」と、特許庁APIへの挑戦
(この章で分かること:生成AIで特許を読むときの落とし穴と、わたしがいま試している工夫)
ここからは、わたしの「今まさに」の一次体験。
生成AIで特許調査をやってみて、いちばんの強みは「時間短縮」だと感じた。読み込みも整理も、明らかに速い。
ただ、すぐに壁にぶつかった。汎用の生成AIは、J-PlatPat(特許庁の無料検索データベース)から直接、特許情報を拾ってこられない。J-PlatPatはブラウザの画面からしか操作できへん設計だから。かろうじてGoogle Patentsの情報は拾えるけれど、それも全部を網羅できるわけやない。検索のかけ方次第で、拾える情報がごっそり変わる。
そこで知ったのが、特許庁が試行提供している「特許情報取得API」だった。出願番号をキーに、出願の経過情報などをデータの形で機械的に取ってこられる仕組みで、個人の私的な調査でも利用登録ができる。わたしはこれを申請して、調査をもっと効率化できないか、今いろいろ試している最中です。
ただし、過度な期待は禁物。このAPIはまだ試行段階で、取れる情報は経過情報が中心。1回のアクセスで分かるのは出願番号1件ぶんの情報で、アクセス回数にも上限がある。仕様や利用登録の窓口は変わることがあるので、使いたい人はぜひ特許庁のサイトで最新の状況を確認して見てください。
つまり、AIを使えば何でも拾える、という話ではない。何をAIに任せて、何を自分の目で押さえるか。その線引きこそが、これからの特許調査のコツになる。
(このあたりの実践は、もう少し形になったら、別の記事でじっくりまとめたい)

知財検定2級では学べなかった「日付管理」と、"選ぶ"知財の話
(この章で分かること:教材と現場のズレ、そして目指したい知財部の姿)
知的財産管理技能検定2級の勉強をしてきて、基礎の法律はしっかり身についた。でも、現場はやっぱり別物やった。
いちばん効いたのは、「日付管理」の感覚だ。
ある展示会の1ヶ月ほど前、わたしは初めて知った。
発明を出願する前に展示会で公開してしまうと、原則その発明は新規性を失って、特許が取れなくなる。
救済する「新規性喪失の例外」という制度(特許法30条)はある。けれど、出願と同時に願書へその旨を書き、出願日から30日以内に証明書を出す——といったように、手続きがとにかく厳しい。
一つでも抜ければ、権利を永久に失う。しかも海外では、そもそもこの例外が認められない国のほうが多い。
あのときは、弁理士の先生が機転を利かせて、期限に間に合うよう出願書類を整えてくださった。背筋が冷えたような気分でした。
それ以来、どの作業をいつまでに終えるかを自分で把握して、日程をぜんぶ先生任せにしないようにした。実務では、弁理士の先生を通して出願するぶん、教材に書かれた日程よりも余裕を持った期限が引かれる。だから出願や書類の依頼が来たら、できるだけ早く返す。それが、いつのまにか癖になっていました。
この「自分から動く」感覚は、20人が言うていた自発性と、まっすぐ地続きだった。
そして、こうも思うようになった。
同じ知財でも、ただ与えられた業務をこなすだけの部署と、集めた情報で経営の方針にまで踏み込める部署がある。
わたしが選びたいのは、後者だ。部員一人ひとりが自分から外と交わり、自ら情報を拾ってくる。そんな知財部でこそ、研究職で培った技術の目は、本物の武器になる。
研究職を続けるか辞めるかの、二択じゃない
(この章で分かること:知財は、研究職を辞める人にも続ける人にも効く武器だという話)
ここまで読んで、「つまり研究職を辞めて知財に行け」という話だと受け取られたら、それは少し違う。
特許を読めること自体が、研究職を続ける人にも、別の道へ進む人にも、武器になる。
自分の技術を守るためにも、他人の権利をうっかり侵さないためにも、技術者は知財を知っておいたほうがいい。わたしが知財を学びたいと思った出発点も、もともとはそこだった。
技術者として生きていくなら、技術を扱う「知的財産」という土俵を、まず自分の足で踏んでおくべきです。
JIPAのあの夜、一人のベテランがこう言ってくれた。
「その姿勢で来てくれたら、どこの知財部も喜びますよ」
あの一言を、わたしは今も覚えている。
最後に、一つだけ。来週は、知的財産管理技能検定2級の試験に全力を注ぐため、記事の更新をお休みします。ここまで積み上げてきたものを、ぜんぶ出し切ってきます。
資格でも、AIでもなく、自分から動ける力。半年前のあの夜から、わたしの中の思い込みは、確かに消えた。
だから、もう一度この問いに答えて、筆を置きます。
「AIに、知財の仕事は奪われるんやろか」
——わたしは、奪われないと信じている。
💬 研究職として働いてきた中で「知財を意識した」と感じた瞬間、
あるいは「もっと早く知っておけばよかった」と思ったことがあれば
ぜひコメントで教えてください。
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